光の旋律 2





 足が、なくなってしまったの?
 そう思わせるほど、はピクリとも動いていなかった。

「お帰り、待ちくたびれたよ」
 温かい、声。
 懐かしい、響き。
 ずっと一緒だと、そう、言ってくれた人。

「今まで、基礎理論放り出して、無茶な召喚してたりしなかっただろうな?」
 少しだけ、棘のある言い方。
 でもどこかに優しさがあって。
 変わってない事が、こんなに嬉しくて。

「トウヤ…ソル!!」


 止まっていた足が、勝手に動くみたいに、彼らへと向かう。
 凄く――凄く嬉しそうなんだけど、どこか何かを我慢しているような表情で、はソファから立ち上がってこちらに向かって立っている、トウヤとソルに……まるでぶつかるみたいにして抱きついた。
 荷物は、広間の入り口で落としたのか、手元にない。
 そんな事を考えていられる余裕なんて、今のにはなかったけれど。
 二人の首を抱きしめるような形で、ぎゅっと一度抱きついて後、彼女は離れた。
 そのままトウヤとソルの服の裾を掴んで――目をつぶって俯いている。
?」
「目なんかつぶって、どうした?」
 意地悪だ。
 歓喜で泣き叫びそうになっているのを知っていて、そんな事聞くんだ、この二人。
 は分かっていても――目を開けられなかった。
 すると、諦めたように、ぽん、と頭にソルの手が置かれたのが分かった。
「我慢するなよ」
 次いで、トウヤが顎を掴んで、無理やり上を向かせる。
「そうだよ。…泣きたいんだろう?」
 泣けばいいよ。
 温かい声で言ってくれる二人。
 心から、安心していられる――場所。
 空だったコップに、水が溢れるほどに入れられたような――感情が、せき止められなくなって。
 は、ポロポロ涙を零した。
 トウヤとソルに、肩を支えられながら。
「お帰り、
「ただいまは?」
 彼らの優しい――でも、一年前よりはほんの少しだけ大人びたように感じられる声に、は泣きながら、頷いた。
「ただ…いまぁ……」
 温かな二つの手が、そこにあった。


 後ろで成り行きを見ていた、トリス、マグナをはじめ、聖王都で仲間になった一同は、皆、呆気に取られるというより…何だか凄く、そう、物凄い場面を見ているような気がして――中に入れなかった。
 リューグなんて、信じられない!!という顔をしてと二人の男を見ている。
 が泣いている――それも、本当に普通の子が泣くみたいに。
 しかも、男二人が守るみたいにして立ってる!?
 驚嘆の中に、軽い痛みが伴っている事に、リューグは気づかなかった。

 聖王都組の中で、一番不機嫌丸出しだったのは――ご察しの通りかもしれないが、の護衛召喚獣、バルレルだった。
 彼女が落とした荷物を軽く背負って、じっと三人を見ている。
 入りたい――のに、入れない空気。
 腹が立つ。
 ここまで守ってきたのは、紛れもなく自分なのに。
 後から来た奴に泣きつくなんて。
 ……彼の頭の中に、自分より前の奴がいる、という考えはないらしい。
 部屋の入り口でたむろしている皆に、ギブソンとミモザは苦笑いして、パンパンと二度、手を叩きつつ、室内へと入っていった。
「ほら、感動の再会はそこまで。皆を紹介するわ」
 ミモザの言葉に、が慌てて涙をぬぐう。
 ギブソンはお茶を出すために、キッチンの方へと入っていった。

