心の向く先は 2





 ギブソンたちに知恵を借りようと、トウヤとソルが下に下りた所に、、トリス、マグナにアメルが、今まさに、これからどこかへ出かけようとしていた。
 二人に気づいたが、大きく手を振る。
「どこか行くのか?」
「うん、買い物にね」
 ソルの問いに、明るい調子で答える
 今更だが、トリスとマグナの互いの対応から、兄妹らしいという事に気がついた。
 アメルが、不思議そうにソルの顔を覗く。
「どうかしたんですか?」
「あ、いや……」
 目線が二人に向けられているのに気づいたのか、アメルがくすくす笑う。
 ケンカなんかしそうもない、凄く仲のいい兄妹。
「仲がいいでしょう、あの二人」
「ああ…そうだな、羨ましいよ」
「ソルさんに、ご兄弟は?」
「俺の……兄弟は――」
「アメルー、行くよー?」
 に呼ばれ、アメルは一人取り残されていた事を知り、慌てた。
 ソルににこやかにお辞儀をすると、「行ってきます」と言い、
 パタパタと走って、彼らと一緒に街へと出て行く。
「……兄弟、か……」
 ソルは両手を広げ、手のひらを見た。
 自分が助かる為に、零れ落ちていった兄弟。
 ……今思い出しても……。

「ソル」
「っ…あ、ああ、トウヤ。大丈夫だ」
 トウヤに声を掛けられ、過去の世界から現実へと目を戻す。
 そうだ、今はやらなければならない事がある。
 大切な人を、守るために。
 あの時と、同じように。


「ロッカとリューグは二人で買い物してるんだっけ…」
 がメンバーを見回して、ポツリと呟いた。
 まあ、リューグに限っては未だに警戒されている部分があるから、と一緒に行動したいとは思わないのかもしれないが。
 ロッカの方とは、余り話をする機会がないので、勿体無い事かもしれない。

 一向は商店街を目指して歩いていた。
 ゼラムで多くの物資が集まる場所と言えば、そこだろう。
 今回、は居残り組みなので、主導権はトリスとマグナ、アメルだ。
 その二人は―トリスとマグナは、どういう順で回るのが一番いいか、と、言い合っている。
 アメルがその様子を見て、小さく笑っていた。
「ほんと、仲がいいですよね」
「うん。…ネスティも来ればよかったのにね」
「まあ、別に用事があるみたいでしたし」
 ネスティは、済ませる事があると、トリスたちを待たずに一人で出て行ってしまっていた。
 の護衛召喚獣バルレルは、ゼラムへ着いてからというもの、実に不機嫌そうに、部屋にいる。
 ちなみに、トリスとマグナの護衛獣である、ハサハとレオルドは、それぞれ別行動。
 ハサハは商店街に、リューグたちについて出て行ったはずだが、レオルドはギブソン・ミモザ邸にて、メンテナンス中である。
「ちょっと、二人でなに話してるのよー。行き先決まったよ」
 トリスが少し離れた場所で歩いているとアメルに声を飛ばす。
 どうやら、マグナが押し負けして、女子軍の買い物が先になったらしい。
 マグナ荷物持ち、決定。

 トリスとアメルの買い物は、ある意味凄まじさを感じる程だった。
 店に行く度に、増える防具や武器。
 それはいいのだが、あれこれ可愛いだの可愛くないだの、なんだの言いながら、きゃいきゃい騒ぎつつ、荷物はパカパカ増えていく。
 マグナとが、両手に大荷物を抱える羽目になった。
「最後は、道具だね!」
「コレで最後にしてよ!ほんとに!!」
 が店に入っていくトリスとアメルに叫ぶ。
 「はーい」なんて可愛い答えを返していたが、どうなる事やら。
 残されたマグナとは、手ごろな縁石に座り、ちょっと休憩。
 大人に連れられ、子供達が商店街を走り回っている姿を見ていると、不思議と心が和む。
 今までとは何の違いもない、平和な世界のようだ。
 ……サイジェントでの事件の時も、そう思ったものだが。

