もう少し側に



 別に、意図してそうしているつもりは全くない。
 だからダークに「わざとか?」と聞かれるまで、自分がそういう行動を起こしていることに、は気づいていなかった。
「わざとって、何が」
 牧場近くの畑に水をやりながら、はダークに訪ねる。
 彼は仕切り柵に寄りかかり、顎ですぐそこに見える川の畔を示した。
 リンクとイリアが、ダークとのも含めた昼食を準備している。
 水やりが終わったら、彼らと食事だ。
「だから、リンクとイリアが一緒にいると、普段以上にオレに構うだろう?」
「えー、そんなことないよ」
 いつも通りだよと言いながら、作業を終わらせる。
 道具箱に使ったものを放り込み、軽く息を吐いた。
「さて、と。それじゃあお昼にしようか!」
「……まあ、いいけどな」



 イリアが作ったサンドイッチを頬張りながら、はダークにお茶の入ったカップを手渡す。
 彼はそれを受け取り、無言で口をつけた。
 これがリンクだったら、ありがとうのひとつもある所だが、あってもなくてもは気にしない。
 逐一お礼を貰わなければ不快だと思うほど、狭量ではないつもりだし、この方がダークらしいと思うから。
 とダークの向かい側にはリンクとイリアがいる。
 幼馴染だけあって、一緒にいることに自然さを感じるし、相手が何を求めているのかも分かっているような感じがした。
「ねえ、最近あなたから見て、エポナは大事にされている?」
「なんだよイリア、いきなり……」
 リンクが不満げに口を挟む。
 イリアは全く無視して、に微笑んだ。
「どうかしら」
「そうだね。エポナ元気だし……リンク優しくしてるよ? ね、ダーク」
 話題を振る。
 ダークは鼻先を鳴らし、
「知らん」
 きっぱり言った。
 オレの知ったことではない的な態度は、少し尊敬すべき所かも知れない。
 全部が全部そうなのは、非常に不味いけれども。

 リンクに服を引っ張られる。
 なあにと言いながら、は気づいた――リンクから距離を取ろうとしている自分に。
 心の距離じゃない。物理的な距離。
 ダークが言った通りだと、今更ながら理解する。
 の心境の変化に気づいているのかいないのか、彼の方から距離を詰めてきた。隣にダークがいるから、そうそう引けはしないし、変にリンクぎこちなくもなりたくない。
 イリアに悟られるなんて、以ての外だ。
 は誤魔化すように微笑んだ。
「リンク?」
「……
 ずい、と彼の顔が近づく。
 思わず体を強張らせると、
「――オレから逃げないで」
 耳元で、そう囁かれた。
 やっと聞き取れるか、という程度での、小さなお願い。
 は目を瞬き、目の前にあるリンクの瞳をじっと見る。
 相変わらず綺麗で真っ直ぐな目だ。
 射抜かれると、弱い。
 時たま、ダークとリンクが同一人物ではないかと思う時がある。
 だってリンクはたまに強引で、我侭で、人の気持ちを綺麗に無視してくれるから。
 彼との気持ちは、きっと繋がっている。
 もしリンクとイリアが一緒にいる時、自分がその輪から離れて、ダークに構おうとしているのなら。
 それはきっと、心のどこかに罪悪感があるからだ。
 イリアとリンクはつがいになり、村で平和に暮らすべきだったし、回りもそう望んでいる。
 自分が阻害していいものではないと、少なからず思っている。
 だからこうして4人で一緒にいようものなら、ダークとばかり会話してしまうのかも知れない。
「……逃げてなんて、ないよ」
 リンクにだけ聞こえる小さな小さな声で、呟く。
 彼は不満そうに息を吐いた。
「ちょっとリンク、なに、を困らせてるのよ」
 イリアの怒った声が聞こえてきた。リンクはもう一度ため息をついて、イリアに向き直る。
「別に困らせてなんてないだろ」
「そうかしら。リンクは鈍いから、案外気づいていないだけではないの」
「だ、誰が鈍いんだよ!」
 言い合い――じゃれあいとも言う――を始めた2人にほっとして、はお茶のカップを手に取り、口をつけ、それを置く。
 ダークは物を言いたげにの指先に触れた。
「ん? ダーク??」
「……いや。馬鹿だなと思っただけだ」
「誰が」
「全員だ」
 答えが見えているのに滑稽だと、皮肉気に笑う彼。
 意味が分からなくて、は首を傾げた。





2013・9・13
この4人が集まると、ちょっと大変。