再会は絶望と共に 2 呪いが解けて以来、初めての召喚。 とにかく、普通であればいい。 威力が多少小さかろうと、出ればいい。 そう思っていた。 召喚師対とトリス。 召喚術師同士の戦いは、魔力合戦と言ってもいいほどだ。 本来なら、剣士たちを召喚師との戦いに投入した方が楽なのだが、今回はどうにも動ける人数に限りがあった。 体力の面も考え、ネスティは身軽な二人を上に向かわせたのだ。 「さーて、トリス。いっちょ参りましょうか!」 「そうね、行きましょう!」 二人は互いに背あわせ状態で、己が向かう敵を見――そうしてから、戦いを始めた。 離れず、常に協力できる距離を保って。 レイムは、の様子を少し離れた所から見ていた。 熟したのか、否か。 もし熟していたら――。 「鬼神斬!!」 トリスの呼び出しに応えた、鬼神将ガイエンが、敵の召喚師を切り裂く。 食らった男は悲鳴を上げ、敵の召喚師の呼び出しがキャンセルされた。 その瞬間、が剣で切り上げ、術師は体に傷を負う。 致命傷ではないが、トリスとの連係プレイは、敵の戦闘意欲をそぐ結果となったようで、男はそそくさと茂みの中へ逃げ隠れた。 どうも、忠誠心が薄いあたり、金で雇われた外法のようだ。 「トリスさっすが〜」 「へへん。伊達にネスにしごかれてないもんね!」 「言えてる」 笑っているところへ、もう一人の召喚師が現れた。 ただし、兵士を一人引き連れている。 召喚師は兵士を盾にして、の攻撃を防ごうと考えたようだった。 兵士が突っ込んできた時、トリスは体制が整っておらず、腕を切られてしまったが、出血は酷くはない。 「馬鹿! 油断してるな!!」 下のほうからネスティの怒号が響いて来た。 「っ…分かって…」 「危ない!!」 剣をひるがえし、もう一撃くらわせようとする兵士に突貫しながら、は召喚を口の中で行った。 兵士の剣がトリスに届く前に、男はの突き飛ばしを受け、元々足場が悪かったために重心をずらしてしまい、岩壁に体をぶつけた。 瞬間、が手を広げ、術を試みた。 「いやしの聖光!」 聖母プラーマが現れ、トリスの回復を行う。 腕の傷は、綺麗さっぱり消えてなくなった。 とりあえず、この程度の召喚術は大丈夫らしい。 「くそ、邪魔を…!!」 兵士がに怒りをともし、今度はに向かって剣を打ち出してきた。 トリスが間に入って応戦するが、力負けしてしまうのは目に見えている。 だが、時間を稼いでくれるのはいい。 「トリス、もう少し頑張って!」 「わかった!」 後ろに位置している召喚師の呪文が、のそれより一足早く終わり、ダブリーザーを仕掛けてきた。 ウィンゲルが呼び出しに応じ、を中心にトリスと――味方である兵士も巻き込みんで攻撃を仕掛ける。 衝撃派は交戦していたトリスと兵士を吹き飛ばし、壁へと打ちつけ、もまた、耐え切れずに地面に転がり込んだ。 続けざまにベズソウを呼び出そうとする召喚師よりも早く、打ち込まれても中断しなかった呪文の、最後の一つを放った。 紫色の歪みが生じ、そこから悪魔が現れる。 それを認めた瞬間、召喚師は身を振るわせた。 「トリス、気をつけてね!」 呼び出された者を見て、彼女は慌ててジュウユの実を口に押し込み、の近くに走って寄った。 兵士は訳が分からず、宙から自分達を見下ろしている悪魔を見つめている。 「デヴィルクエイク!!」 がそう命じると、魔臣ガルマザリアは地面に大きな武器を突き立て、魔力の波動で地面を揺らし、崖を崩した。 紫色の空間が、広がる。 兵士は痛みが全身を貫き、弾き飛んできた岩石の破片にあちこち傷つきながら、意識を喪失して行った。 トリスはの魔力障壁の側にいて、ダメージを受けはしなかった。 