青くて赤いひと



 リンクもゼルダも、それぞれが乱闘に出て行ってしまうと、途端に暇になる。
 日程表に組まれた乱闘は、完全にランダムだ。
 表にない人は個人的に乱戦をすることも可能だし、実際、そうして幾人もの相手と戦って、実際にオーダーされた組み合わせで本領発揮する戦人もある。
 だが、別段は戦い好きというわけではない。
 要請がないからといって、じゃあ誰かを誘って乱闘、という種では今のところないし、ましてやこちらに来たばかりで、誘うべき知人もいない。
 知っているからといって、いくらなんでもガノンドロフとタイマンはどうだろう。
 そんな訳で、は城の外に足を踏み出した。
 暇つぶしに近場を散策しようと、近場の森をぶらぶらする。
 余り離れず、近場をぶらついていると、
「あれ、あの人は……」
 青年が独り、剣を振るっているのが目に入った。
 深い青の髪。
 均整の取れた筋肉が、見るからに重たそうな大剣を操っている。
 凄い。
 彼が剣を振ると、周囲の空気が割り開かれるような気がする。
 リンクとは全然違う種の剣士だ。
「……俺に何か用があるのか」
「あ、いや、ごめんなさい。邪魔する気はなかったのだけど」
 彼は剣をもうひと振りすると、鞘に収めた。
 は彼に近寄る。
「初めまして、です」
「俺はアイク。グレイル傭兵団の団長をしている。お前はリンクの仲間、だったな」
「はい。団長さんも、乱闘に参加するんですよね」
「……アイクでいい。それから敬語もいらん」
 了解しましたと微笑み、はアイクの剣をしげしげと眺めた。
 リンクのマスターソードより大きくて、ついでに重たそうだ。
 なのにそれを片手で操っている。
 余程の豪腕なのだろう。
「お前も参加するのか。獲物は……腰の短剣か?」
「いえ、じゃなくてううん。私の主要武器は弓」
「そうか。手合わせしてみるか?」
 真っ直ぐ見つめられながら言われる。
 は少し考え、
「アイクって、手加減しない性質(たち)でしょ」
 言いきる。
「誰かに聞いたのか」
「ううん。でも、なんかそんな感じがしたから。私、対人は苦手なんだけど……稽古つけてくれる?」
 弓を持ってくるから。
 彼を覗き見ると、アイクはふっと表情を緩めた。
 ――優しい顔だなあ。

「ん?」
「……いや。弓を取ってくるといい」
「うん! すぐ戻る!」
 アイクが頷くのも待たずに、は駆け出した。



「ただいま……って!? 何かあったのか?」
「ああ、リンク……」
 は、疲れた面持ちで扉に手をかけていたが、リンクの姿を見て立ち止まった。
「乱闘終わったんだ?」
「ああ。それよりさ」
「うん、ちょっと、さっきまでアイクに稽古つけてもらってたんだけど……あはは、彼強いね」
「アイク、手加減しないだろ」
「ほんとに全然しない」
 彼に毎日鍛えられたら、相当強くなれそうだ。
 リンクは息を吐き、後頭部を掻く。
「無理するなよ? 練習なら俺も付き合うし」
「ありがと! ……ちょっと夕御飯まで寝る。ほんとに疲れたから」
「分かった。後で呼ぶよ」
 よろしくと言い放ち、は部屋に入る。
 後で弓の調整もしなければ。
 腰の短剣をサイドボードに置いて、ベッドに寝転がる。
「アイク、強いなあ……頑張らなきゃなあ……」
 いずれは乱闘に出るみたいだし。
 ふう、と瞼を閉じる。
 そのまま布団もかけずに寝てしまい、リンクが呼びに来るまで、全く目覚めなかった。



スマブラXはアイクばっかりになる気が。
(雑記掲載日 2008・6・10)

2008・6・30