蘇るネタ。茜ちゃんとダベる話とかも書きたいなあ…4で。
もうむしろなんも書いてないときは、全部成歩堂ってことで。
真宵がいなくなってから、2ヶ月が経った。
成歩堂法律事務所は、以前よりずっと――何もなかった頃と比べれば――依頼人の数が増えていた。
新人だが、いくつかの大きな仕事を、しかも逆転劇で勝訴した成歩堂。本人が思うより、世間に周知されているらしい。
それは、弁護士事務所を営む者にとって喜ぶべきことだ。
検事と違って、弁護士は所謂自営業。依頼が舞い込んで来なければ、収入はゼロなのだから。
しかし成歩堂はそれらの仕事を、少なくとも法廷に立たねばならない案件に関しては、端から蹴っ飛ばしていた。
大きな訴訟ではないから、なんていう馬鹿げた理由で依頼を受けない訳ではない。
本人曰く、
『特に理由はない』
そうだが、断られた方はたまったものではないだろう。
法廷に立つこと以外の仕事は、それなりにしている。
だから、かつかつながらも事務所として機能しているし、まりあもお給料を貰えているわけだが。「……ってもなあ、いつまでもじゃあ」
まりあは滅多に使われないデスクをふきながら、軽くため息をついた。
彼がどうしたいのかが分かればいいのに。
「親戚ったって、所詮こんなもんだよね……なるほど君の心の中が分かるでもないし」
この分では、真宵ほどの支えになれているわけでもなさそうだ。 いっそ自分の方が霊媒修行に行けばよかったかも知れない。……全く意味がないが。
そんなことを考えつつ、掃除を終える。
何か飲むかと給湯室に入り、棚にあるインスタントコーヒーを取り出した。
「あぁ……中身ないし」
飲みきってしまっていた。
仕方なく電話を留守電にし、まりあはカバンを持って近場の店へと走った。
まりあが買い物から戻って来ると、成歩堂がやれやれといった感じで、外出用のカバンを手にしていた。
彼の側には、見知らぬ――どこか真宵に似た――女の子。
「なるほど君?」
「まりあちゃん、お帰り。……実は、この子の依頼を受けることになってさ」
宝月茜。
彼女の姉を弁護するという依頼を受けた成歩堂。
まりあは、彼の調査に同行しながら、なんとなく変な気分がしていた。
日中の調査を終え、事務所で事実関係と見聞きしたことを整理している成歩堂にコーヒーをだしながら、まりあは呟く。
「そんなに会いたいなら、ちょっと休んで行ってくればいいのに……」
「何が?」
聞こえないほどの独白だったつもりが、存外、大きな声だったらしい。
書面から視線を外した彼の目は、こちらを向いている。
「だからさ、真宵ちゃんのとこに」
「……? ごめん、話が見えない」
「だからさ、茜ちゃんに真宵ちゃんを、なんていうか投影して、今回久しぶりに弁護を受けたわけでしょ?」
そこまで気にするなら、いっそ綾里の里に行ってくればいいんだ。
そうしたら、依頼を断り続けることもなかったかも。
言うまりあに、成歩堂は目を瞬く。
なんでそういう結論になるのか、分からないといった顔だ。
「いや……確かに真宵や千尋さんに似てはいるけど……うん、まあ確かにそれは理由の一端だけど」 成歩堂は持っていたペンを置き、まりあをじいと見る。
「けど、なんでそれが真宵ちゃんに会いに行くことと繋がるの?」
「だって……人様に照らすぐらい気にしてるし。なんていうの? ええと、恋い焦がれてる?」
「……なんか物凄いこと言ってるね。誤解を招くから止めて欲しいんだけど」
だって、と続けようとしたまりあを、成歩堂は手で制した。
苦笑しながら肩をすくめる。
「ごめん。ぼくが依頼を受けないから、心配かけちゃってたんだね」
「そりゃ心配するさ。親戚だし」 親戚というフレーズに、成歩堂がため息をつく。まりあは気づかなかったが。
「私が代わりに霊媒修行行ってたら、なるほど君、もっと元気だったかなあとか、考えちゃうわけですよ」
笑いながら言うまりあ。
成歩堂は
「……行かせなかったと思うよ、君なら」
喉の奥で呟いた。
まりあは首を捻る。
「なんか言った?」
「あ、いや、別に……。とにかく、ぼくはまりあちゃんがいてくれて助かってるんだから、変なこと考えないでくれよ」
「……ん、分かった」
イマイチ釈然としなさげな顔だが、とりあえずは納得したらしい。
「私、コーヒー淹れてくる。まだ残業でしょ?」
「まりあちゃんは帰っても」
「いーえ! なるほど君の手伝いするよ!」
まずは紅茶と給湯室に向かうまりあ。
「……まったく」
その背中を眺め、成歩堂は微笑む。
裁判は厳しいものになりそうだが、彼女が手助けしてくれるというだけで、多少、心のシコリが消えて失せる。
「分かりやすいな、ぼく……。親戚、か」
ありがたくも悲しい響きだと思いながら、成歩堂は調書に視線を落とした。