※夢主メイン。
暗い風味なので注意
ユーリちょっと出てます。
人の、骨の砕ける音が、手にした棍を伝わって来る。
名も知らぬ誰かは、その口から絶叫を迸らせていて、けれども彼女は追撃の手を止めたりはしない。
地面に倒れ込むその人の頭部と喉を打つ。あまり苦しまないで欲しいと願いながら。
その人は帝国に忠誠を誓う誰かだ。
悪政を敷き、民を苦しめる王に従う誰かだ。
善きにしろ悪きにしろ、信念に基づいて行動していたはずの誰かだ。
もしかしたら、徴兵から逃れきれなかった、不幸な誰かかも知れない。
それでも、目の前に害意を持つ存在として現れたなら、することは一つしかない。
自分が骸と化すか。
相手が骸と化すか。
二者択一。
感情を磨滅させて、戦乱の中を駆ける。
いつかこの行為を罰せられたとしても、戦いを止めるわけにはいかない。
レンが解放軍の命運を負うようにまた、自分も人の命を担っているのだから。
死んでしまったら終わりだ。
真の紋章と等しいそれを身に宿していようとも、不死ではない。
だから最後の一瞬までも抗うべきだ。
レンと共に生きると、決めたのだから。
「マリア?」
ふいに声をかけられ、マリアははっとした。
声をかけてきたのが誰か、一瞬判別がつかなくなる。
誰にも気取らぬよう、舌打ちした。
気を抜きすぎている。
今は旅をしていないとはいえ、緊張はあって然るべきだ。いつ、何が起こるか分からないのだから。
「マリア、どうしたんだ?」
再度声をかける少年――眞魔国魔王、ユーリ陛下を見、微笑む。
「なんでもないよ、ごめんね、ぼうっとして」
彼は何かを言いたげな表情だったが、結局、追及染みた何かは口にしはしなかった。
「今日は暖かいな」
「そうだね」
あまり、この暖かな世界に浸からないようにしなくては。
――私の本質は旅人であり兵士なのだから。