拒みと疑惑 1 ‥‥あんな昔の夢、どうして今頃見たんだろう‥‥。 自分の世界に、戻りたいという心の現われ? ‥‥‥‥‥‥そうじゃなくて、なんか‥‥凄く重要な事――? 目を覚ますと‥‥トリスの心配そうな顔があった。 何が起こったのかサッパリ分からなくて、思わず起き上がろうとする。 「ああっ、ダメ!!まだ動いちゃ‥‥。」 「っ‥‥私よく生きてたね‥‥。」 トリスの顔を見て、何が起こったのかをおぼろげながらに思い出す。 確か、ローウェン砦でビーニャの攻撃を浴び、そのまま――。 ‥‥死んだと、思ったのに。 「今、お水持ってくるからね。」 「ごめん。」 いわれて、自分が酷くのどの渇きを訴えている事に気付く。 隣を見ると‥‥ベッドに、ルヴァイドと戦っていた騎士がいる。 深い眠りについているらしい‥‥規則正しく息はしているから、今の所危険な状態ではないらしいが。 ‥‥‥‥ここはどこなのだろうか。 砦の内部、という感じではない。 「トリス、えと‥‥お久しぶり。」 「え、あ、うん!お久しぶり。まさか、あんな所で会うなんて思わなかった。」 「私も思わなかった‥‥バルレルは?」 外にいるよ、と教えてくれて、水を渡してくれる。 コクンと飲み込むと、冷たい水がノドを通って潤いを与えてくれた。 「‥‥ビーニャは‥‥、砦は、どうなったの?」 「うん‥‥結局、が倒れた後に‥‥。」 「‥‥そ、っか。」 ルヴァイド達はどうしたんだろう。 お礼も何も言わずに出てきてしまったことになるが‥‥‥‥。 「‥‥は、どこからあの砦へ?」 「あ、うん。」 は、隣に病人がいるので小さな声で、今までのいきさつを話し始めた。 ゼラムでいきなり変なモヤに包まれ、森の中へ飛ばされた事。 魔物が襲ってきた事。 バルレルと合流し、平原を歩いていた事。 そこでルヴァイドに会い、テントに連れて行かれ、暫く彼等の軍で厄介になっていた事――とにかく、説明できる限りのことを言って聞かせた。 トリスが、妙な顔になっている事に気付いたのは、全部話し終えてからの事。 「‥‥という事なんだ、けど‥‥どうしたの?」 「‥‥落ち着いて聞いてね?そのルヴァイドとイオスは‥‥私たちの敵なの。」 「え!?」 少し大きな声を出してしまい、慌てて口を抑えた。 敵―――?? 「聖女、アメルっていうんだけど‥‥アメルの村は、彼等に襲われて‥‥。女子供、容赦なく殺したんだよ‥‥。ゼラムにも、アメルを捕らえに襲ってきたし‥‥平原でも‥‥そして、ローウェン砦も、彼等によって‥‥。」 「‥‥‥‥あの二人が‥‥。」 ゼラム‥‥聖王国と敵対しているとは思ったが、まさかそんな事をしているなんて、誰が思うものか。 あんなに、優しい感じがしたのに‥‥。 トリスは遠慮がちに、今までの事を話した。 その一部分で‥‥が反応する。 「ガレアノ‥‥って言った?」 「え、うん死霊使いのガレアノ‥‥。」 「‥‥私の術を封じたのは‥‥そいつ‥‥!!」 「!!」 ‥‥どういう事だろう。 トリス達とも関わりがあるとは――只者ではないのかも知れない。 魔物を使う時点で、只者ではないのだが。 起き上がって、武器を手に取る。 「!まだ寝てないと‥‥」 「心配しないで‥‥もう大丈夫だから。外の空気吸ってくる。」 「‥‥うん。」 トリスが小さく頷く。 は本当に平気だから、と念を押して外へ出た。 風が、気持ちいい。 小屋から程近い所に、マグナとバルレル、その他の人物が集まっていた。 とりあえず、そこへ歩いて行く。 「!!久しぶり!」 マグナが微笑みながらを迎える。 バルレルも、死にぞこないめ、と言いながらも嬉しそう。 アメルという少女はよかったですーとニコニコ。 ただ、他のメンツに関しては―――えらく不機嫌というか、なんというか。 その中でも、飛びぬけて不機嫌そうな二人。 トリス、マグナの兄弟子である、ネスティ・バスク。 そして、村を襲われたという‥‥リューグ。 射抜くような、射殺すような視線を送ってくる。 一応簡単な自己紹介をしてみた。 アメルはもともとの性格だろうか、直ぐに仲良くなったし、ミニスはフラット繋がりで直ぐに打ち解けられた。 