もう一人、召喚師は召喚を中断し、全身防御体制にはなっていたが、吹き飛ばされ、予想以上にダメージが大きく、気を失ってしまった。 「…うわぁ…、凄い…」 「そうでもな……! トリス!!」 目の端に一瞬だけ映った物に、本能が反応した。 トリスの背中を軽く押し、壁に寄りかからせ、自分は体をよじりながら腰に装着していた料理用の小さなナイフを、目的に向かって振り向き様に投げつける。 バランスを崩し、そのまま地面に倒れ込んだが見たのは、トリスと自分の間を走っていく弓矢――。 「ぎゃぁっ!!」 茂みの中から、男の悲鳴が聞こえ、トリスは振り向いた。 見ると、が投げつけたナイフを胸に生やした弓兵が、倒れこんだ所だった。 「……見えてたの?」 信じられないと見つめてくるトリスに、は肩をすくめた。 「戦闘中の直感は、なるべく信じるようにしてるの」 「………」 トリスは、無言だった。 直感が働くほどに戦ってきたのだろう。 死線を何度も越えてきたのだろう彼女を見ると、何だか胸が痛くなる思いがした。 はデヴィルクエイクでぐしゃぐしゃになった崖を、ひょこひょこと軽快に歩き、弓兵の元まで寄った。 兵は、既に事切れていた。 彼女はナイフを引き抜く事はせず、目を閉じさせるだけに止めた。 とどめをさすつもりはなかったのだが…結果的にこうなってしまったのは、仕方がない。 戦闘とは、そういうものだ。 倒さなければ、倒される。 出来る限り気絶、で止めるようにしているのだが、そうできない時もある。 ……何度経験しても、何度戦っても、慣れる事のない感覚。 は、兵士の手に武器を戻した。 下で全てを見ていたレイムは、の能力に笑わずにはいられなかった。 普通の召喚師が使うデヴィルクエイクの、何倍もの力の放射。 それだけ、彼女の魔力が高くなっているという事だ。 『封印粉』を乗り越えた彼女は、確実に以前より強くなっている。 だが、まだだ。 熟すのに、もう少しの時間がいる。 レイムは口の端を上げ、背後に静かに立っている男――今まではいなかったその男に、静かに話しかけた。 「待っていろ、と言ったはずですが…仕方ありませんね、貴方は」 上から戻ってきたとトリスは、マグナとバルレルの共同作戦で押され、イオスとルヴァイドが一緒になって戦っているのを見た。 周りの兵士もあらかた倒されるか、気絶させるかして、残っているのは数少なくなっている。 ルヴァイドは、ロッカとリューグの共同攻撃に徐々に体力を奪われ、ロッカをアメルの回復が必要なまでに陥れていた。 今はリューグ一人が、ルヴァイドと戦い、イオスがシャムロックと戦っている。 「く……ルヴァイドっ!!!」 「ぐぅ…っ」 残るパーティメンバーたちは、兵士達の攻撃から、アメルを守り続けている。 一騎打ちの状態が続いていた。 そのうち、ルヴァイドが押し始め――リューグは、彼の剣で吹き飛ばされた。 何十度目かの強撃に、腕がしびれて来る。 そうしているうちに、デグレアの軍勢はファナンへとどんどん近づいていった。 このままでは、進軍されてしまう。 制圧されてしまう。 「くそ……まにあわねぇ!」 フォルテがうめく。 レイムが笑った――その時。 「油断大敵ですわ!!」 召喚術の炸裂音がし、レイムは油断しきっていたため、それを正面からくらってしまった。 とはいえ、きちんとガードはしているので、ダメージは薄い。 「あっ…! あんた!」 ミニスが指をさし、声を上げる。 術を放ったのは、ケルマだった。 その直後――物凄いサプレスの力が生じ、地面を激しく揺らした。 金の派閥顧問、ミニスの母、ファミィさんの仕業だった。 「いやはや、これほどまでに大きな召喚を使われるとは…。