帰還




 月の光で、公園の遊具に、長い影ができていた。
 リィンバウムに召喚された公園。
 そこに、関わりのある者、全てがそろっていた。
 の両親である、ソルアリアとアズライト。
 友人、ハヤト、ナツミ、アヤ。
 そして、リィンバウム勢の、、トウヤ、バルレル、ネスティ、トリス。

「…いいわね?」
 ソルアリアの言葉に、たちが頷いた。
 ネスティとトリスはの母から、どうすれば帰還できるのか、既に教えてもらっていた。
 他、トウヤやバルレル、は、ネスティとトリスから。

 とトウヤは、ハヤト、ナツミ、アヤと、しっかり握手をしあった。
 もしかしたら、二度と会えないかもしれない人々。
 会えない可能性のほうが高い人たち。
 泣きこそしないが、心からの感謝を持って。
「…皆、ありがとね、色々」
 の言葉に、三人は爽快に笑った。
「ばっかだな、友達だろ?」
「そうよ」
「そうです!」
 三人は、トリスやネスティたちの方も見て、手を振った。
 代表するかのように、ハヤトが言う。
「今度また来たら、絶対会おうな」
「…ああ、ありがとう」
「ありがとね!」
「……オウ」
 バルレルまで返事をするとは思わなかったが、とトウヤは、その様子を微笑ましく思った。
 世界が違おうが、持つ心は一緒なのだと。

 改めて意志を強固にし、は母の前に立った。
「じゃあ、改めて…いいわね?」
「うん。準備オッケー。…所で、父さん、悪魔だとカッコイイね。ずっとそのままの方がいいんじゃない?」
 ケッと言わんばかりの顔をしつつ、バルレルが
「余計な事言ってねえで、さっさとしろよ」
 等と言ってのける。言われた方は、剣呑な目線を送りつつ
「…バルレル、しばくわよ」
 漫才とも見れる行動に、両親が苦笑いした。

 一同に目配せすると、皆、所定の位置につく。
 ソルアリアの前にアズライトが。
 の前に、バルレルが。
 そして、その両サイドに、トリスとネスティが立つ。
 ハヤト、ナツミ、アヤの三人は、少し離れた場所で、その様子を見守っていた。

 ソルアリアと、アズライトとバルレルが、同じように手を前に伸ばし――一気に魔力を放出する。
 強風が、その空間に渦巻いた。
 ネスティが、とバルレルに指示を与える。
「もっと、力を放出しないと…!」
「分かってる!!」
 とバルレルが、勢いよく力を放つ。
 ソルアリアとアズライトも、一緒に力を高め、放った。
 間にある空間に、もやがかかり、スパークが走り――そして、紫と白、黒と変わる、だ円状の輪が出来上がった。
「さあ! 行きなさい!!」
 まずはトリスが。
 次にネスティがその中に入る。
 二人の姿は、溶けるようにして消えて行った。
「さあ、早く!」
 バルレルとトウヤが中へ入った。
 途端、均衡を崩した力が、だ円を更に歪める。
 早くしないと、消えてしまう――。
 二人の力の反発力では、そう長い事、通路が開いていてくれない。
「皆、元気で! ありがとうっ!!」
 はぱっと力を拡散させると、そう言いながら、空間の中へと消えていった。
 最後の最後まで、皆を見、手を振りながら。

「行ってしまいましたわね」
 ソルアリアが、少々悲しそうに言う。
 アズライトがぽん、と肩を叩いた。
「仕方ないさ。……あの子が、決めたんだから」
「そうね…」
「そうですよ、おじさん、おばさん!」
「ハヤト君…」
 ハヤトの明るい声に、両親の顔が少し和む。
 ナツミも負けじと、あかる気に話し掛けた。
「きっと、なんとかやりますって!」
 アヤがクスクス笑いながら、それに同意する。
「そうですよ。それに、またひょっこり帰ってくるかもしれませんし」
「…そうね、ええ、そうよね」
 消えてしまった友達を、娘を想う彼らを、月だけが見ていた。



 一方、ゲートをくぐったリィンバウム勢は。
「ちょ…ちょっと…トリスとネスティは…!?」
 長いトンネルのような中で、身動きも満足に取れず、とトウヤ、バルレルは先に行ったはずの、トリスとネスティが見当たらないのに、少々戸惑いを覚えていた。
 とはいえ、このトンネルがどこまで続いているのかよく分からない。
 やってくる時、は目を完全に閉じていたし。
「ねえ、バルレル、トウヤ、これってどの辺まで続いて…って、きゃあ!!」
! うわっ!」
「おわ!!」
 突然、浮力がなくなり、下に見える、渦の中に飲み込まれていく。
 手を無意味にばたつかせてみるが、本当に無意味に終わってしまった。
!!」
 トウヤが手を伸ばすが、届かぬまま――彼らは、渦に飲み込まれ、消えた。



