たとえ相手が子供でも




「……なあダーク。俺って狭量なのか」
「心が広いとは言えないだろうがな」
「じゃあお前は平気なんだな? あれ」
「…………黙れ」

 リンクとダークは、一種近寄りがたい雰囲気を放ちながら、視線の先にいるとタロを見つめていた。
 男2人が雁首を揃えて不機嫌を振りまいている図は、好まれるものとは言えないだろう。
 そんなこと、今の彼らにはお構いなしだったけれど。
 一通りの仕事が終わった午後の入り。
 と撃ち合わせをしていたリンクは、突然のタロの訪問でを奪われてしまった。
 曰く『おいらに弓を教えてくれよ!』だ。
 元々、頼まれるとなかなか嫌とは言えないリンクだし、まして相手は子供だ。
 仕方なくをタロに譲ったのだが。
「タロのヤツ……完全に独り占めだ」
「わざわざ口にするな。腹立たしさが増す」
 タロにしてみたら、姉に甘えるような感覚なのだろう。
 おいらは立派な戦士なんだからなと言いながら、に抱きついたり、じゃれついたり。
 その都度、リンクとダークの機嫌が下降していく。
 大人気ない。
 分かっているが、こればかりはどうにもならない。

「俺、実は凄い嫉妬深いのか……」
「少しは抑えることを学ぶんだな」
「じゃあお前は嫉妬しないんだな?」
「…………黙れ」

 は最初、タロ用に弓を作ったほうがいいから、また後で練習しようと言っていた。
 しかし当のタロが、どうしてもの弓がいいと言い張り、結局彼女の愛具で練習している。
 当たり前のことだが、大きさが全然合わない。
 子供たちの中では力があるとはいえ、タロは決して豪腕ではない。
 弦を引ききれるはずもなく、矢は失速して地面に刺さるばかりだ。
 それでも、タロのしたいようにと付き合うの姿は、彼の姉のようでもあるし、リンクのような年の離れた少年が嫉妬するのも、おかしな話かも知れない。
 ――でも独り占めされてるのは、気分悪いんだよな。
 時間があるのなら、自分だってと話したい。
 指先を触れさせたい。
 彼女はこちらの気持ちを、少なからず知っている。
 それなのにイリアを気にして、最後まで言わせてはくれないから。
 態度で伝えていくしか、方法がないのに。
 ――邪魔しないでくれよタロ。俺だっての側に居たいんだ。
「ダーク。俺たちも訓練するか」
「悶々とを見ているのも、疲れるしな」
「よし、やろう」
 リンクは家に戻り、すぐに自分とダークの剣――真剣ではなく木刀――を持って戻る。
 間合いを取って構えると、
「あー、2人で練習?」
 が声をかけてきた。
 仕方なくいったん剣を下ろす。
「だってはタロに付きっきりだしさ」
「オレたちは、お前に構ってもらえないみたいだからな」
 鼻先を鳴らしつつ言うダーク。
 だって、と肩をすくめて苦笑いするの裾を、タロが軽く引いている。
「なあ、もっと教えてくれよ!」
「んー……ねえタロ、ちょっと休憩しようよ」
「えー!」
 明らかに不満そうな顔のタロ。彼女は頭を軽く撫でてやる。
 リンクはそれを、少し羨ましい思いで見た。
 別にに頭を撫でられたい訳ではないけれど。
「分かったよ。もうちょっとだけね。リンクもダークも、あんまり無茶苦茶しちゃだめだよ?」
 勢い余って、柵を切りつけたりしないでよねと言われ、リンクは頷いた。
 前科があるだけに、反論もできない。
「リンク、いくぞ」
「ああ」
 かつっ、と刃を合わせ――訓練を始めた。



 打ち合いををすること暫し。
 本気でやりあって、少しばかりの疲れを感じてきた頃に、やっとタロがを開放した。
 それと同時にリンクたちも立ち合いを止める。
「じゃあな! また付き合ってくよな!!」
 嬉しそうに手を振って、村のほうへと戻っていくタロ。
 むやみに明るい少年に、リンクは息を吐く。その『また』がかなり先だといい。
 タロが見えなくなってから、は大きく息を吐いて肩を回した。
「あー、疲れたー。人に教えるのとか得意じゃないのに」
「だったら断れ」
 にべもなく言うダーク。
 自分には、あれほどはっきり言えないだろう。
 は失笑する。
「そんなこと言ったって頼まれたら……ね、ほら、……たまにはと思って」
「たまに、が多すぎる」
「ちょっとリンクー、なんかダークが機嫌悪いよ」
「悪いけど、俺も機嫌は良くない」
 わざとむっつりした顔を作るリンクに不安を感じたのか、彼女は彼の服の裾を引く。
「リンク? 怒ってる??」
「…………冗談だよ。そんな不安そうな顔しなくていいから」
 あからさまにホッとした様子で、彼女は表情を綻ばせた。
 ――カワイイよなあ、ほんとに。
 今までの苛々が、自分に向けられる笑顔ひとつで解けていく。
 魔法みたいだ。
、油断するなよ。こいつ、実は嫉妬の塊だからな」
 皮肉を含んだダークの発言に、
「ダークこそ、人のことは言えないだろう」
 リンクが切り返す。
 言い争いをはじめそうな勢いの2人を止めたのは、のくしゃみだった。
 鼻を軽く鳴らし、苦笑する。
「ご、ごめん。ちょっと冷えたみたい」
「まだ暑いっていっても、もうそろそろ秋の入りだからな。汗をかいたままだと風邪を引く」
「リンクたちも家に入ったほうがいいよ、かなり動いてたし」
 そうだなと頷き、リンクはの頬に触れようとする。
 ダークがその手を引っ叩いて落とした。
「痛いな」
「お前ばかりべたべたするな」
「なんだよ」
「……もういいから、2人とも家入りなってば」






2013・10・20