(うしとらのとら)
鬱陶しそうに髪を撫で付ける『ヤツ』。
人間だった時の記憶なんざ殆ど残っちゃいねえだろうに、今の髪の長さに違和感があるのか、歩く度に揺れる、腰下まである黒髪が気になるらしい。
絡まる程の長さのそれだが、絹糸みてぇに細ッこくて、わしが手で梳いても引っかかりもねえ。
バケモノという存在になった癖に、人間の頃とまるで変わらねえ、邪気のない瞳で、わしを見る。
「……なんでェ」
「ねえとら。私、本当に妖になったの?」
「またそれかよ」
コイツは、まだ自分が人ならざるモノになったという自覚が薄い。
もっとも、姿形は人間の頃と寸分変わらんから、無理もねェか。
今は殆ど消えちまってるヒトの頃の記憶。
それでもわしを覚えていて、共に時間を過ごす毎に、ヒトの頃の記憶を引き戻すコイツ。
今は覚えちゃいねえ、人間だった頃の名前も、そのうち思い出すに違いない。
わしは、それを待ってる自分に呆れながら、ヤツの髪をぐしゃっと撫で付けた。
「わ、とらっ」
「早くテメェの名前を思い出せよ。そうしたら、わしがちゃんと名を呼んでやる」
「思い出すまで、呼んでくれないの?」
無言で肯定してやると、残念そうに肩を竦めた。
※何を思ったか、唐突にざーっと書いてみました。
お題夢の、うしとら流れ。ヒロインの最終的に行き着く場所はバケモノです…ね、コレ見ると。