紫の解放 1




「じゃあ、行って来るね」
 トリスが元気に言い、最低限の荷物を背負って、ギブソン・ミモザ邸の入り口に立った。
 他のメンバーも、皆にこやかに居残り組みに挨拶している。
もトウヤもソルも、頑張れよな」
「バルレル君もね!」
 マグナとアメルもにこやかに挨拶し、一同は、自分達の戦いへ――禁忌の森へと、赴いていった。
 達居残り組みの誰一人として、『絶対に戻って来い』とは言わない。
 戻ってくるはずだから、と。

 一行が聖王都を出て、禁忌の森へと旅立ってから、三日が経った。
 その間、トウヤとソルはに張り付いている 『呪い』 の、なるべく安全な解呪方法を求めて、文献をあさっていた。
 本で山積みになっているソルの部屋の一角で、トウヤとソルは、最終的な解呪方法のチェックに入っていた。
 バルレルも、例の<禁書>の解読に借り出されて、一緒に部屋にいるが、至極不機嫌そうなのは相変わらずだ。
「バルレルー、開けてー」
 閉じているドアの向こう側から、足で蹴飛ばしたような音が二度ほど。
 名指しで言われてしまい、面倒くさがりながらも、ドアを開ける。
「お茶持って来たよ。お茶菓子は今回なし」
「それは残念」
 ニコニコ笑いながら、トウヤが茶器の乗ったトレーをから受け取る。
 バルレルは 「ふん」 と鼻を鳴らしながらドアを閉め、
 床にどかっと座り込む。
 も、トウヤとソルの邪魔にならないよう、バルレルの横に座った。
「ごめんね、面倒かけて」
「しおらしいなんて、らしくないな。この世の終わりみたいだから、やめてくれ」
 言葉の端々に笑いを含ませながら、ソルが紅茶を口に運んだ。
「ひっどいなぁ〜」
 は膨れて頬を赤くしながらも、
 自分のために協力してくれるソルやトウヤに、感謝の念を忘れない。
 勿論、顔に出しはしないが、バルレルにだって感謝している。
 余り考えすぎると、自分の情けなさに泣き出しそうになってしまいそうなので、意識にフタをしていたりするのだが。

 お茶を飲み終え、解呪についてのチェックを再開しようとした折――突然、の隣にいたバルレルが、不機嫌な声を上げた。
「……おい、召喚師」
「……バルレル、もう少しまともな言い方はないか…」
 ソルが愚痴をこぼす。
 バルレルは、不服そうに言い直した。
「チッ…。ソル、と、リンカー……トウヤ」
 リンカー、と言った瞬間、から思い切り睨まれ、仕方なく言い直す。
「……ともかく、本気でやるのかよ」
 本気での呪いを解除するのか、という意味。
 なにを今更という感じで、ソルが気の抜けたような声で 「ああ」 と言う。
「無知な訳じゃねえだろ!? こいつの体に、どれだけ負担がかかるか分かってんのかよ!」
 バルレルの声が部屋中に大きく響き、それから一切の音が止まった。
 が、トウヤが――息を呑む中、ソルだけが、怒りの表情をにじませていた。
 持っていた本を、床に叩きつける。
 本は、余りに勢い良く叩きつけられ、バウンドして床に落ちた。
「なら、お前がなんとかしてくれるって言うのか!?」
 ソルが弾けたように怒り出す。
 本にまみれ、精神疲労が高まっていてイライラしていた所に、バルレルの発言。
 トウヤは苦笑いした。
 冷静に見えて、ソルは実に熱しやすい。
 勿論、バルレルはそんな事知らなかっただろうけども。

『お前がなんとかしてくれるのか』

 バルレルの表情が、一瞬困った顔色に染まり、それから直ぐに、ソルに対抗するかのように怒りに彩られた。
「っ…他人がかけた呪いなんか、外せるかよ!」
「なら四の五の言うな! がいいって言ってるんだ!」
「てめぇ!!」
 互いに殴りかかろうとまで激昂し、完全なるケンカ腰。
 トウヤとは、即座に立ち上がると、彼らの間に割って入り、無理やり引き剥がす。
「まだ、やる事があるだろう?」
 トウヤが、ソルに笑顔で言う。
「いい加減にしてよね〜」
 が、にこやかにバルレルを言い含める。
 二人ともその状態を見て、素直に収まった。
 がふぅ、とため息をつく。
「ごめんね。お茶が必要だったら、また言って。私、こいつと一緒に下にいるからさ」
「了解」
 の言葉に、トウヤが苦笑いする。
 ソルは、むっつりとしたまま、片手を上げて<了解>の意を唱えた。
「ほらっ、バルレル行くよ!!」
「ケッ」
 険悪な雰囲気を若干残しつつ、とバルレルは部屋から出て行った。
残されたトウヤとソルは、無言でまた作業に戻る。
「…ま、彼なりに心配してるんだろうね…」
「………俺は、絶ッッッッ対、認めないね」
 ソルがトウヤに向かって、ぶーぶー言い出す。
 トウヤには、なんとなくバルレルのあの態度の理由が分かる気がした。
 彼は、彼なりに心配しているんだろう。
 ………色々な意味で。









ソルVSバルレル…?(汗)
本筋だと、トリス達は禁忌の森で色々やってるという、あの部分です。
オリジナルばっかですみません;; 進みが相変らずだ…。

2003・1・19

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