解読





 トリスたちがゼラムへと戻ってきた。
 彼らは一様に肩を落としており、広間で理由について話してくれた。
 デグレアが――死の街と化し、その上、ルヴァイドやイオスたち、黒の旅団の上にいる、元老院議会の人間は、全てガレアノやキュラー、ビーニャの手によって殺されており、彼らによって、デグレアは完全に掌握されていたというもの。
 なにを企んでいるにしろ、いい事ではない。

「……なるほどね…」
 思慮深げに、ソルが唸る。
 ネスティがため息と共に、口を開いた。
「僕らにせよ、敵の本当の姿を見て戦っていた――という事ではなかったようです。今回デグレアへ行かなければ、なにと戦っていたか理解出来なかった…」
 国家と戦っているのだと思っていたネスティにとっても、今回の一件は、かなりショックな出来事だったようだ。
「ガレアノ、キュラー、ビーニャ……となると、必然的にあのレイムも関わりがあるでござろうな」
 カザミネの発言に、否定的な言葉を向ける人物は、誰もいなかった。
「ところで、彼――バノッサ、だっけ?」
 マグナがソファの端にいるバノッサについて、教えて欲しいと言い出した。
 バノッサは自分からはなにも言わなかったが、
 代わりにとトウヤが状況を話した。
 レイムに蘇らせられた事。同じく、操られていた事を。
「……今は大丈夫。私が変なもの、吸ったみたいだから」
「……??」
 リューグが怪訝そうな表情を向けるが、はにこりとしただけだった。
 彼女自身にも、なにが起こったのか判ってはいないのかもしれない。

「あ、ところで解読の方は…」
 カイナの質問に、ギブソンが頷く。
「ミモザ」
「はいはい」
 解読した文章を書いた用紙を、トリスとマグナに見せる。
 …かなり厳しい事が書いてあるようで、彼らの眉根が寄せられているのが見て取れた。
 ミモザがとりつくろうように、
「きつい批難がこもってる文章だけど…見て欲しいのは――ここ」
 示した場所には、赤いインクで線が引かれていた。
「……メル、ギトス?」
 ぴくん、とバルレルの肩が揺れる。
 小さな――本当に小さな声で、「やっぱりな」 と呟いた。
「アルミネの名前が隣にある事から考えて、多分敵対していた――悪魔の名前だと、私は思う」
 アメルが口元を押さえた。
 記憶の中に、引っかかるものがあるのだろう。
 ネスティの方にも、引っかかるものがあるらしい。
「ところで、旦那方の調査の方は、どうなってんだ?」
 レナードの質問に、ミモザがニッコリ微笑む。
「ええ、明日、それらしい線で上がってきた場所を捜索するつもりなの。で、とバルレル、トウヤとソル、一緒に来てもらおうと思ってるんだけど」
「え?」
 が驚きの声を上げるものの、すぐに了解した。
 自分達がいて不都合が起きないのであれば、協力を惜しむつもりはない。
「じゃあ、ちょっと早いけど――私達、先に出るね。バノッサに街案内したいし」
 にこやかに言い、立ち上がるバノッサと
 トウヤとソルも立ち上がり、彼らの後についていく。
「……ねえ、バルレル君は行かないの?」
 アメルの問いに、彼はむくれてそっぽを向きながら答えた。
「いいんだよ」


 達がバノッサに街を案内している間、ネスティは書庫にこもっていた。
 翌日のギブソン、ミモザの汚名返上のための調査に、トリスとマグナの二人と自分を含め、参加する事にしたし、後は――前々から思っていた自分の考えが、合っているか間違っているか、それを確認したかった。
 に対してレイムが以前使った言葉。
『受け皿』
 この意味を、どこかで――目にしていた気がしたのだ。
 受け皿という言葉から読み取れるのは、まさしく、何かを受ける皿――入れ物だという事。
 それ以外にも、何か重要な――そう、凄く重要な意味合いが含められている気がして。
 以前バルレルに釘を刺された。
 余計な心配してる暇があるのか、と。
 そうとも。これは余計な心配だ。
 だが――レイムは何かを企んでいる。
 それに、という存在が、何かしらの意味を持っている気がしていた。
 だからこそ――。

 その日、ネスティは派閥に足を運び、二つの本を見つけた。
 一つは童話。
 もう一つは――古ぼけた、伝説を記した本。

 ネスティは驚愕した。
 だが、信じてはいなかった。
 が、そうであるはずはない。
 もう、百も二百も前の事だ。
 ありえない。
 急に自分のしている事が馬鹿らしくなり、ネスティは本を閉じた。
 心なしか、震えている手を無視して。





…えぇと、とりあえずですね…次いきましょう(毎回これだよ)
今回のタイトルはかなり適当です(爆)

2003・6・14

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