岬の館 1




 翌日、岬の洋館へと、調査のため――ギブソンとミモザたちの調べている、召喚師失踪事件の解決――に協力すべく、、バルレル、トウヤ、ソル、その他ネスティとトリスにマグナ、乱入してきたアメルにバノッサ、更に付け加え、エルジンとエスガルドが、問題の岬の館の付近にいた。
 蒼の派閥からの勅命で、全ての行動の実権を握っているとはいえ、人数が多すぎるかもしれないと、ギブソンは苦笑いした。

 ミモザ、エルジン、エスガルド、バノッサとアメルが館の周囲を、ギブソン、、バルレル、トウヤにソル、マグナにトリス、更にネスティが館の中へと入り、調査をする事にした。
 閉ざされたドアを開ければ、ギギィっと、何とも耳障りな音と共に、室内に、外の光が入り込む。

「うわぁ…真っ暗……わぷっ!!」
「ホントだ…ぷわっ!」
 マグナとトリスが一緒になって中へ入ると、その顔に蜘蛛の巣が引っかかり、二人は慌ててそれを振り払う。
 兄妹二人して、おんなじ様な行動をとるとは……いや、兄妹だからか。
 後から入ってきたネスティとギブソンが、少々落胆した声で、フロアを見渡した。
「これは…ハズレかもしれませんね」
「だろうね…」
 ネスティの言葉に、ギブソンが苦笑いする。
 彼らの否定的な言葉に、トリスとマグナが眉根を寄せた。
 来た早々、何を言っているのかと。
「詳しく調べもしないで…」
「そうよ」
 二人の発言に呆れるネスティに代わるように、トウヤとソルが、その理由を話した。
「もし人の出入りがあるなら、蜘蛛の巣が出入り口に張られてるはず、ないだろう?」
「それに、こんなにホコリが積もってんだ。床に足跡があってしかるべき…だろ?」
 トウヤとソルに言われ、あっと気づく二人。
 ギブソンが苦笑いをこぼし、ネスティが額に手をやった。
 今までの戦いで成長したかと思えば、これだ、と。

 も一応、あちこち探してみるものの、目立った異常はなかった。
「私、二階見てくるね」
「気をつけてな」
「うん、ネスティもね」
 さくさくと二階に上がり、一部屋ずつ異常がないかと探していく。
 だが、どの部屋も、ホコリだらけの、今は使われていないと、明らかに分かる家具類があるだけで、特に目立って怪しいものはなかった。
 床ににも、足跡一つない。
「……収穫なしっと」
 光のせいで、部屋中に舞い上がって見えるホコリに背を向けて、は下の階にいる他のメンバーに、”何もないよ” と声をかけようとした。
 その時―――
「…ねえ、バルレル…その、本棚の奥の方…」
「あぁ?」
 元々調査をしておらず、壁に寄りかかっていて一番暇そうな彼に声をかけると、不機嫌そうな声が返ってきたが、そこはマスター。
 爽やかに無視する。
「いいから、本棚の奥、見てよ!」
 の言葉に、舌打ちしながらも、素直に従う。
「本棚の奥ねぇ……。 これは……!」
「何だ?」
 バルレルの大声に、ソルが怪訝に思いながら、後ろから覗き込む。
「っ……」
 ――そこには、ひからびた死骸の山が出来上がっていた。
 上から見なくては、暗くて分からない場所だったので、下の皆は気づかなかったのだ。
 トウヤとネスティ、ギブソンもそこへ近づく。
 トリスが付いて行こうとすると、マグナが止めた。
 正しい判断だと思う。
 ミイラ状になっており、腐臭こそないが、折り重なり、山のようになっている死骸など、なるべくなら見ない方がいい。
 は慌てて下におりると、トリスの側に寄り、死骸を見ている男どもに声をかける。
「…何か、分かった?」
 ギブソンが、半ばため息と共に答える。
「…行方不明の召喚師たちだ……こんな…」
 彼らが、行方不明の召喚師たち……。
 しかし、何かがおかしい。
 ひからびて、ミイラになるなんて――。
 普通の死に方ない事は、確かだ。
 は、何か強烈な他意を…邪悪なものを感じ、体をぐらつかせた。
 隣にいたトリスが、その体を慌てて支える。
「大丈夫?」
「うん…ごめ――」
 その時だった。
 どこからともなく、悲鳴が聞こえてきたのは。

「申し訳ありません、レイム様……」
「いいんですよ。貴方たちは、とてもよくやってくれています。合う体というのは、なかなか難しいものですからねぇ…」
 その言葉のやり取りを、トリス、マグナ、、ギブソン、バルレル、トウヤとソルは、地下への階段の影に隠れて聞いていた。
 先ほどの悲鳴の出所を探した結果、地下室への入り口を発見し、下りて行った先には――ビーニャ、キュラー、ガレアノ、そしてレイムという、最悪の四人組がいた、という訳だ。
 肩を壁に押し付けるようにし、ソルがこっそりと様子を窺った。
 四人組の他に、一人、召喚師の身なりをした女がいた。
 だが、その女は無残にも床にうち捨てられ、しかも、上の階の死骸の山と同じく、ミイラ化している。
(……こりゃ、あの四人の仕業だな)
 ギブソンが代わって覗き、やはり、と苦虫を噛み潰したような顔をする。
 小声で、皆に告げた。
「悲鳴を上げた召喚師は、既に事切れている…。しかも…あの四人の召喚師は、私達が探している召喚師たちだ…」
「ど、どうい――もがっ!」
「しぃっ!!」
 トリスが大声を上げそうになり、マグナが急いで口をふさいだ。
 ひっそりと、ネスティが告げる。
「要するに、彼らは行方不明になっている召喚師たち…だと?」
「そういう事になるね」

「そろそろ、聞き耳を立てているなんてお行儀の悪いことはやめませんか?」
 突然の言葉に、びくっと反応する一同。
 レイムやビーニャの視線が、一点に絞られている事からして、とっくに気づかれていたと知る。
 これ以上隠れていても仕方がないと踏んだ一行は、臨戦態勢をとりながら、広間に出て行く。
 いつでも戦えるよう、意識を持ちながら、レイム率いる三人の前に立った。
「…一体、どいういう事なの」
 がレイムを、キッと見据えつつ発言すると、彼は自らの体を見、それから親切にも、説明を始めた。
 何故、ビーニャやキュラー、ガレアノ――そして自分が、行方不明の召喚師たちの姿をしているのかを。
 血識というものの存在を。
 そして、その血識を得るための剣を、彼らは持ち、召喚師たちの体内に流れる血を――血識を剣より吸い取ったがゆえに、召喚術を使いこなせるようになった。
 その人物の、全ての記憶、経験、知識。
 それら全てが、たった一本の剣によって吸い取られ――残骸と化したものが、上の階にあった、ひからびた召喚師たち、というわけだ。
「皆!! 無事!?」
 レイムたちがその話を終えた所で、外を探索していた一行が、走ってやって来た。
 どうやら、エスガルドの外からのサーチにより、地下室を発見したらしい。
 レイムが、不敵に笑む。
「どうやら、皆さんそろったようですね……では」

「戦闘を、始めましょうか」




なんつって、戦闘シーンはありません。
次行きましょう(すみません…)

2003・6・20

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