戦いと愁いと 1





 アメルの活躍により、ロッカの傷も回復し、ともかく、アメルのお爺さん――アグラバインがいるという村へと向った。
 レルムの村……、ルヴァイドとイオス達、デグレアの黒の旅団が攻め込み、残虐の限りをつくしたという場所。
 ……複雑な気分ではある。
 だが、は見てみようと思った。
 彼らと共に。
 ルヴァイド達がした事の結果を――。

 大平原。
 突如現れたるは、黒の旅団――その、一端である、イオスの部隊。
 だが、は驚きも、騒ぎもしなかった。
 勿論、多少の同様はパーティの面子同様にあったけれど、邪魔が全く入らない、とは誰しも思っていなかっただけに、動揺は直ぐに収まる。
 どうやらイオスの独断行動らしく、ルヴァイドは不在の様子だ。
「どうあっても…どいてはくれないんですね」
 アメルが呟く。
 自分のおじいさんがレルムの村で待っているのだ。
 彼女の決意は、変わらない。
「私は、レルムの村に行きます!」
 その声に答えるように、トリスやマグナが攻撃態勢に入った。


 先陣を切ってくる兵士を、リューグとロッカがなぎ倒す。
 一塊になって移動していると、外法召喚師の格好の的なので、ある程度の距離は測って各々攻撃を繰り返していく。
 マグナとバルレルも、リューグ達の後を追うようにして、遅い来る敵を倒す。
 黒の旅団の一端とはいえ、イオスが率いている隊だ。
 そうそう弱くはないはずなのだが、こちら側が圧倒的に強いのか、彼の部隊の人間は、次々と地に伏していく。
 召喚師の攻撃は、術を呼び出す前に、やトリスによって阻まれ、ままならない。
 アメルは先陣を切っているリューグたちの回復をしていた。

 余りの情勢の悪さに、イオスは思わず槍を掴む手に力を込める。
 望むものは、あの<鍵>となる少女だ。
 ならば――。
 イオスはキッと視線を、アメルに向けた。
 彼女は今、呪文を唱えようと精神を集中していて完全に無防備。
 近くにいるのは――、彼女だけ。
 を傷つけるのには若干の抵抗を感じたが、それも任務のためであれば、いたしかたない。
 イオスは自分の周りにいた兵士に小声で命令を与えると、最前線に向かって突き進んでいった。
「っおまえ!!」
 リューグが走ってきたイオスを受けようと斧を構える。
 だが、構えた先に向かってきたのは、イオスの少し後ろを走っていた兵士だった。
 切り掛かってきた兵士の剣を、斧で何とか受け流す。
 イオスがどこにいるか視線を走らせると、更に数名の兵士と共に、自分から少しだけ離れた場所を、全力で疾走して行っていた。
 目標は――トリス?
 いや、違う!
「兄貴!!」
「!?っく……!!」
 隣で同じように戦っていたロッカに、リューグが声をかけるが――彼にも敵が喰らい付き、戦う事に精一杯になっている。
 マグナとバルレルもイオスの動きに気がつき、阻止しようと走り寄るものの、余計な兵士の邪魔が入って阻まれる。
 残るは、後方部隊。
 トリスやモーリン、ミニス達、中後方部隊が召喚術や攻撃を繰り出すが、イオスに届く前にやはり兵士に阻まれ、挙句、意識がそれたのをいい事に、外法召喚師の術が一帯を攻撃してきた。
「っきゃああ!!」
「トリス!!」
 ネスティやマグナが叫ぶ。
 彼女が術の中心にいたため、傷が一番深いだろう。
 はじかれるようにして後方の円陣も崩れた。
 アメルがトリスの悲鳴に、はっと顔を上げる――。
 イオスは、目の前まで迫ってきていた。

「きゃあああ!!」
 アメルの悲鳴。
 イオスの槍が、彼女の体を浅く切り裂く……はずだったのだが。

「っく………!!」
 手に込めた力が、一気に抜ける。
 アメルに向かって突き出したはずの槍は、が彼女を突き飛ばした事によって、意図せず深く――目的ではない人物のわき腹をえぐっていた。
 痛みに眉をひそめながら、はイオスの目をしっかり見据えたまま――
「エビルスパイク!」
「ぐあっ!!」
 召喚術を繰り出し、周りに残っていた兵士と共に、イオスの体を吹き飛ばす。
 わき腹から血が流れるが、そこを手で抑えて何とか立ち上がると、突き飛ばしたアメルの方へ歩んでいく。
 アメルに怪我はないようだ。
さん!!」
「だいじょぶだよ、これ位の傷なら…」
 だが、アメルは抑えている手を外させ、に治療を施していく。
…邪魔を…!!」
「イオス!」
 ふと気が付くと、イオスの部隊はほぼ壊滅状態――残っているのは、自分と、自分の近くにいた兵士数名のみになっていた。
 苦虫を噛み潰したように、トリス達を見る。
 ――負けだ。
「……僕の負けだ、トドメをさせ」
「…私達は、皆を守れればいい。イオス、引いて」
 トリスの言葉に、信じられない思いを抱いて彼女をにらみ付ける。
 自分を助けるというのか?
 今トドメをさせば、確実に彼女らの脅威は少なくなるというのに。
 イオスには、納得がいかなかった。
 敵は敵。情けをかけるものではない。
「そんなのは甘言だ!」
「甘言でも、私たちは自分達の思いを貫く。貴方だってそうでしょう?」
 ネスティがそれを助けるように、静かにイオスに言い含める。
「君は、僕らの行動を否定できない。価値観によって、各々の行動は皆違うのだと、自分で言っているようなものなのだからな」
「………」
 はアメルの治療を受けながら、イオスのほうを見ていた。
 イオスもの視線に気づき、顔を向ける。
 彼は何か言おうと口を開きかけ――止めてしまった。
さん、治療終わりました…大丈夫ですか?」
「うん、OK」
 立ち上がり、トントンとジャンプする。
 痛みはない。
 それを見て、一向は座っているイオスを置いて、先へと進む事にした。
 レルムの村は、もう直ぐそこ――。




凄い短く区切ってしまいました…ちょっとスランプ入って、かけない日々が続いていたんで;
次はなるべく早く上げるようにしますです;;バルレルの出番なかったなぁ…(泣)

2002・10・5

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