ネットに上がれないので、付け焼き刃で此方から。
ということで、リンク、アイク、マルスの雑談。
乱闘の拠点になっている城には、たいていの物が揃っている。
個々が生活するのに必要な物は当然として、大浴場だの水泳場だの、娯楽施設など。
大型機械の格納庫まである。
そんな場所だが、ないものもある。
例えば、今リンクが飲んでいる、トアル産初摘み茶などだ。
マリアが村に帰った際に摘んできたから、こうしてリンクは故郷の味に浸れる。
彼女自身は、今はゼルダと一緒にタッグマッチ中でここにはいない。
「少し苦味があるけど、美味しいお茶だね」
カップを手にして、向かいでテーブルについているマルスが感想を述べる。
リンクが同じく斜め向かいにいるアイクに目をやると、
「……茶はよく分からん」
普段と変わらぬ仏頂面のまま、呟いた。
それを聞いてマルスが失笑した。
「無理に分かった振りをするお偉方より、ずっといいね」
「褒めたのか? それとも逆か?」
「勿論、前者だよ」
アイクは軽く鼻を鳴らし、また一口、飲んだ。
乱戦のない時は、こうして集まってお茶をすることがしばしばある。
しかし、こう男ばかりで茶というのはどうなんだろう。
マリアをゼルダに奪われなければ、ここに居たはずなのだが。
「そういえば、リンクの弓ってマリアのと同じものかい?」
リンクは首を振る。
「いや、彼女のはダークのお手製」
ダークと言って彼らが理解出来るのは、彼もまたここで乱闘することがあるからだ。
ダークリンク、という名前でエントリーされるのを、当人はかなり腹立たしく思っている様子。
かといって、こちらに当たり散らされるのは納得がいかないけれど。
余計なことに頭を回らせるリンクを他所に、マルスは溜め息をつく。
「凄い腕だよね」
「弓?」
「それだけじゃなくて、全体的に。弓は自由自在だし、下手に近づくと短剣で吹っ飛ばされるしさ」
アイクが同意し、頷く。
「……以前より強くなっているな」
「個人もだけど、僕としてはリンクとマリアのタッグ程厄介なものはないなあ」
「なんで」
「腹が立つことに、異様に息がピッタリだからさ。アイクもそう思うだろ?」
「確かに、やりづらい、な」
他人からはそう評価されるのか。
言われてみると、自分とマリアが組んだ時の勝率はかなり良い方に分類されるだろう。
贔屓目ではなく。
「まあ……それなりに長く一緒にいるし、互いに癖も解ってるし。ただ俺というより、マリアと剣士とのタッグが厄介なんじゃないか?」
アイクとだと、威力がある代わりに多少速度に不安のあるアイクの隙を、マリアが器用に埋める。
マルスとだと、二人とも物凄く攻撃が素早くて思い切り惑わされる。
メタナイトとだと、マリアの弓に気を取られている間に、メタナイトが滑空してきたりとか。
トゥーンリンクとは、まだ組んでいないようなので分からないが。
マルスは空っぽになったカップに茶を淹れようとし、ポットの方にも入っていないと気づいたらしい。
自分で淹れに行く気は、更々ないようだ。さすが王子。
「マリアって人に合わせるの、上手いよね」
「独りだと、腕力不足は否めんがな……」
「そりゃあ女の子だし。ゼルダみたいに魔力はないのかな」
魔力。
確かに腕力不足を補えるかも知れないが……。
「持ってはいるよ。ただ、マリアのは扱いが難しいみたいだ」
乱闘でも、彼女が使うのは小さな力ばかり。
それだって常人からしたら、恐ろしい物だけれども。
アイクが何かに気づいたように、眉を潜める。
「もしかして、時々マリアの弓の軌道や速度に強烈な変化があるのは」
「よく気づいたね。あれがマリアの力だよ。主には時間を操ってるらしい」
「……時間か」
「詳しくは俺も知らないんだ。ゼルダみたいに光の魔力を使ったりも一応できるけど、それは一度しか見てない。あ、それは乱闘じゃなくて俺たちの世界でだな。凄い強烈だった」
ちなみにそれを思い切り喰らったのは、ガノンドロフだ。
リンクの話にアイクが唸る。
「……その光の力と対峙してみたいな」
「マリアも望んで使えてるんじゃないみたいだな、あれは。感情が昂った時……とか。制限がある上に、使うと普通以上に疲れるみたいで」
「そう、か」
「なんだか勿体ないね」
マルスが呟くと同時に、部屋の入り口が開いた。
全員がそちらを向く。
「あ、リンクいた」
「マリア」
「乱闘忘れてる? お呼びがかかってたのに」
「え!」
見忘れか見落としだ。
慌てて立ち上がる。
「誰と?」
「私とリンクとゼルダとガノン」
「……因縁臭い面子だな」
マリアはマルスとアイクに手を振って、先に部屋を出た。
リンクも片付けを頼んで、退出する。
「やっぱりいいよな、マリア……」
マルスは何に対してか微笑む。
示しあわせたわけでもなく、残された二人は、立ち上がった。
茶器を侍女に片付けてもらいながら、ふとマルスが呟く。
「マリアがアリティアになったら、リンクはどう出るかな」
アイクは片眉を上げる。
「どういう意味だ」
「そのままの意味さ。よくない? マリア・アリティアって」
「全然よくないな」
「そう? でもなって欲しいんだよ。そしたら……」
不服そうな顔のマルスを意に介した様子もなく、アイクは彼を見返した。
「ならん」
「なんで君がそんなこと」
アイクは表情を変えぬまま、
「それは、俺が全力で阻止する」
言い、先に部屋を出た。
残ったマルスは少しばかり面食らっていたが、ややあって口角を上げる。
「……ふうん。我関せずなのは表面だけ、か」