※マルスと夢主。会ってすぐぐらい?
甘くもない。
「初めまして、マリアです」
思えば、自分の執着は初めて出会った時から、既に始まっていたような気がする。
「……どうして部屋があるのに、こんな所で眠っているんだ君は」
城に程近い森。
その樹の根元に寄りかかって眠っているマリアの姿に、マルスは呆れ混じりに微笑んだ。
彼女は、マルスが側に来たことにも全く気づいていない。
警戒心がなさすぎるかとも思うが、ここには脅威となる者などない。咎め立てるのは行き過ぎだろう。
外で昼寝はマルスの趣味ではないが、確かに気持ちのよい場所ではある。
彼女のように、眠りたくなる者も在るだろう。
マルスは彼女の横にそっと腰を下ろしながら、寝息を立てているマリアをしげしげと眺めた。
決して美少女ではない。
赤色混じりの髪も、目蓋の下にある青い瞳も、ごく平均的。
人懐っこい笑みが警戒心を鈍らせるが、特筆する箇所はその程度だろう。
『その程度』と表した割に、マルスは自分が、思いの外彼女を気にしていると知っていた。
そもそも気にしてないなら、マリアを見つけたからとて、こんな風に彼女の傍らな居たりはしないだろう。
地べたに座れば、服が汚れるし。
「暇だし、起こそうかな」
「……んぅ、やだ」
ぽつり、呟かれて起きたのかとまたマリアの顔を見る。
「……寝言で否定された」
マルスは手で口を抑えながらクスクス笑い、息を吐いた。
面白い子だなあ。
そういえばマリアは、初対面で自分がいきなり気のある素振りを見せても、何ら反応しなかった。
こういってはなんだが、マルスは自分の見目を理解している。
多少の我が儘は難なく通せる外見。
もし、マリアに無茶を言ってみたら、どういう反応をするだろう。
普通の子なら赤くなりながらも喜ぶ類の無理を、試してみたら。 ……逆に、全力で嫌われたりして。
「いや、嫌われるのは嫌だなあ」
マルスは苦笑し、瞳を閉じる。 眠った子の近くにいるからだろうか、少し眠気があって。
「……趣味じゃないんだけどなあ」
その後、肩を寄せあって眠る二人を見つけたピーチが彼らを起こすまで、しばらくの間そのままだった。