心の向く先は 1





 禁忌の森。
 そこに漂う秘密。
 その一旦を担っている人物――ネスティは、トリスとマグナに、森へ行くのなら、
「君達を殺さなくてはならなくなる」
 そう言った。
 けれど、ネスティはトリスとマグナの気持ちに折れ、森への関与を認める――認めざるを得なくて。
 ゼラムの首都、庭園で――彼らは己達の秘密に、知らず、自ら一歩足を踏み入れた。


「私達、明後日、禁忌の森へ行こうと思うの」
 結論を出したネスティやトリス、マグナに、迷いはなかった。
 禁忌の森へ行って、確かめたい。
 デグレアが――黒の旅団が目的としている、強い力を。
 召喚術よりも、もっと強力な<何か>を、見定めに。
 無論、アメル達に異存はなかった。
 自分達にだって――特にアメルは、現時点で関わりが一番濃厚な人物。
 それに彼女がいなくては、結界を越える事は出来ないだろう。
「皆……、もし、イヤだっていう人がいれば――」
「そんな事、思うはずないじゃないですか」
 アメルは微笑むと、トリスとマグナの目をしばし見つめてから、周りを見た。
 周囲の中間達も、異存はない様子。

 ただ―――ただ、とバルレル、トウヤ、ソルの四名を除いては。

 言い出しにくそうに、がトリスとマグナ、アメルに話しかける。
「あのね、私――私達、今回は一緒に行けない。凄く一緒に行きたいんだけど、ね」
「えっ、ついて来てくれないの?」
 途端に悲しそうな表情になるトリスに、は慌てて彼女の側に寄った。
「あの、ごめん。一緒に行きたいのはやまやまなんだけど――」
「得体の知れない呪いを解くんだろう?」
「……うん…そう、なんだけど…」
 ネスティがまるで先読みしたかのように言ってきたので、思わず反応が少し遅れてしまった。
 私、ネスティに言ったっけ?なんて考える。
 ……いや、言った覚えはない。
 とすると、この場にはいないがトウヤかソルが教えたか――。
 またもの疑問に答えるように、彼は小さく頷いた。
「トウヤが教えてくれたんだ。…、君は、その力の封印を解くのを一番に考えた方がいい。僕たちはまたゼラムに戻ってくる。それまでに、何とかなってることを祈るよ」
「ネスティ…。トリス、マグナ、アメル…皆、そういう事だから…ごめんね」
 それなら仕方ないなと、マグナが酷く残念そうに肩をすくめた。
「ごめんね…。でも、準備とかは手伝えるから!」
「んじゃ、まあせいぜいこき使わせてもらうか」
 誤魔化すように、フォルテが軽口を叩く。
 まかしといてよ!と、は腕をまくった。

 一方その頃、トウヤとソルは、二階にあるギブソンとミモザの書庫にこもっていた。
 勿論、に施された<呪い>を解くための本探しだ。
 掛けられた呪いが何なのか、トウヤには判らなかったし、充分な知識を持つソルもギブソンも、見たのは古い文献の中だけときている。
 そうなると、解除するために、まずはその本を見つけ出さなくてはいけない。
 その作業が結構骨の折れるもので……何しろ、今までギブソンが見た、必要と感じる資料全てが、さして大きくもない書庫に収まっているのである。
 本棚に納まりきれなかった本たちが、ギブソンにしては珍しく、乱雑に積み上げられているので、いちいち引っ張り出しながらの作業。
 時間を食ってしょうがない。

「ふぅ……まったく、ギブソンも何処の辺に置いたか覚えてろよな…」
「しょうがないだろソル。のためなんだから、文句言うなよ」
 トウヤが苦笑いしながら、本を見つつも次々と片付けていく。
 ソルが、ブツブツ言いながらも、やはりテキパキと本の見出しを見ながら片付けていった。
 二人とも、どちらかというとが散らかしたものを片付けるのが多く、なんだかんだと、書庫がもとより全然綺麗になっている辺りが凄い。
「トウヤ、大体お前な、に対して甘いんじゃないか?」
 これも違うと、ポン、と横に本を置く。
「そうかい?」
 どの辺が?と言いながら、ソルが置いた本を綺麗に収納していく。
「そうさ。聖王国に来るのだって、俺は反対したんだぜ」
「僕だってしたさ。でも、彼女の希望だったし」
「それが甘いっていうんだ」
「ソルだって、結局容認したじゃないか」
「渋々な」
 言い合いながら、二人の間を本が行き来し、綺麗になっていく。
 だが、まだ目的の本は見つからない。
「容認した事に変わりはないだろう?」
「…まあな。でも、こんな事になるんだったら、来させてなかった」
 誓約者だからって、先見が出来る訳じゃない。
 そのパートナーだって勿論、無理だ。
 何かが起こると知っていたとして、は止まっただろうか?
 『起こらないかもしれない』と、やはり出て行っていただろう。
 そういう子だ。
「…なぁ、トウヤ」
「ん?」
「……の事、好きだよな」
「ソルもだろ?」
 本を渡り合わせるスピードを緩める事はせず、それでも話を続ける。
「……これに関しては、ライバルなんだよなぁ…」
「ソル諦めるかい?」
「冗談言うな。お前だって、諦めろって言われて諦めるか?」
「絶対イヤだね」
 本を見る目が少々キツくなるソルに、あくまで和やかなトウヤ。
 ここに彼女がいたら、どう言うだろうか?
 私は、二人とも好きなの! か?
 ……言いそうだ。
「…厄介な女、好きになったな」
 ソルの呟きに、トウヤは苦笑いしながら同意した。


 結構なスピードで行き交う本。
 トウヤがふと、埋もれた本の間にある、余り太くはない本に目線をとられた。
 何の気なしに、それを手にとってみる。
 割合と放置されていたらしいその本は、周りの本とは違って、少々埃が積もっていた。
 表紙は大分薄汚れ、元々古かったのか、背表紙の文字は薄れていて読むのが困難だ。
 なるべく丁寧に扱い、上に積もった埃を払うと、薄く幕を張っていたその下から、思っていたよりもハッキリした濃紺色の本が現れた。
 表紙のほうのタイトルは、背表紙のタイトルよりもしっかり読めるが…。
 ソルも、トウヤがなにか見つけたのに気がついた様子で、本を探すのを止めていた。
「どうしたんだ?」
「うん…なんだか気になって見てみたんだけど…」
 トウヤが、表紙に書かれている文字を指差す。
 ソルが、怪訝そうな顔をした。
「……なんだ、これ」
 リィンバウムの文字ではない。
 無論、トウヤやの世界の言葉でもない。
 リィンバウムにおける、大概の古代文字であれば、トウヤは無理だが、ソルならば読める。
 その彼にすら読めない文字となると………一体何処から持ってきた本なのだろうか?
 とりあえず、めくって、中身をパラ見してみる。
 ………あった。
 についている刻印に似通った物が、描かれていた。
 だが、周りにある文字は読めない。
「ソル、前読んだ本はコレじゃないのか?」
「うん?…俺が読んだのとは別物だな」
「…ともかく、ギブソンに聞いてみよう」
 トウヤが、本を持って立ち上がる。
 ソルも途中まで見た本を、本棚の横にきっちり積んで、立ち上がった。
「そうだな、そろそろ下の連中の話し合いも、終わった頃だろうし」
 そう言い、二人は広間に向かって歩き始めた。



まだまだーー!(なにが)
メインがトウヤとソルの話…です、はい。
もうオリジナルすぎて訳わかりません、だめな方、御免なさい;;

2002・11・16

back