何て呼んで欲しい?




「村長……本気ですか? この村に貴族を……それもあのゼルダ姫様のご親類を招くなんて」
「正確には、招く、ではなく、住まわせる、なのじゃが」
 それまでも険しかった村人の顔が、より一層難しいものになる。
 口にした村長自身のそれも、決して明るくはない。
 トアル村の一角、村長宅で集会を開いている面々は、誰ともなくため息をついた。
「もう、お父さん! そんなに深刻な顔をしなくてもいいじゃない。だってその子はわたしたちの家族同然になるのよ?」
「イリア」
 深刻な顔をしている大人たちの中でただ1人、村長の娘であるイリアだけが、呆れたように周囲を見やり、言った。
「話では、彼女は独りも同然なのでしょう? 貴族だなんだって、気にすることなんてないと思うわ」
 そうなのかと問う村人に、村長はややあって頷いた。
「あちらのお嬢さんにも、色々あるようでな……」
 村長は軽く首を振り、みなを見回してから軽く頷く。
「とにかく、そういうことになった。今日、お見えになる予定だから、心に留めておいてくれ。なに、イリアの言うとおり、気兼ねする必要はないだろう。これからは村の一員なんじゃからな」



 リンクがイリアからその『来訪者』の話を聞いたのは、牧場の手伝いをいったん終えた昼過ぎのことだった。
 彼は愛馬であるエポナの横で、その日の朝に作った握り飯を口に運びながら、やってくる貴族とやらのの話に耳を傾けた。
 しかし、だからといって彼の日常に変化があるわけではない。
 頼まれたいくつかの仕事を終え、自分の畑を整えている間に、夕刻の入りになる。
 自宅に戻ったリンクは、少し剣術の練習でもしようと木刀を手に、表へと戻た。
 秋の入りの風が、リンクの黄金色の髪を撫でる。
 それと同時に、彼は青い瞳を細め、おそらく自分に向かって手を振っているであろう、馬上の少女を見やった。
 見慣れない子だ。
 女性というには未だ早く、少女と呼ぶには大きい。
 ――どこの人だろう?
 トアルでは見たことのない人だと思いながら、リンクは彼女の方へと歩く。
「こんにち……いや、こんばんはの時間かな」
 言いながら、リンクが手を貸す暇すら与えず、彼女は馬から下りた。
「初めまして。ここってトアル村だよね?」
「あ、ああ」
 リンクは頷く。
 そう、と安堵したように表情を綻ばせた彼女を、リンクはじっと見つめた。
 赤の混じった金色の髪。
 自分と同じだと思った青の瞳は、思ったよりずっと深い青色だ。
 深緑色の外套羽織り、膝より上の丈の巻きスカートの下には、履き物を身につけている。
 腰には短剣、背中には弓が装備されていた。
「旅のかた……ですか?」
 控えめに訪ねてみると、彼女は目を瞬き、少し考える素振りを見せた。
「ここまで旅してきたって意味ではそうだけど、でも、ここが終着点だから……どうなのかな」
「終着点? じゃあ、トアルに用事が?」
「うん。……えっと、村長さんに会えるかな。どの辺にいらっしゃるか分かる?」
 村長?
「よければ俺が案内するけど」
「本当? ありがとう、助かる」
 そういえば、と彼女は失笑する。
 自己紹介がまだだったねと、軽い口調で言われた。
「ああ、そうだった。俺はリンク。君のことはなんて呼べば?」
「私、。ハイラルから来ました」
 ――ハイラル!?
 リンクは目を見開き、改めて彼女を見つめてみる。
 まさか、彼女が? この、一見旅人風の少女が?
「き、君……が、もしかしてゼルダ姫の」
「うん、そう。私が彼女の親戚」
 よろしくねと笑うに、リンクはただ頷くだけだった。





変換少なッ。しかもゼルダって…。完全なる自分設定で。
2007・7・17