「マグナ…しっかり二人を守ってね」
 走り回る子供達を見ながら、が小さくこぼした。
 彼は自信のなさからか、無意識に視線を下に落とした。
 の手にある、紫色の紋様を見る。
 彼女を蝕む呪い――けれど、日の光を浴びていると、それは、酷く綺麗に見えた。
「…僕に二人も守る力はないよ…」
「ない、と思うからなくなっちゃうんだよ。実際は相当キツイけど。大丈夫、マグナは頑張ってきたじゃない。トリスたちだって、ちゃんと分かってると思うよ?」
 力が強い事が、全てに対して強い事ではない。
 そう言ってニッコリ微笑むに、マグナは少し、居心地が悪くなった。
 なんだか、むずがゆい。
「…は、分かってくれてる…?」
「私? 勿論。だって、マグナとトリスが一生懸命に言ってくれなかったら、パーティの中に入れなかったもの」
 そういえば、どうして彼女を無条件で信じられたんだろう。
 確かにリューグやネスティの言うように、敵だった可能性もあったのに?
 けれど、マグナは信じられた。

 …だって、僕は知ってたんだ。
 始めて出会った時に見た、明るい彼女の姿を。
 人懐こい微笑みを。
 だから、敵だなんて思わなかった。
 ほんの少しは、疑ったかもしれないけど…。

 舞い上がった風が、彼女の綺麗な髪を小さく揺らした。
 サラサラで、気持ちよさそう。
 それに気をとられていて、マグナは自分が口走った事に、気づかなかった。
、好きな人とか…いる?」
「へ?」
 唐突な質問に、思わず口を開けてマグナを見る。
 そのの様子に、彼は自分が何を言ったのか知った。
 慌てて口を抑えるが、一旦出た言葉を引っ込めるわけにもいかない。
 知りたいのは、事実。
「…だから、好きな人だよ」
「皆好きだけど?」
 あっけらかんと答えられる。
 何となく、こういう答えが返ってくるような気はしてた。
「そうじゃなくてさ……男としてっていうか…」
「マグナは?」
「き、聞き返しは違反だろー!?」
 まさか聞き返されるとは思わなくて、大声を出してしまう。
 声に反応して、道行く数人が振り返る。
 慌てて咳払いし、声を潜めた。
 がマグナの様子にクスクス笑い、憮然としている彼に、
 ぴ、と指を立てた。
「人に聞く時は自分から!」
 なんだか間違ってるような気がしないでもないが、マグナは勢いに飲まれて、俯いた。
「……いる、よ」
「だれだれ!?」
 好奇心丸出しのに、真剣な目を向けるマグナ。
 いつもと様子の違う彼に、彼女は少し驚いた。
「………マグナ??」
「…僕、は……」

「ただいまぁー」
「………………おかえり」
 トリスがタイミング良く(悪く?)返ってきて、話が完全にシャットアウト。
 がっくりしているマグナを少しばかり気にかけながらも、はトリスと交代し、アメルの待つ道具屋へと入っていった。
「マグナ、どうしたの?」
「………別に、何でも」
 あくまで態度を崩さない兄に、トリスが意地悪そうな笑みを湛えた。
への告白失敗?」
「なっ!!!」
 トリスの口から出た言葉に、思わず後じさりしたくなる。
 実際には、少しだけ腰を引いただけだったが。
「ど、どうして…」
「見てれば分かるもん」
 そんなに分かりやすいか?
 トリスはこういうところ、目ざとかったような気もするが。
 妹だから分かるとか…あぁ、今はそんな事どうでもいいや。
 バレてるみたいだし。
 一人葛藤しているマグナに、トリスはあくまで明るい声。
がお姉ちゃんになったら、嬉しいなぁ〜」
「そうか?」
 マグナの声が弾む。
 ……しまった、あからさまだ。
「でも、大変だと思うよ? 何しろ誓約者とそのパートナー、バルレルもいるし」
「………分かってる」
 そう、彼女に向かうには、障害が多い。
 けれど諦められるかといわれると…。
「ところで、どうしてなの?」
 興味津々なトリスに、マグナは無表情で答える。
「…秘密」
「えー! けちぃ!」
「ケチで結構」
「………ネスそっくり」
「真似てみたんだよ」
 クスクス笑う兄の顔は、見まごうばかりに男らしかった。
 そうしているうちに、とアメルが荷物を持って出てくる。

 最初はもう少しぶらつこうかと言っていたのだが、流石に荷物が重くてそれどころではなくなり、結局、素直にギブソン・ミモザ邸に帰る事に。

 マグナは、笑顔でいるを見て、温かくなる心をそっと抱きしめた。





さて、マグナ編みたいになってますね、今回は…。
まだ暫く、こんなカンジ(長)

2002・11・23

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