サプレスの花嫁と一人の悪魔






 さくさくと平原を歩いていくに、バルレルが声をかけた。
「…本当にこれでよかったのかよ」
「うん、だって……止められそうだったし、なんか、名残惜しくなるのも、嫌だったし」
 本当は、もう少し休んでいたかったけど、と付け加える。
 そんな彼女に、バルレルはため息をついた。


 一方、ゼラムのギブソン、ミモザ邸では。
「ちょっと!! 手紙が置いてあるんだけど!!」
 あまりにとバルレルが朝食に来るのが遅いので、ミモザが仕方なく呼びに行った所――部屋はもぬけの殻。
 装備品も道具も、全くのすっからかん状態。
 置いてあったのは、机の上の、手紙だけ。
 ピキ、と固まるトウヤとソル。
 そして驚き騒ぐゼラム陣。
 ともかく、ミモザがギブソンに手紙を渡し、読んでもらう事に。
 一人一人に見せて回るより、早いだろうという措置。
「ええと……拝啓、仲間の皆様……」


 多分、怒ると思って――というか、止められると思って、手紙だけ置いて行きます。
 …まあ、一部の人には、これが逆鱗に触れるかもしれないけど。

 みんながコレを読んでいる頃には、私とバルレルは、ゼラム王都内にはいません。
 付き合いが長い人は分かると思うけど、旅に出ます。
 理由はごくごく簡単。
 私が解放してしまった、四棲 (霊属性のはいるから、三棲だけど) が、封印されている場所を探し出して、体に戻すためです。
 サプレスの花嫁として、ちゃんとするためには、やっぱり四棲そろってないとマズイと思うから。

 ホントは、一度トウヤとソルについて、サイジェントに戻ろうと思ったんだけど、フラットに…しかも二人と一緒に戻っちゃったら、その後暫くは出て行けなさそうな気がしたから、こっそり出て行きます。ごめんなさい。
 そのうち、(多分近いうちに)サイジェントには一度顔を出すから、トウヤたちは、私を追ったり探したりしないで、フラットに戻ってね。
 バノッサの事も、よろしく!

 それから、ギブソンとミモザ、今までありがとう。
 蒼の派閥でお世話になった幹部の人たちにも、ありがとうございました、って伝えておいて下さい。
 もしかしたら、また書庫を使わせてもらうかもしれないけど、その時はまたよろしく、という事で。

 最後になったけど、ゼラムの皆。
 一緒に頑張ったのに、こういう形で出て行っちゃって、ごめんなさい。
 きっと、まだ皆には、課せられたものとかあると思うんだ。
 でも、負けないで、頑張って欲しいな。
 私も頑張るから。
 あ、ゼラムにもまた顔出すからね!
 それと、ルヴァイドとイオスの事なんだけど、彼らがどういう結論を出すかわかんないけど、もしよかったら、どうなったか、今度、顔出した時にでも教えてくれると嬉しい。

 急でホントにごめんなさい。
 でも、会えないって事じゃないし。
 だから、また会う日まで、私の事忘れないで。
 元気で頑張ってね!

 より




「…………あいつはぁぁぁ…」
 ソルが握りこぶしを作り、ふるふる震える。
 だが、トウヤはこうなるのが何となく分かっていたのか、苦笑いを零すだけだった。
「ソル、サイジェントに戻って、待とう。そのうち帰ってくるさ。今回みたいに、何かあれば、僕らも動けるだろうし」
「……ったく」
「…ってば、お別れちゃんとしないで行っちゃうなんて…」
 トリスががっくりとうな垂れる。
 アメルも、少し寂しそうに頷いた。
「でも……でも、さんの役目ですしね…」
 彼女のその言葉に、ネスティも頷いた。
「そのうち来るって言ってるんだ。それまで、僕らは僕らの、やれる事…やるべき事をやろう」
「そうだな…」
 リューグの言葉に、ロッカも頷いた。
「バルレルもいるしね」

 皆、少し寂しそうに、でも、の決断を認めていた。
 そして、バルレルが付いて行ったのも。
 いつか、きっと来てくれる。
 困った時でもいい。
 ちょっと寄っただけでもいい。
 彼女と彼は、大事な 『仲間』 なんだから。
 それだけは、変わらない事実だから。



「バルレル〜」
「あぁ?」
 相変わらず不機嫌そうなバルレルの背中をつつく
 彼女はニコニコしたまま、言葉を続けた。
「誓約、どうしよっか」
「……狂嵐の魔公子の姿……デカくなれないのはゴメンだ。もし何かあった時、テメェを守れねぇだろ。けど、他の誰かに呼び出されんのも、ゴメンだ」
「…うーん、じゃあ、力を制御しないように、軽くかけとこっかぁ」
「そうしてくれ」
 言い、軽く力を使って、バルレルに誓約という枷をつける。
「…さぁて、どこから探しましょうかね。三匹…いや、三人探すには、世界は広いもんねー」
「ま、気楽に行こうぜ。気張ったって、ろくな事ねぇ」
「そうだね」
 ふっと微笑む
 それにつられるように、バルレルも口の端を上げた。

 のんびりのんびり。
 ゼラムに、一番最初に来た頃のように。

 とバルレル。
 のんびりと進む予定の旅。
 二人だけの旅が、はじまった。
 三代目サプレスの花嫁と、彼女に惚れた、狂嵐の魔公子の物語が。






サモンナイト2の連載、これにて終了。
長かった…。とか言いながら、3連載にも繋がるように仕組んである辺りがもう(汗)
ともかく、ここまで読んで下さって、どうもありがとうございました!

2003・8・1

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