完全に計算違いですね」 レイムは痛くも痒くもないといった表情で、ひょうひょうと事実上、戦闘の終わったルヴァイド達の元へと歩いてきた。 ルヴァイドとリューグの戦いは、引き分けというのが正しいだろう。 戦争に、引き分けなんて本当は存在しないのだが。 「…負傷者の救出、迅速にその場を離れ、隊を編成しなおす。異存はあるまいな、顧問召喚師どの」 「…仕方ありませんね」 ルヴァイドはレイムの了解を得ると、 イオスを隊へと走らせた。 「?」 イオスは、レイムの横にいる黒いマントをまとった男に見覚えがなかった。 だが、顔を改めている場合ではない。 任務を全うすべく、軍隊の方へと急ぎ走っていった。 はネスティの側により、大分傷ついている皆を、アメルも含めて、オーロランジェで癒した。 「すまない…」 ネスティの言葉に、「問題なし」と答えたその時――が、固まった。 ある一点を見つめ、言葉をなくし――震えている。 「嘘…よ……」 「、どうしたんだ!?」 倒れそうになるを、ネスティが慌てて支える。 ガクガクと体を震わせ、口元を抑える彼女が普通じゃない事は、誰もが見て取れる所だった。 カイナも気づき、驚愕の眼差しで口元に手をやる。 「そんな……」 「カイナもどうしたんだよ」 マグナの言葉に、カイナは首を横に振り、分からないと表現するだけ。 「……おや、さん、どうなさいました?」 「レイム……どうして……どうしてあんたの隣に、彼がいるの!!」 「なにか問題でも? お知り合いですか?」 レイムはクスクス笑いながら、自分の隣にいる黒布をまとった男を前に出した。 ルヴァイドは不思議そうに男の顔を見ている。 ……知らない人間だ。 だが、は知っていた。 その人物を。 知りすぎるほどに。 「……バノッサ……!!」 震える口唇から、なんとか音を発する。 その名前に、数人の者達は聞き覚えがあった。 だが、彼は――既にこの世の者ではないはずだった。 バルレルはレイムがなにをしたのか理解した。 死者蘇生をやってのけたのだと。 は信じられない思いで、彼を見ていた。 一年も前に――いなくなった人。 自分が止めを刺した。 自分が、彼をこの世のものではなくしたのだ。 それなのに、どうして立ってるの? どうして、生きてるの? 混乱する頭で、彼女はバノッサに近寄ろうとしたが、ネスティに止められた。 「、やめろ!」 「バノッサ……バノッサなんでしょう!? なんとか言いなさいよ! 違うなら…違うと言って!」 悲痛なまでの彼女の叫びも、バノッサには意味がないものだった。 少なくとも、今の彼には。 「さん、彼はバノッサですよ。貴方の知ってるね」 「そんな…嘘……」 「嘘ではありません。今では私達の仲間なんですから」 「………」 絶望的なまなざしを向ける。 レイムは、楽しくてたまらないといった顔をして、「それでは」とだけ言い残し、 バノッサとルヴァイドと共に立ち去っていった。 「…嘘よ…」 「!」 その場に膝をつくに、誰も、なにも言えなかった。 カイナは目に涙をため、立ち去った彼らをずっと見ている彼女の心境を察した。 死者は蘇らない。 では、彼は一体なんなのだろう。 疑問が際立つ。 それと同時に、ずっと封じていた悲しみも掘り起こされる。 は、酷く混乱していた。 ウチにしては、またも長く。会ってみました(話が繋がってないぞ) 召喚術を使う際、見方を巻き込みますが、ダメージは小、またはなし、の設定です。 味方が放った術で戦闘不能になる事はありませんです。 私的勝手な解釈ですが、『敵』と認めるものと違うため、 何かしら防御壁のようなものがでるのではと。…小説中で書けってな。 2003・5・30 back |