岬の館 2




「ふふん、どうやら、私たちには敵わないってトコかしら?」
 ミモザが得意満面に、膝をついているレイム、ガレアノ、キュラー、ビーニャに言う。
 先ほど始まった戦闘は、あっさりとした決着を迎えていた。
 何しろ、『無色の派閥の乱』 に関わった人物が大半。
 個々の戦闘能力も、並ではない。
 だが、負けたはずの四人は、依然として、不敵な笑みを、その面に貼り付けていた。
 薄ら寒いものを感じ、思わずはバノッサの後ろに隠れる。
「何してんだ、てめーは」
「……何か、変なんだもん、アイツら…」
 バノッサがレイムを見て、嫌悪の表情を向ける。
 ……自分の体が、あいつの力で作り上げられたなんて、薄気味悪い。
 どうやったかは知らないが、バノッサをこの世に呼び出したのは、あの男――レイムだ。
 だが、こうして生きているところを見ると、蘇らせたものを、意志一つで消す事はできないらしい。
 転生。
 自分は、あの男の手で、この世に再び転生したのだろう。
 ビーニャが、うずうずしたような声で、レイムに問う。
「ねえ、レイムさまぁ…このまま言われっぱなしじゃ、ムカつくしぃ」
「そうですね、ビーニャ。本当の姿を、見せてあげなさい」
「やっさしい〜! レイムさま、ありがとうございまーす!」
 きゃはははと笑いながら、ビーニャは、ガレアノ、キュラーにも目配せする。
 すると――。

「な、何だ…? 奴らの体が、歪んで……」
 ネスティが驚きの眼を三人に向ける。
 ビーニャ、ガレアノ、キュラーの体が歪み、変形し、かと思うと、物凄い悪意の塊――瘴気――の波動が、トリスたちを打ちつけた。

「ぐぁあっ…!!」
「きゃあ!!」
 トウヤもソルも、この場にいる皆が、その波動に打ち付けられ、四方からやって来る驚異的な邪悪さに、膝をつく。
 悪魔であるバルレルは何とか耐えているが、彼ですらそんな状態なのだ。
 他の――人間である皆は、苦しげに息を吐き、人外の者となった三人の召喚師を、ただただ、力なく見つめるしかなかった。
 ただ一人、――彼女だけは、重苦しい空気に耐え、立っていた。
 それがどれだけ異常な事か――彼女自身は分かっていないのだろう。
 皆を心配しながらも、悪魔たちを見据える。
「な、んなの…よ、あんた…たちはぁっ!!」
 怒りの眼差しを向けるを見て、レイムが高らかに笑う。
「はははは!! さすがは我らが憎き花嫁! これだけの魔力を前にして、さほどこたえてはいないようですね」
「何よっ、それはっ……受け皿とか花嫁とか、わけわかんないのよ、あんたら!!」
 そうがなり立てた瞬間、はキュラーに、後ろから羽交い絞めにされていた。
 外そうともがくが、体格の大きな悪魔と、非力な人間とでは、話にもならない。
 レイムは楽しそうにに歩み寄り、顔を近づけた。
「貴方は、過剰な力を、送り返してしまう…。が、逆に考えれば、貴方を使って、力を呼び寄せる事だって、できるはずです」
「……??」
「以前は邪魔が入りましたが、今度は逃がしません。リィンバウムを護る力、我々の目的のために、使わせて頂きますよ」
 レイムの指が、そっとの輪郭をなぞる。
 ぞくり、と背筋に寒気が駆け上っていくのが分かった。
 ――この男は、本気で自分を利用できると考えている。
 は彼の目を見て、分かってしまった。
 あるいは、頭の隅で、何かが警鐘を鳴らしたのかもしれない。
 まだ見ぬ、自身の力が――小さく告げた。
 この男に、ほんの少しでも、己の力を見せてはダメだ!
 だが、悲しいかな、そう思ったその時には――既に、何度も戦いを見せてしまっていたし、今、まさに、悪魔の覇気に負けないという証を立ててしまっていた。
 もしかしたら、考えるだけ、無駄というものかもしれない。
 彼は――レイムは、何でも知っている気がしたからだ。
 トウヤとソルが、『呪い』 を外した事。
 バノッサにかけられた、何かしらの力を外した事。
 証拠という訳ではないが、レイムは先ほどから、の右手に記されている、紫色の 『紋章』 を気にしている。

「…そう、今度こそ…私の花嫁に…」

 顔が近づく。
 レイムの狂気をはらんだ眼差しに、は思わず目をぎゅっとつぶった。
 その瞬間。

「やめやがれ! この腐れ男が!!!」
 叫びを聞き、レイムはすぅっと目を細め、後ろを向いた。
 大声を上げた――バルレルに、視点を合わせる。
 からは見えなかったが、レイムは他の誰よりも、バルレルを悪意を持って見つめた。
「…おやおや、悪魔の身である貴方が、この娘を護ると? 今までも、そうして護って来たんですよねぇ…。 何度も我々の邪魔をして…。まあ、結果として、彼女の力が増幅したのは、好都合でしたが」
「レイムさま、さあ、お早く…」
 羽交い絞めにしているキュラーが告げる。
 ビーニャと、ガレアノが、薄ら寒い笑い声を上げる。

 レイムの手が、の胸に――ずぶり、と入った。

「いやあああああ!!」

 胸の中にある、大事なものを掻き出されるような、生ぬるい泥沼に、全身が埋まってしまったかのような、とにかく気持ち悪い感覚が、全身を覆う。
 その悲鳴に、周りで苦しんでいた仲間たちが、一斉に反応した。
「やめろーーーー!!」
を、離せぇぇっ!!」
 トウヤとソルが、みもなりも構わず、高位召喚を行う。
「クソッタレ!!」
さんを離して!!」
 バノッサとアメルの力が――通常のそれとはかけ離れた力が、レイムやキュラー、ガレアノ、ビーニャに向かう。
 その場にいるほぼ全員が、何らかの魔力の放出をした。
 それを阻もうと、悪魔たちも魔力を放つ。
 バルレルは一瞬のスキをつき、レイムの腕を槍で串刺しにし、彼女の胸の中から腕を引きずり出した。
「チッ…きさまぁ!!」
 レイムの魔力が、バルレルに向けられようとした瞬間――の中にある何かが、弾けた。
「バルレルっ!!」
 彼を、レイムから助けようと、知らず、魔力を放出する
 それとほぼ同時に、アメルが神聖な力を放つ。
 皆の放った魔力と、アメル、の魔力。
 悪魔たちの瘴気と人外の力で、地下室が満たされた。
 それは荒波とも似た波状となり―――空間を、捻じ曲げる。

「何っ!!」

 レイムが驚きの声を上げる。
 瞬間、地下室を、真っ白な光が満たした。






妙な所で切れてますな。毎度の事ながら。
ほんっとにウチのレイム氏は極悪チックでどうしようもないですな…可愛げのない。

2003・6・20

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