「えっと、これでこちら側の紹介は…これで全部ね。次はそっちよ」
 ミモザが仲介役をするかのように、トウヤとソルを見る。
 ギブソンにお茶を出されて、皆飲みながらの自己紹介。
 既に、派閥へ行っていたシャムロックとネスティも帰ってきていた。
 機嫌の悪い者もいるが、それはそれとして、紹介はせねばなるまい。
 ソファの座り位置がトウヤとソルの間のは、何となく皆の視線が痛いような感じがした。
 いや…皆ではなく、バルレルとリューグ、マグナにトリスのような気がするが。
 はちびちびとお茶を飲みながら、バルレルを見る。
 ……相当機嫌が悪い。
 なんか、まずい事でもしたっけ?なんて、疑問が空を舞った。
 そんな事とはお構いナシに、ミモザは二人に紹介を迫る。
 仕方なく、トウヤが先に口を開いた。
「僕はトウヤ。サイジェントから来た、の友人だよ」
 次に、ソル。
「俺は――」
 …言おうとして、口をつぐむ。
 ……名前…多分、バレるだろう。
 が、が既に名前を言っているから、今更気にしても仕方がない。
「俺は、ソル。同じくサイジェントから来た、彼女の友人だ」
 ……。
「ちょっと待ってくれ」
 ネスティが厳しい声を上げる。
 ミモザが少々舌打ちしたような顔になったが、ゼラムへ来る――という時点で、トウヤとソルは立場上苦しい事になると、既に分かっていた。
 まあ、当人達も百も承知だろうし、この面子に多少の事がバレる位であれば、もしかしたら問題にはならないかもしれない。
 けれど、出来れば避けたい事態だ。
 ネスティの次の言葉が分かる感じがするだけに、事の全てを知る人物全てが、体をこわばらせた。
 当人達は、何ともないのだが。
「トウヤにソル――君達は、もしかして…」
「何?ネス、どうしたの??」
 トリスが声をかけると、「いや…」と少しだけ言いよどんだものの、直ぐに気を取り直して、聞くべき事を口にした。
「君達はもしかして、<無色の派閥の乱>に関わった人間じゃないか?」
 ざわっと広間がざわめく。
 が不安そうに、トウヤとソルを見やると、彼らは”いいんだよ”と、にこやかに微笑んだ。
 ギブソンとミモザが誤魔化す前に、彼らは口を開く。
「僕とソル、は、その<無色の派閥の乱>に関わった人間だ」
 なおも、ネスティの追撃は続く。
「では、魔王と戦った、あの――?」
 ネスティが何処まで知っているのかは定かではなかったが、とりあえず、周りの人間よりは、その戦いについての知識があるようだ。
 下手に嘘をつけば、今後に問題があると踏んだトウヤは、素直に自分達がどういう人物なのか、言う事にした。
 サイジェントでさえ不明確な噂の人物が、ゼラムに現れた――なんていう噂が流れるのだけは阻止せねばならなかったが、少なくとも、彼らは約束したら、その約束を破るようなタイプには見えない。
 人を見る目のあるトウヤがそう確信したので、ソルも安心して話す事に決めた。
 ……勿論、ソルに関しては誹謗や中傷が…多少あるかもしれない。
 は、トウヤとソルに酷い事を言うような事があったら、まず間違いなく、自分が怒るだろうなぁと感じていた。
「…僕は、と同じように、四つの世界のどれからでもない世界から来た。色々あって――。…ネスティ、君の考えは間違ってないよ」
「じゃあ…貴方が、誓約者…!!?」
 苦笑いしながら、その通りだよ、と軽く手を振る。
 周りからのざわつきが、一層大きくなった。
 今度は――ソルの番だ。
「俺は…魔王を呼び出す主犯格になった、オルドレイクの息子さ。トウヤと一緒に、戦いに参加したけど、な」
 先ほどとは違い、しん……と静まり返る。
 はそれを痛く感じているであろうソルの手を握った。
 彼は、彼女の手を握り返して――微笑む。
「今でも、ずっと後悔してる。一生消えない罪だ」
「だが、お前さんは充分に罰を受けた。そうだろう?」
 フォルテが横から、少しだけ軽い口調で話し掛ける。
 その言葉が、ゼラム側から出ただけで――充分だった。
 皆の持っていた棘が、抜け落ちていくみたいに、広間が暖かい空気に包まれていく。
 は不覚にも、また泣き出しそうになってしまった。
「…じゃあ、も何か…」
 アメルが聞いてくる。
「ううん、私には――特に何の能力もないの。バルレルを呼び出せたのだって、無色の派閥の乱で、戦ってたから出来た事だし」
 そういえば、彼女は試験でフリップに出されたモンスターを、いとも容易く倒してしまっていた事を思い出す。
 何故、召喚出来るのか――。
 そこについては、本人もよく分かっていないようだった。

「とにかく、これからどうするの?」
 ミモザの言葉は、サイジェント組みに向けられていた。
 これから――、それは、の一言で決まるといって過言ではない。
 もう、返ってくる言葉は決まったようなものだけど。
「こんな事件の途中で、帰ります、なんて言えないよ」
 やっぱり。
「じゃあ、僕らもここにいる。…ギブソンとミモザの仕事、手伝いたいんだけど、いいかな」
 トウヤの言葉に、ギブソンとミモザは頷いた。
 勅命なだけに、動きはとりやすい。
 それに……彼らがこちらに来ているのは、総帥以外知らない事だったし、蒼の派閥に、魔王戦争の騒動の当人達が来ているなんて報告したら、すぐさま派閥によって動きが制限されてしまうだろう。
「とりあえずは、各自、荷物を部屋に置いてからだね」
 ギブソンは、最後の一滴までお茶を飲み干すと、そう言って立ち上がった。




やっとこさっとこ出てきましたリンカーとパートナー…。
今後は更にオリジナルに進んでいってしまいますが、
ご容赦願いたいと思います…申し訳ありませ…;;
ともかく再会しました〜。さくさく進められたらいいと思います、はい。

2002・11・10

back