呪縛と刻印




 トリス達がゼラムから旅立って‥‥といっても、出たり入ったりしているので、戻ってこなくなって、と言う事になるが。
 聖女‥‥らしい少女、アメルを訪ね、彼女を狙って変な団体さんが村を襲い、逃げてきてから暫くして、彼らは出て行った。
 その間、はギブソン、ミモザ邸にはおらず、ずっと蒼の派閥本部の方に厄介になっていた為、状況を詳しくは知らないのだが、聞くかぎりでは相当の苦労をしていた様子。
 間が悪く、手伝えなかったのが心残りだが、彼らは各々目的を持って、旅に出た。
 とにかく、トリスやマグナ、ネスと一切の交流を絶ってから、暫くの時間が過ぎていた。

「おい、ニンゲン。」
「なぁに?」
 静かな図書室で、護衛召喚獣、バルレルが実に不機嫌そうに眉根を寄せて話しかけた。
「‥‥毎日毎日毎日本ばっかり読みやがって。他にする事ねぇのかよ!」
「バルレル暇なんだ。」
「ケッ!!あたりめーだ!」
 サプレスの悪魔‥‥しかも、結構な高位悪魔だったようなバルレル。
 ゆったり時間を過ごすなんて、彼の中には存在し得ない時間なのだろう。
 サプレスの世界は、裏切りが渦巻く世界だと聞くし。
「まあ、気持ちは分かるけど。私だって、本当はトリス達と一緒に、旅に出たかったし。」
 でも、と言いながら、召喚術の基礎本を閉じた。
「やるべき事をやらなきゃ。術暴走させられないしね。」
 バルレルは、溜息をつきつつ、頷いた。
 彼にしては珍しく素直な反応だった。


 その日、一通りの知識を詰め込んだは、ギブソン・ミモザ邸で久々に休息を取る事にした。
 夕日は沈みかかり、オレンジ色の光が闇へと飲み込まれていくのを目にしながら、繁華街へ寄り道して、家への一本道をたどる。
 ‥‥と、見慣れない男性が、道の木の下でこちらをじっと見ていた。
「‥‥。」
 は、なんだか不思議な‥‥いや、不快な感覚をもよおしつつ、その人の横を通りかかろうとした。
 バルレルは、何故かその男を睨みつけている。
「君、私に何かご用ですか?」
 銀の長髪の男は、バルレルに微笑みながら声をかけた。
 その声を聞いて、何故か背筋に寒気が走る
 あった事もない人に対して、実に失礼な反応だと思い、たたずまいを直した。
「す、すみません‥‥ウチの友達が失礼を。」
 が、バルレルの隣にちょこんと気をつけをし、頭を下げる。
 当人は、睨みを効かせたままだ。
 片手で、友達とか言うなという精一杯の拒絶もしつつ。
「いいえ、いいんですよ。‥‥私はレイム、といいます。旅の吟遊詩人なのですよ。」
「そうですか。私は‥‥一応、召喚師、です。」
 召喚師といえる立場ではないのだが、とりあえずそう言っておく。
 ただの街人です、と言うには、隣にいる護衛召喚獣が実に白々しい。
 誰がどう見たって、バルレルはサプレスの悪魔だし。
さん‥‥いいお名前ですね。ところで、貴方はトリスさんとマグナさんとはご友人でしたよね?」
「‥‥どうして知ってるんです?」
 知らないはずの事を言われ、一気に身構える。
 それを見てレイムが、おどけたように肩をすくめた。
「彼女たちから聞いたんです。ちょっと、ご縁がありましてね。」
「あ、それで‥‥。」
 無駄な杞憂だったと、体の力を抜く‥‥つもりだったのだが、どうもおかしい。
 このレイムという男から、隠し切れない”悪意”のようなものがにじみ出ている気がして‥‥。
 しかもそれは、かつてバノッサに取り憑いた悪魔のような感じで。
 ‥‥気のせいだろうと、無理矢理自分を納得させる。
「今、彼女たちは何処へいったか知ってますか?」
「ファナンにいるみたいですね。私はあちこちフラフラしているので、詳しい状況は分からないですが‥‥。」
「そうですか‥‥。」
「おい、ニンゲン、さっさと帰ろうぜ。」
 バルレルが引っ張るのに気付いて、まわりを見渡すと、もうかなり暗くなってしまっていた。
「レイムさん、ごめんなさい。もう帰らないと。」
「ええ、有意義な時間を過ごせました。またお会いしたいですね。」
 すっと、握手を求められ、思わず握りかえす。
 バルレルが、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「それじゃ。」
「ええ‥‥またお会いしましょう、さん、バルレル君。」
 二人は、まるで逃げるようにして立ち去った。
 その姿を見ていたレイムの後ろから、1人の男が出てくる。
 召喚師風の姿。
 ‥‥だが、生きている人間とは思えないほどの顔色の悪さ。
 男は、ゆっくりとレイムにお辞儀をした。
「レイム様、あの娘ですか?」
「そう、彼女が例の娘だ。」
 先程握手した方の手を、じっと見つめる。
「凄いですね、あの子は‥‥。少々手を触れただけで、感じる事ができる、魔力‥‥。サプレスの力があの体に留まっている。」
「ですが、少々邪魔な存在ではありませんか?」
「ガレアノ。」
 ガレアノと呼ばれた召喚師風の男は、レイムの顔を見る。
 実に、嬉しそうな‥‥子供がいたずらを考えついた時のような表情。
 こんな顔をする時は、何かを決めた時だった。
 それも、人間にしてみたら、よくないだろう事を。
「確かに、今は邪魔な存在ですね…。
 時がくるまで、できれば眠っていて欲しい力です。」
「では‥‥。」
「彼女に‥‥いや、彼女の力に、眠っていてもらいましょう。ガレアノ‥‥お願いしますね。」
 人の良さそうな笑みを浮かべ、立ち去るレイムに、ガレアノはゆっくりお辞儀をし、その場から掻き消えた。




‥‥久々に書いたら、設計もなにもあったもんじゃないって‥‥;;
更新ペースは見事なほどに乱れてますね‥‥。
あれこれやってると、どうしても‥‥ゴメンなさい〜!!
ゆーーーっくりやってきます。はい。

2002・4・3

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