私がいる意味





 目が覚めた時、トウヤが一番最最初に目がいったのは、だった。
 自分のおかれている異常な状況にも関わらず、だ。
 これって、結構凄い事ではないかと‥‥思う。


 異世界リィンバウム。
 ここに来てから八ヶ月余り。
 色々な戦いを経て、結局、トウヤとはリィンバウムにいる。
 はトウヤの部屋でお茶を飲みながら、今まであった事を、なんの気なしに思い出していた。
「今やトウヤは、魔王を倒して世界を救った誓約者だもんね〜。有名人になっちゃって‥。」
「いきなりどうしたんだ?」
 の呟きに、いつもと変わらぬ優しい声で語りかけるトウヤ。
「別に。ただ、私はなんでここにいるのかぁと思いまして。」
「なんで‥って‥。」
 言いたい事が見えず、首をかしげる。
 は、ふぅとため息をつくと、トウヤのベッドの端に座り、足をぷらぷらさせながら話を進めた。
「トウヤはさ、あるイミ、誓約者として選ばれてこっちに呼ばれた訳でしょう? 事故だって、運命だったようなもんだし。‥でも、私は違う。」
 自分は、誓約者ではない。
 召喚術は使えるものの、細かいコントロールはできないし、ソル程の実力者ではない。
 戦いに長けている訳でもない。
 そんな自分が、どうして一緒になって呼ばれてしまったのか。
 確かにあの事故のとき、トウヤの側に居はしたが、だからといって、自分まで来させる必要はなかったろうと、は心底思う。
 リィンバウムは大好きだが、凄い人になってしまったトウヤの側にいると、なんだか少し、己の存在意義を考えてしまうのだ。
 そんな心を象徴するかのように、俯く彼女。
「私、トウヤのオマケで、偶然引っ張ってこられたのかな‥。誓約者のおつきとか? ‥‥ハッキリ言って、必要ないんじゃ‥。」
。」
 ふと顔を上げると、すぐ隣にトウヤが座っていた。
 机の方から、移動してきたらしい。
 彼は、に苦笑いをこぼした。
「僕にとって、は必要な存在だよ。この世界でやってこれたのも、が励ましたり、怒ったりしてくれたおかげだ。」
「‥‥。」
がリィンバウムに来たのは、僕のせいかもな。」
「どうして?」
 トウヤのせいとは、とても見えないけれどという顔をするの頭をそっと撫で、微笑む。
「どうしても、僕はと離れたくなかったから。」
 事故の時、と引き離されるような感覚に陥った。
 それが嫌で、離れて欲しくなくて、
 光が体を包む瞬間、隣にいた彼女の事を強く思い、手を握ったのを覚えている。
 もしかしたら、自分が引きずり込んだのかもしれない。
 学校でも、トウヤは何気なくを目で追っていた。
「トウヤのせいじゃないよ。」
 なんだか、告白じみた台詞に、はちょっとテレてしまう。
 学校でカッコイイと評判で、人気のあったトウヤ。
 他の人からトウヤへのラブレター受け渡し要員であっただが、会話ができる事が既に羨ましい事だったようで。
 その当時から、トウヤはを目で追っていたのだが、それが何を意味するのか知ったのは、こちらの世界に来てから。
 こっちの世界に来て、互いに信頼を結び、恋人のような存在になったが、気恥ずかしくて、なかなか好きなのだと言えない所は、まるで変わらない。
 はトウヤを尊敬すらしていたが、それは友情の一直線上だと思っていて。
 違うのだと気づいてしまったら、戻る事はできなくなってしまった。
「トウヤが側にいてくれたから、私も頑張れたし‥‥それに、私だってあなたと離れたくない。」
 見つめあい、微笑むと、互いの額をくっつけあった。
 手を握ると、体温がどちらともなく伝わる。
「‥今のは、告白だよな。」
「!トウヤだって‥。」
 額をくっつけたまま、くすくす笑う。
 あいまいな言い方でもあったが、トウヤはを自分の大切な人‥恋人と位置づけていた。
 も同じように‥‥。
 だからといって、今までとなにかが変わる訳ではないのだが。
 ―――の知る範囲では、だけど。