 衝撃。
 砂煙。
 悲鳴。
 反射的に目をパッと開けると、そこにあったのは、レイムの顔だった。
 腕を掴まれているようで、上手く動く事ができない。
「っ何…何よっ! どうなって…」
 レイムは、状況を飲み込めていないの腕を愛しげに撫でると、
「お帰りなさい、私の花嫁。やっと覚醒したんですね…。自分が何なのかを、悟った。さあ、私と共に来て頂きましょうか? 三代目、サプレスの花嫁…その力を――」
「離して!!!」
 背中に駆け上がる悪寒に、腕を振り解こうとするが、がっちり掴まれて、離してくれない。
(嫌だ!!!)
 が目をつむり、レイムの腕をおぞましく思い、離れろと――それだけを思った瞬間、
「ぎゃあっ!!!」
「!?」
 彼の悲鳴。
 の腕から、紫色の電気が流れ出、レイムを弾き飛ばした。
 これが……覚醒した、自分の力…?
 右腕をまじまじと見るの前に、一つの影が。
 それは…一緒にやって来た、バルレルだった。
 槍を構え、レイムからを護っている。
「バルレル…」
「さっさと立て、馬鹿」
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは」
 悪態をつきながらも、は立ち上がる。
 周りを見ると――どうやら、蒼の派閥の付近のようだった。
 感動したい所だったが、まだ、目の前の脅威は立ち去っていない。
 レイムは、を舐めるように見ると、ニヤリと笑った。
「……さん、最終決戦は目の前ですよ。心しておくんですね…私のものになる事を」
「………安心して、忘れといてあげる」
 クスクス笑いながら、レイムはその姿を闇に溶かした。


 落ち着いた、トウヤ、バルレルは、自分たちがいなかった時間の事を、色々と話して聞かせてもらった。
 どうも、トリスとネスティは、別の時間軸に落ちてしまったらしく、たちより、もっと手前に帰還したようだった。
 飛ばされた地点と、そう変わりがない時間軸に。
 逆に、長くいたたちは、飛ばされた地点から、かなり長いブランクを所持している。

 金の派閥と、蒼の派閥の正式な協力を取り付けたこと。
 再度のルヴァイドとの戦い。
 そして、負けた彼は、イオスと共に、現在、監察処分中である事。
 レイムが悪魔――メルギトスだった事と、ルヴァイドの仲間だった、ゼルフィルドが自爆した事…。

 先ほどは、蒼の派閥の重役だった、フリップが、メルギトスの口車に乗せられ、何とか止めたものの、自らが召喚術を教えた、カラウスという男に、刺殺されてしまった後すぐだったらしい。
 随分と、時間軸がずれてしまった。

 翌日―少なくとも翌々日には、正式に布告が出され、最終決戦になるだろう、という事…。
 今や、デグレアと聖王都との戦いではなく、リィンバウム侵略者と、リィンバウムに住む人間との戦いだ。
 余りの展開の速さに、話だけでも付いていくのがやっとだが、とにかく、戦いになる事は必至。
 魔力的な力を含め、自らがきちんと、『花嫁』 の力を操れるようになっていなくては…。
 はソルに協力を取り付け、夜までに、なんとか力を繰れるようにしようと考えた。
 無茶ではあったが、この状況下では、無茶しなくてはならない。

「……色々、あったんだね。ごめん、協力できなくて…」
 久しぶりの、ギブソン・ミモザ邸で、とトウヤは深々と謝った。
 だが、皆は 『気にするな』 と言ってくれている。
 状況が状況だったために。

 吹き飛ばされた時、アメルたち、リィンバウムに残った者たちは、あちこち探して回ったりした。
 ソルは、の力と悪魔の力の反発で、何かしらの作用が起こったのではとあたりをつけ、文献を探し――サプレスの花嫁の事を知った。
 そして、憶測だったが…が、三代目の花嫁ではないかと。
 帰ってきた彼女の言葉で、それは憶測ではなくなったが。
「…ねえ、ルヴァイドとイオスは、監察処分でしょ? どっかに監禁されてるとか、そういう…」
 の言葉に、ミモザが首を横に振った。
「ううん、蒼の派閥の一室にいるわ。後で、会いに行ってみなさいよ」
「うん」

 帰ってきたら、決戦直前だった……。
 ……なんて事。
 でも、やらなくちゃ。
 は心根を強く持ち、胸を張って、頑張ろうと決めた。
 今まで協力できなかった分も、頑張ろうと。


 決戦は、すぐそこ。










またも色々すっ飛ばしてます、すみません…(これしか言えん…)
しかも、現代組(ハヤトにアヤにナツミ)も、やけにあっさりと…。
本編が終わったら、番外編とかで…で、できればいいなぁ。
また口だけで終わってしまいそうな勢いですけど…(泣)

2003・7・11

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