どこかに惹かれる 「どうしたら、そんな風になれるんだ?」 アイクの問いは、側で弓の調整をしていたにとって唐突だったらしい。 あぐらをかいて床に座っている彼女は目を瞬かせ、矢尻を摘まんだ形のまま首を傾げた。 明らかに言葉足らずではあるが、 「えと……弓のこと?」 「そうだ」 にはアイクの言わんとすることが分かったらしい。 「アイクと一緒だよ。懸命に訓練する。それだけ」 弓を使ってみたいのかと訊ねられ、アイクは首を振った。 自分には弓という武具は合わない気がする。 人並みには扱えるかも知れないが、のように正確無比には無理だ。 それに。 「人には素質があるだろう。俺の仲間にも弓使いがいるが……まあ、俺が弓を修得したいなどと言ったら、鼻先で笑われるだろうな」 「そうなの? 確かに才能云々は関係あるかもだけど……けど私にはないと思うよ」 アイクは片眉を上げる。 は矢のしなりなどを確認し、矢筒にしまった。 「それまで弓に余り触ったこともなかったリンクが、勇者の弓をいきなり見事に使いこなしたりするの見たらね」 才能ある人っていうのは、こうも違っているのかと驚いた。 言って笑うには、何の痛みも妬みも見られない。 ただ純粋に、リンクが凄いのだと言えてしまう彼女は、本当に彼を信頼しているのだろう。 アイクは微かに眉を潜める。 何が理由でか、一瞬、リンクに酷く腹がたった。 「ずっと、リンクと旅をしていたのか」 「そう。私とリンクと、あとミドナっていう友達と」 「……そうか」 乱闘に参加しているのは、それぞれの世界で名の知れている者ばかりだ。 聞きかじりではあるが、確かリンクはハイラルを救った勇者であるはず。 ゼルダはハイラルの王女(年齢の関係で姫と呼称されているようだが)だし、ガノンドロフに至っては、彼らとは敵対していた魔王であるし。 「も勇者なのか?」 「私は違うよ。何の力もないもん」 「……自分を余り卑下するな。リンクもゼルダも、お前の力を必要としている」 「卑下してるつもりは……でもたまにね、物凄く自信がなくなったりするの。アイクはそういうの、ある?」 「なくはない。だが意味のない不安に時間を割くなら、高みを目指して剣を振る」 は、 「アイクは凄いよ」 微笑んだ。 彼女はいつもこうして、感情を真っ直ぐにぶつけるように思う。 常頃、彼女と一緒にいられるリンクを羨ましく思った。 「あんたを側に置いて、暮らしてみたいものだな」 「今一緒に暮らしてるじゃない」 多分、自分が求めている『暮らし』とは形が違うと思いながら、アイクは黙っての頭を撫でる。 アイクは自分のしたいことを優先させてきたし、だから誰かを側に置くことなど、考えもしていなかった。 特定の誰かを作るのは、面倒だとさえ思っていたから。 その自分が、会って間もないに不可思議な感情を抱いていることは、かなりの驚きだった。 「……俺は一体、あんたの何に惹かれてるんだろうな」 「……はい?」 間の抜けた声を返す。アイクは首を振る。 「いや……気にするな」 は首を傾げ、気になるよと雰囲気で訴えながらも、質問はしなかった。 たいした会話もなく、その後も一緒に居続ける2人。 ただ在るだけ。 無言の空間さえ心地いいと、アイクは微かに微笑む。 ――こんな日が、ずっと続けばいい。 (雑記掲載 2008・6・11) 2008・8・1 |