まぶた裏の世界 2





 翌日。昼ご飯を済ませた一同は、「服を買ってきなさい」 と、母親にお金を渡され、デパートへ、買い物に行く事になった。
 アヤとナツミ、ハヤトにも同行してもらう。
 別に、デパートへ行くのに、リィンバウム仕様の服を着て行く訳ではないのだが、人数が多い方が、何かとごまかしが利く、という事もあるだろうし。
 …いろんな意味で。

「ねえねえ、こっちのが可愛くない?」
「そうですか? 私はこっちの方が似合うと思いますけど…」
 ナツミとアヤがきゃいきゃいと、トリスの洋服を選ぶ。
 それは、分かる。
 だが、どうして……。
「どうして、私まで? 関係ないじゃん、服あるんだからさぁ」
 の分も、勝手に選んでいる二人がいた。
 彼女は試着室から顔だけ出し、むっつりしている。
 本来、こういうのは好きじゃないのだ。
 服とかは、ぱぱっと動きやすいものを買うのに限る、と思っているので。
 男どもは、少し離れたところで、既に買うべき物を買って、じりじりしながら、女性の買い物を待っている。
 バルレルなんか、焦らしすぎると暴れそうなので、早く事を終わらせたいのだが…。
「あーもう、私はこれでいい!」
 フード付き服に、チェック柄のスカートをぶん取ると、はそれで決定! とばかりに、着替えて、試着室から出て来てしまった。
 今まで着ていた服は、カバンの中。
 お金を払い、後は、トリスを待つだけ。

 トリスの服を選ぶアヤとナツミの側にいながら、暫く待つ。
 これ以上、余りにも時間を取られるようであれば、さっきのように、勝手にぶん取って決めてしまえばいい。
 そんな事を思っていると、ナツミが何気なく、聞いてきた。
「ねえ、トウヤ君とはどうなのよ」
「? どうって??」
 質問の意図が分からず、はナツミに怪訝な表情を向けた。
 鈍いんだからーと言いながらも、ナツミはニヤニヤ笑っている。
「別世界に二人きりで、なんて、凄い運命よね。実は、ラヴラヴなんじゃないの?」
「ま、まっさかぁ! 好きは好きだけど…トウヤは迷惑してるかもよ?」
「そうは思えませんけど」
 くすくす笑いながら、アヤまで口を挟んでくる。
「だって、今までの話を聞く限り……」
「いや、だって、誰だってあんな状況になれば…」
 団結しませんか?
 言おうとしたその時、トリスが、ばっと顔を出した。
 ちなみに、スカートとブイネックの長袖を着ている。
は、マグナと一緒になるの!」
「マグナ??」
「私の、双子のお兄ちゃんよ!」
「「へー!!」」
 ナツミとアヤが、を見てニコニコ笑う。
 というか、何かを含んだ笑いというか。
 は慌てて、トリスに苦笑いをこぼす。
「ち、ちょっと…トリス…勝手に何を…」
「決まってるの! は私のお姉さんになるんだから」
「……(だめだ、こりゃ)」

 買い物を終え、しびれを切らしている男性軍と共に、とトウヤが、リィンバウムへと召喚された場――公園へと、足を向けた。
 よもや、とも思ったのだが、やはり、何の反応もない。
「…ちょっと、召喚術を使ってみようか」
 ネスティがサモナイト石から、術を取り出す。
 ハヤトやナツミ、アヤは、興味津々でその様子を見ていた。

「我が名において…出でよ、べズソウ!!」

 ………しぃん。

 ネスティの声が、虚しく公園内に響いた。
「やはり、だめか……」
 トウヤが、首を横に振る。
「無理だよ。ここは、リィンバウムじゃない…。恐らくは、四つの世界への干渉が不可能なんだ。月が小さいのも、何らかの形で影響を及ぼしてるとは思う」
「確かに…。だが、向こうから君たちを、事故とはいえ呼び出したんだ。通路がない訳じゃないと思う。それがどうすれば開くのか…」
 ネスティとトウヤが真剣な議論をしている所に、ハヤトが軽い口調で言った。
「なあ、こっちに来た時と、同じ状況を再現すりゃいいんじゃないのか?」
 そうは言っても、簡単ではない。
 三人の悪魔の力と、アメルの神聖な力、それと、それぞれの召喚師が、地下という限られた空間でせめぎ合い、結果として、こちらの世界への扉を開いた。
 それと酷似した状況を作るには…いささか、人数と力が足りない。
 向こう側が、どうなっているのかも分からないのだ。
「…向こうの一年が、こちら側の三日…。もし、その定義の通りであるならば、早くしないと、とんでもない事になるぞ」
 ネスティの言葉に、が 「うーん」 と唸る。
 何かを考える素振りを見せ、それから、皆に向かって言った。
「ねえ、時間の経過っていうのは、この場合頭に入れなくても大丈夫かもよ?」
「? どうして?」
 トリスが不思議そうに聞く。
 は、あくまで憶測と予感、と付け加え、話を進めた。
「んとね、もしかしたら、だけど。時間も、状況によって違うんじゃないかって。…何ていうかな、ある程度、想定とか、指定とか、できる気がするんだ。戻る時には、エルゴの力も使えるようになるだろうし…」
 不思議と、その言葉に否定的になれない、リィンバウムの者たち。
 ここで何かと考えていても、仕方がないのだが。
「まあ、何とかなるさ! 元気出せよ!」
「そうよ!」
「そうです!」
 ハヤト、ナツミ、アヤの三人に励まされ、皆は、絶望も諦めもまだ早いと、決意を新たにした。

 一人、話に混じっていないバルレルに、今更ながら気づいたは、側によって、声をかけた。
「ねえ、バルレル、いい知恵ない?」
「サァな。テメェの親にでも聞けよ」
「はぁ?」
 そのやり取りを見ていたネスティが、バルレルの言葉に同意するように頷いた。
「…実は、僕も気になってたんだ。の両親は、僕らが別世界の人間だっていうのに、余り驚いていない気がする」
「……性格のせいだと思うけど? うちの母さん、凄いのほほんとしてるし、父さんも、ある意味無頓着だし…信じてないだろうしねぇ」
 昨日は、感動の余り、その 『異世界』 って部分をスルーしているような気がする。
「『いいのよ、家出していた間の事は話さなくて。こうして戻って来てくれただけで』 って言葉が返ってくるだけだと思うよ??」
 だが、一行の目は真剣で。
 まあ……何かにすがりつきたい状況ではあるけれど。
 は、腕を組んで空を見上げた。
「はいはい、分かりました。聞きますよ、聞きます」






段々と後が詰まってきました…;;駆け足でまいりましょう。
……ラストまでさっさと書きます、はい…(滝汗)

2003・7・4

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