大問題二人を除いては‥‥‥‥そこそこ普通にしてくれてるのに。 「‥‥あのさ、マグナ‥‥ネスティさんと、リューグさん‥‥なんか、怒ってない?」 「‥‥‥‥事情が事情なだけにさ‥‥。」 マグナが困ったように言う。 確かに、自分の敵に少しの間とはいえ厄介になってた人物を好ましく思うのは分かる。 得にリューグ。 憎んでも、憎みきれない相手に助けられたなんて――。 だが、だからといってを毛嫌いする理由にしていいものだろうか。 意を決して、ネスティとリューグの前に立つ。 「あの、ネスティさん、リューグさん」 「‥‥‥‥‥‥。」 「‥‥‥‥‥‥。」 「‥‥人が話し掛けてんのに、そういう態度はないんじゃない?」 相手がけんか腰なだけに、穏かにいこうと思ってもなかなかそうはいかない。 あぁ、バノッサやガゼルを相手にしてる気分。 周りも不安そうに、三人を見ていた。 「‥‥なにが気に入らないワケ?」 「全部だよ、全部」 リューグが怒りを浮き彫りにした声で、に言葉を投げつけた。 目は完全に怒りをたたえている。 「お前、ルヴァイドのヤローと一緒にいたんだろ? あいつがどんなヤツか知ってるのかよ。」 「こちら側の情報としては、トリスに聞いた限りの事しか知らないわよ。後は、私が一緒にいて見てきた事だけしかね」 リューグは、本格的にイライラしてきた。 どうして、この女はあいつが‥‥ルヴァイドが村を潰したと知っても、普通に話しているんだ。 平気でいるんだ。 それが、腹立たしい。 ルヴァイドと一緒にいるヤツは、みんな敵。 それが、今の彼の心境でもあった。 「あいつは最低の男だ! そんなやつと一緒にいたお前なんかを、助けるなんてのは、本当は身を裂かれるぐらい嫌な事だったんだよ!! あの男は、殺されるべき人間だ! 俺と、村の業を受けて!」 「‥‥‥‥撤回して、リューグ。」 「なに?」 「撤回してと言ったの。」 の言葉が癪に障ったのか、リューグは脅しとして斧を持つ手に力を入れた。 「リューグ、やめて!!」 アメルの非難する声が彼の耳に届くが、そんな事を気にしてなどいない。 彼の中では、が敵という認識を持っていたのだから。 斧を構えて、脅しを掛ける。 「ふざけるなよ、お前に指図される覚えは―――」 ない、と言おうとしてそのまま固まる。 いつの間にか、の持っていた短剣が、リューグの顔の前にあったから。 リューグが警戒する前に、彼女はあっさりと彼の懐の中へ入って見せた。 凄いスピードだったワケではなかったのに、止められなかった。 フォルテが、感嘆の溜息を零す。 人との間合いを読む事に長けていなければ、ああいう芸当は出来ない。 「いい、リューグ。確かに貴方にとっては、彼は殺されるべき人間かもしれない。けどね、それを口に出していい事にはならないわよ。‥‥斧を下ろして。」 言われるままに、斧を下ろす。 素直なリューグというのは、はじめて見たかもしれない。 斧を収めた気配を感じ取ると、も自分の武器を収めた。 「私は、彼と出会わなかったらとっくにあの世行きだった。 彼の思想を認めた訳でもなんでもないけど、私は、私の真実に基づいて行動する」 「っあの男が殺人者だとしてもか!?」 「ならば聞くけど。たとえ村の人の仇として、ルヴァイドを殺したとすれば‥貴方のその行動は、正当化されるの?私には、どれも変わりのない”殺人”に見えるけどね」 それが、たとえ復讐ではなく、正当な決闘だったとしても、‥‥には人を倒す事に代わりはなく思える。 「っく‥‥!!」 「リューグもう止めて!さんも!」 「アメル‥‥ゴメンなさい、悪気があった訳じゃないんだけど‥‥。」 ははっとして、アメル達に謝った。 未だにブスっとしているリューグに向き直り、深くお辞儀をする。 「‥‥言い過ぎた、ごめんなさい。」 ほぼ初対面の人間に、いきなり怒るなんて――。 助けてくれた、いわば命の恩人を馬鹿にされたとはいえ、いささか問題行動だった。 素直に謝るに、リューグはそれでも気に入らなさそうにそっぽを向く。 「リューグ!!」 「っ‥‥ワリィ。」 