「あ、そだ。トウヤ、元の世界に戻りたくなった事、ない?」
「‥そりゃあ、あるけど‥。皆どうしてるか気になるし‥。、帰りたいのか?」
「帰りたいというより‥見に行きたい、だね。」
 今や、トウヤとの家はフラットだ。
 本当の自分の家も気になるが、あちらの世界にいたとしても、いつかは親元を離れる。
 そう考えれば、自立が早まっただけの事ともいえるし、その辺に関して、二人とも同意見を持っていた。
「帰るトコは、ここ。トウヤの側。でも、お別れも言えないままこっちに来たから‥友達とか、気になる。」
「そう、だな‥。」
 あごに手を置き、考えるトウヤの思考をさえぎるようにして、が言葉を続ける。
「でね、ちょっと考えたんだけど‥、送還術を使ってみたらどうかなーと。」
 どういう事かと話を聞いてみる。
 召喚術は、ものすごく研究されているが、送還術は呼んだものを還すだけだから、大して研究されていないのが実態。
 元の世界には、召喚師なんていない為、あちら側から召喚してもらえない。
 事故とはいえ、呼ばれたのだからあちらに通じる門はあるはず。
 ならば、送還術で送ってもらって、召喚術で呼び戻してもらえばいいのではないか。
 はそんな事を、トウヤに話して聞かせた。
「なるほどね‥。盲点というか‥。」
「まあ、できるかって言われると、ちょっと分からないんだけど‥。」
「ソルにも相談してみるよ。」
「ん。‥‥あ、いけない!今日リプレとラーメン作るんだった!」
「ラーメンかぁ‥。」
 ラーメンは、トウヤの好物だ。
 まさか、こっちで食べられるとは思っていなかった料理だったが、初めてできた時には、感動したものだ。
「広間行こう。リプレ手伝わなきゃ。」
「ああ。」

 とリプレがラーメンを作っている音を聞きながら、トウヤはソルと話をしていた。
 彼女の“元の世界に行く方法”をソルに話すと、彼は難しい顔をした。
「送還術か‥‥。」
「ああ、ゲートは不安定だけど、魔力のある人間ならなんとかなる気もするんだ。」
「‥‥元々事故で呼ばれたからな‥、行けるっていう保障はないぞ。」
 しかも、魔王召喚の儀式の最中だった。
 召喚師の力も、相当必要な儀式での失敗で呼ばれた二人。
 元の世界に行くにしても、送還術は微妙な術だ。
 失敗すれば、どうなるか分かったものじゃない。
「危険なんじゃないか?確かにお前はリンカーだし、魔法力は問題ない。だが、の魔法力は不安定だし‥。」
「大丈夫だよ。僕も一緒に行くつもりだしさ。」
「‥俺が送還するのか。」
 自分が送還して、トウヤが一緒に行けば、もしかしたらゲートが安定して通れるかもしれない。
 微かな望みでしかないが、行けなくても失望する事はないだろう。
 恐れるべきは、失敗したときの事。
 暴発などしようものなら、体にかかる負担は相当なものになる。
 トウヤは大丈夫かもしれないが、は‥‥。
 だが、無用な心配かもしれないと、ソルは思い直した。
 トウヤはの事になると、強くなる。
 慎重にもなるし、彼女にとっての脅威となるものに対して容赦はしない。
 死ぬ気で護るだろう。
「‥‥でもなんで、一緒に行くんだ?」
 別に一人で行ってはならないという事でもないし。
 ソルが問うと、トウヤはさも当たり前のように口を開いた。
「向こうで、僕のに手を出す奴から守るためだ。」
 ‥‥いつからは、トウヤのものになったんだ‥‥。
 ソルは深々と溜息をつく。
 トウヤは最高の相棒だが、を自分のものにするには、彼を何とかしなくてはいけない。
 そんな事、できる奴がこの世にいるのだろうかと、ソルはまた溜息をついた。
 自分にも釘を刺されているような気がする。
「ラーメンできたよー。」
「ありがとう。」
 からラーメンを受け取り、にこにこ笑うトウヤ。
 彼女もそれに釣られるようにニコリと微笑み、トウヤの隣でラーメンをすすり始めた。
 ソルは人知れず息を吐く。
 愛されすぎるってのも、難儀なものだと思いながら。



真っ黒〜、真っ黒トウヤ〜(爆)
そして送還術、嘘です。(当たり前)
帰れないんだろうなと思いつつ、完全にオリジ色濃厚な感じで。
続きそうで続かないだろうお話に。
ジャンル増えすぎて一杯いっぱいの今日この頃。

2002・3・27

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