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携帯から小説

※逆転裁判4・ニット

甘くはないと思われる。
続き

「……君は随分とオドロキ君に構うよね」
 質問のような独白のような成歩堂の言葉。
 珍しく王泥喜がとっちらかした書類(普段はきちんとするから、余程慌てていたのだろう)を片付けていたまりあは、ソファでくつろいでいる成歩堂を見やり、首を傾げた。
「またいきなりどうしたの?」
 彼の突飛な発言は、再会してからは珍しいものではなかった。むしろ毎度のこと、ぐらいの認識になっていたが、今回はそこに少しだけ違和感を感じた。
 ――なんだか怒気混じり。
 まりあは、みぬきと王泥喜を送り出してから今までのことを考える。
 ……彼の機嫌を損ねるようなことはしていない。多分。 特別、王泥喜にかまった覚えもない。
「私、フツーだと思うんだけど」
「君が、彼の書類を片付ける必要なんてないだろう」
「これも仕事だし。昔、龍一さんが放った書類を、私が片付けてたのと一緒だよ」
「一緒に調査に行って、遅くなったからって外食したり」「オドロキ君、凄くお腹鳴らしてたし」
 それで? と促す成歩堂の笑顔が逆に怖い。
 王泥喜がいたら、なんて爽やかなんだと言うかも知れない。だがまりあは彼の表情の裏側にあるものを感じ、引きつった。
「や、その……いいじゃない。前ここにいた時と同じことしてるだけでしょ」
「全然違う」
 どこが、と尋ねる前に
「僕のためじゃない」
 彼が先んじて言った。
 まりあは目を瞬き成歩堂を見やる。
 彼の視線は真っ直ぐで、冗談を言っている風ではない。
 真実、心からの発言らしい。
 まりあは溜め息をついた。
「いくらなんでもあんまりだよ。龍一さんがいるから、私も頑張ってるのに」
 彼がいる場所だから、ここを保つために働く王泥喜の手伝いをする。
 王泥喜を補助することはつまり、成歩堂の力になることだとまりあは思っているから。
 でなければ、好き好んで片付けなんかしない。
 仕事をふたつ掛け持ちして、自身を疲弊させたりしない。
「まりあ、ありがとう。……うん、でも僕は子供だから君が彼の面倒をかいがいしくみると、駄々をこねたくなるんだ」
 子供って自分で言うし。
「私より年上なのに……」
「僕の不機嫌を治すために、ちょっと協力してよ」
「……なに」
「ほっぺにチュー」

 今こそ王泥喜を召喚するべきだと思った。
 いつの間にやらソファから立ち上がり、近付いて来る成歩堂。
 逃げたらまた後がヒドいと知っている。
 ……一度ぐらい、今の彼を言い負かしたいと思うまりあだった。