アメルの怒号に、ぶっきらぼうに‥‥に謝る。 だが、直ぐに腹が治まる訳ではなく、から少し離れた所に腰をすえて、彼女を拒絶するオーラを発した。 苦笑いする。 「ごめんね、さん。リューグってば‥‥」 「アメルも‥‥マグナも皆も‥‥大変な目にあってるんだね‥‥」 ルヴァイドとイオス‥‥デグレア騎士団。 彼等は、まさしく敵だった。 そう、本来ならば‥‥とて、リューグを轟々と非難できる立場ではない。 自分だって、もしルヴァイド達と会っていなければ‥‥トリスやマグナと、ずっと行動を共にしていたら‥‥、こんな風に、リューグに怒りをぶつけたりはしなかったろう。 すっと、自分の両手を見る。 「‥‥正当化なんて、絶対出来ないよ‥‥。その人の血を、暖かさを奪った瞬間、自分も同じなんだって‥‥認めざるをえないんだから‥‥」 は小さく呟き、空を仰いだ。 フラットの仲間は、一体どうしているだろうか。 同じ空の下にいるはずなのに、酷く遠い。 「と言ったか。君は、デグレアの手先ではないんだな?」 「ネス!!」 いきなり近寄ってきて凄い事を言うネスティに、マグナが慌てた。 いや、確かに見ようによってはそうなんですが。 「マグナ、邪魔するな。大事な事だろう!?」 「うぅ‥‥‥‥。」 強い口調のネスティに、マグナが折れた。 がネスティと同じ立場だとしても、同じ事を聞いただろう。 頭脳明晰、切れ者らしい。 「手先に見える?」 「ルヴァイドとイオスに関わっている。疑ってかかって損はない」 「‥‥私はデグレアの手先じゃないわ」 「証拠は」 ‥‥証拠‥‥‥‥あると思うのだろうか。 「悪いけど、証拠はないわ」 すっぱりきっぱり。 だって、本当に証拠なんてないんだから。 どうしろと言うのだろう、この人は‥‥。 「‥‥僕は、君を仲間に入れる気は更々ないからな」 「‥‥‥‥は?」 「只でさえ状況が状況なんだ。君のような不穏分子を入れるなんて――」 「ちょ、ちょいまち!!」 が慌ててネスティの言葉を止めた。 誰が、いつ、仲間に入ると‥‥?? その疑問には、マグナが答えてくれた。 「が寝てる間にね、僕らで決めたんだ。を仲間に入れようって。勿論、が嫌だっていうなら、流れる話なんだけどさ」 「という事だ」 なるほど‥‥と納得した所で、バルレルの顔を見る。 どちらでもいい、という表情。 ならば、ネスティに言われた言葉を踏まえて考えなければ。 一つ、今自分は能力がほとんど使えない状態である。 一つ、戦争が始まるかもしれない。 一つ、ガレアノはビーニャと同じタイプ。という事は、もしかしたらデグレアに関係があるかも。 一つ、バルレルと二人だけでの行動では、いつ倒れてもおかしくない。 ‥‥‥‥ならば、自分の取るべき行動は。 「お邪魔だとは思うけど、暫く一緒にいさせてくれる?」 「勿論だよ!!」 「!!」 ネスティが驚愕の表情を浮かべる。 自分は、”厄介者だから仲間に入れる気はないんだ”と告げているのに、彼女は気にもしないで――。 「ネスティさん、という事なんだけど、いいかな」 「僕の話をちゃんと聞いていたのか!?僕は――」 「ネスティさん、私は敵じゃない。ギブソンさんと、ミモザさんに誓って」 「‥‥‥‥わかったよ」 流石にその二人の名前を出されると弱いらしく、ネスティはしぶしぶ頷いた。 改めてヨロシク、と皆に一礼する。 これで、当面の行動はマグナやトリス達と共にすることに決めた。 後は‥呪いを、どうするか。 サイジェントのトウヤやソルに聞ければ、それが一番なのだが。 落ち着いてきたら、ネスティに聞いてみようと思いつつ、手近な切り株に座る。 「‥‥前途多難。毎度の事だけど」 誰にとも無く呟く。 バルレルも、それに釣られるようにして深く溜息をついた。 えと、パーティー合流話っていう感じでしょうか‥‥。 ともかく、進みが遅くてスミマセン。 しかも、ネスとリューグの女主に対しての印象最悪ですがな‥‥。 徐々に何とかしていきたいと思います、はい。 最初っからベタボレじゃなくて、ケンカしながらってのもいいかなぁ‥‥なんて。 2002・7・1 back |