粘着してる?



 あ、と思った瞬間には衝撃があって、我知らず体が斜め方向に向かって押し出される。
 体を捩って威力を削げるような、生温いものではなく。
 は声を噛み殺したままで、場外へと吹っ飛ばされた。


「……アイク。私に何か恨みでも」
「いや、ない」
 しれっと答えるアイクに、は小さく唸る。
 乱闘帰りの廊下をアイクと二人で歩きながら、今日の試合を思い返す。
 思い起こせば起こすほど、は眉間を寄せていく。
「どうした」
「やっぱりアイク、粘着してた。私に」
「……そうか?」
「結果を見たら分かるでしょ。私をぶっ飛ばした人、貴方しかいないんだし」
 、アイク、スネーク、ネスで4人の乱戦だった。
 は3度場外に飛ばされた。そのいずれもアイクの手によるものだ。
 確かに他の人に、ダメージを蓄積されてはいたが。
 気づいたらアイクが側にいる、というのは偶然にしては少し不自然のような。
「……すまん」
「謝ることはないよ、だって乱闘だもの」
 ただ不思議なだけであって、謝罪を求めているわけじゃない。
 アイクは立ち止まって、暫し床を見つめた。
 もならって止まる。
「……俺は多分、あんたを誰かに傷つけさせたくなかったんだと、思う」
 は目を瞬く。
「乱闘中は、基本的には衝撃だけで、怪我はしない仕様だよね?」
「知っている。それでも、あんたが誰かの攻撃でやられるのは好きじゃない、ようだ」
 他人の攻撃でやられるのなら、いっそ自分の手で!
 と、そういうことだろうか。
 アイクは大きくため息を吐く。
「何がしたいのか、俺にもよく分からん。次からは気を付ける」
 忘れてくれと言い放ち、彼は歩を進めた。
 は何かを訊ねたい気がしたが、疑問が口に上ることはなかった。
 聞きたいことが、形になってくれなくて。
 ただ何となく、思う。
「アイクの不器用な優しさ、なのかなあ……?」
 疑問調でひとりごち、先を行くアイクを追った。




分かり辛い(むしろ本人も気づいていない)愛情表現。
(雑記掲載日 2008・8・6)