逆裁3終了ぐらいの時期。
案外長い…?
ホムペ載せな時は手直しするかと。
全文が見えないから今一掴みきれん。
※サイコ・ロック
「ちょっとした疑問なんだけどさ……」
卸したての紅茶をカップに入れながら、まりあはソファに腰掛けている成歩堂の後ろ頭に訊く。
「なるほど君はさ、嘘をついてる人と対面すると、サイコ・ロックが見えるじゃない?」
「うん、そうだね」
軽く体をこちらに向けながら、成歩堂は頷く。
「吐麗美庵で勾玉なくした時、店内でならロック見えてたんだよね。てことは、持ってなくてもある範囲までは能力が発揮される」
「……まあ、そういうことだよね」
「けどさあ、一緒にいた私とか真宵ちゃんとかには見えてなかった。なんで?」
どことなく不満の表情を浮かべ、まりあは成歩堂に紅茶ポットを差し出す。
彼はそれを受け取って硝子テーブルに置いた。
「そんなこと言われても……僕は勾玉を使ってるだけだしなあ。春美ちゃんに聞いてみれば? けど、なんでいきなり」
「……なるほど君ばっかり狡いと思うの」
「は?」
彼は言われた意味が分からないのか、間の抜けた顔(失礼だが)をしてまりあを見やる。
彼女は続ける。
「なるほど君は私が嘘吐くとすぐに突っ込み入れてくるじゃない。なのに私は貴方の嘘を視覚できない。これって狡いよ、不公平だよ」
例えそれが仕事で使うものだとしても、やっぱり狡いと思う。
成歩堂に、一方的に『能力』でやりこめられるなんて。
「……っていうのは建前でして」
「建前かよ」
「どんな感じなのか、見てみたいんだよね。勾玉使った時の感じ」
結局、ただの好奇心。
申し訳ないと笑うまりあ。成歩堂は苦笑し、ポケットから勾玉を取り出し、まりあに握らせる。
ほんのりと暖かなそれ。
「……ああそっか、誰かが嘘つかないとダメなんだ」
言い、まりあは成歩堂をじっと見る。
現在、事務所にいるのは2人だけ。彼に嘘をついてもらうしかない。
「なるほど君、なんか嘘ついてよ」
「えぇ!? 急に言われてもな……」
確かに、唐突に嘘をつけと言われても困るだろう。
まりあは考え、ふいに質問をぶつけた。
結構、まじめに。
「なるほど君は、私のこと好き?」
「な、なん……!」
赤面する成歩堂。答えを促すまりあ。
彼は当たり前だろうと横向く。
「じゃあ、いつから?」
「そ、そうだなあ。告白する…い、一か月ぐらい前かな」
途端、世界の明度が下がったような錯覚に囚われた。
否、実際に周囲が暗い。成歩堂意外、目に入らないほど。
じゃらじゃらと、何処からともなく現れた鈍色の鎖と朱色の錠。
それらが彼を守るように取り巻いている。
これが、勾玉の力。
「うわ……確かに慣れないとクラクラする……!」
空間感覚がオカシイ。
視覚する全体の雰囲気が明らかに普通ではない。
「いつもは僕が使ってるから意識しないけど……勾玉の力を使われると、確かに周りの空気が変わるな」
成歩堂が呟く。
まりあは軽く目を閉じ、開いた。
瞬間、成歩堂が息を呑む。
彼女の瞳に心を鷲掴みにでもされたみたいに。
「なるほど君。一ヶ月前ってのに勾玉が反応したってことは、それは嘘だよね」
「そ、そうなるね」
「ほんとは?」
彼は黙する。
「……まさか、告白するちょっと前とか?」
「違うよ!」
彼の発言に、錠はなんの反応も示さない。先程まで嘘に鳴動するかのように震えていた鎖は、今は沈黙している。
少し前ではないのは、本当。
「まりあちゃん、もう、勘弁して欲しいなあ……」
「そんなに隠したいの? 私言えるのに。……私はねえ、なるほど君が記憶喪失になっても、私のこと忘れないでいてくれた時かなあ」
「モロヘイヤの事件の時か?」
頭をガツンとやられて、公判が大変なことになりかかった(なった)事件だ。
成歩堂は自分の立場や名前は完璧に忘れていたが、何故だかまりあの名前と存在は忘れていなかった。
まりあはその時、彼が己の名前さえ忘れているのに、『まりあ』という名を忘れないでいてくれたことに、凄く感動した。
多分それがきっかけだ。
はっきり意識するには、もう少し事件がかかったけれど。
言うまりあの顔を見ながら、成歩堂は口元を手で隠し、頬を染めている。
「ニヤニヤしてるし……」
「いや、だって……知らなかったし」
「フェアに行こうよなるほど君。答えてくれるよね?」
彼は少し詰まったが、まりあの真っ直ぐな視線に負けたのか、肩を落として額に手をやる。
「……だよ」
「?」
「君がぼくの事務所に来た一週間後だよ!」
自白したと同時に、錠がぱりんと割れ砕ける。
ついでに成歩堂を取り巻いていた鎖が消えた。
証拠をつきつけて解除したのではないから、達成感的なものがない。
ただ、まりあにその辺を気にしている余裕はなかった。
成歩堂の発言のせいで。
「……お、思ったより、っていうかむしろ予想外な程早い……」
「ぼくだって驚いたんだ。過去が過去だけに、そういうのにはかなり抵抗感があったし。けど……」
顔を上げた成歩堂の手が、まりあの手を握る。
妙に熱いのは彼のせいか。自分のせいか。
「……学習しないと思われるかも知れないけど、殆ど一目惚れに近い状態だったと思う。今考えると、ね」
「……も、もういいデス。聞いてるこっちが恥ずかしい」
成歩堂は口端を上げ、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「君が知りたがったんだろ」
「うわ、悪い顔」
「自業自得。君が可愛いのが悪い」
「い、異議あり! 意味わかんない! そんなの言われたこともない! 可愛いってのは真宵ちゃんみたいな……」
「まりあちゃんの寝顔とか真剣な顔とかちょっとした仕草とか、可愛いのが悪いんだよ。ぼくが惚れっぽいんじゃない」
「うわぁぁあ! もういい! マジで止めてぇ!」
二人で真っ赤になりながら、変な言い合いをしていると、事務所のドアが開いた。
真宵と春美がびっくりした顔でこちらを見ている。
「ケンカしてるの?」
「まあ! なるほどくんっ、まりあさんをイジめてはなりません!」
「いやいやいや! ぼくは別に」
まりあは乱入者に感謝しながら、握ったままだった勾玉を成歩堂に返す。
もう、使いたいと言うまい。
まりあの場合、どちらが追い詰められているか分かったものではないから。
「で、なんでケンカしてたの?」
「だからケンカじゃないって!」