目覚めて異世界 2




「‥‥あんまり強くなかったね。」
、案外強いんだな‥‥。」
 高校体操部の柔軟性をナメてはいけません、トウヤ君。
 避けるだけなら天下一品。
 ただし、攻撃の方はちょっと不得手ですが。
「クソッ‥どいつもこいつもだらしねぇ‥。」
 小柄な方の男が、息巻いてナイフを取り出した。
「殺すのはマズイぞ。」
「半殺しにしといてやる。」
 小柄な男は、トウヤにナイフの切っ先を向けた。
 は信じられないものを見るかのように、鈍い光を放つ刃物を見る。
「じっ‥冗談じゃない!訳もわからず殺されてたまるかぁっ!」
「!!?」
 トウヤの体が突然光がほとばしり、大男を吹っ飛ばす。
 なにが起きたのか、当人にも、ハタから見ていたにもさっぱりわからない。
 だが、小柄な男はそんな事はおかまいなしに、怒りの表情を向ける。
「テメェ‥‥よくも!!」
「トウヤ!!」
 ――男のナイフがトウヤを刺そうとするのを、は彼を庇う事によって阻止した。
「っつぅ‥‥」
!?」
 脇腹に熱がこもる。
 触ると、血が出ていることに気付かされた。
 刺されたというショックで、はトウヤに倒れかかり、意識を失ってしまう。
 なんだか、変に気持ちよく闇に落ちる自分を認識しながら。


「‥‥トウヤ‥。」
‥‥よかった、傷は痛むかい?」
 ――傷?
 ガバッと起き上がると、左の脇腹が痛みを訴えた。
 なんで痛むのか一瞬わからなかったが、徐々に記憶が鮮明になってくる。
 そう、刺されたのだ。
 かすった程度だと思ったのに、結構痛い。
、もう少し寝ていた方がいい。」
「‥‥うん。‥‥ここ、どこ?」
 トウヤはを寝かせ、布団をきちんとかけると、あれからなにがあったのか、きちんと説明した。
「じゃあ、一晩ここにいる事になったんだ‥。」
「ああ、明日‥これからどうするか、ちゃんと決めよう。今日はもうゆっくり休むといい。」
「トウヤはどこで寝るの?」
「別にちゃんと部屋がある。」
 ちぇーっと笑うに、苦笑いをこぼす。
 いつもの調子に戻ったのなら、さほど心配はないだろう。
 トウヤはの頭を撫でると、お休みの挨拶をして自分の寝床へと向かった。


 翌日、は傷の具合を確かめ、充分に動けるのを確認すると、身支度を整えて部屋の外へ出た。
 トウヤの説明で、ここがフラットという所なのと、それなりにザッとした人達の事を聞いている。
 昨日、自分たちを襲ってきた小柄な男は、ガゼル。
 大男はエドスというらしい。
 他の人は名前しか知らないのだが、トウヤの部屋すらわからない状態なので聞いてみる事もできず。
 とりあえず、広間に行ってみる事にした。
 ‥‥なんだか、いい匂いが漂ってくる。
「あっ、起きたのね?大丈夫??」
「えと‥‥あの‥。」
 可愛い女の子が近寄ってきた。
 は少々慌てながらも、”オハヨウゴザイマス”と挨拶する。
「オハヨ。私はリプレ、よろしく!朝ごはんできてるから、食べてしっかり力つけてね。」
「ありがとうございます。」
 広間に通してもらうと、トウヤが食事をしていた。
 見知らぬ顔ばかりだが、見知らぬ世界なんだから当たり前。
 トウヤの隣に座って、食事を摂る。
「おはようございます‥‥。」
 一部を除いて、皆挨拶してくれる。
 余り怖そうな人達でもないので、一安心の
「トウヤ、オハヨ。」
「ああ、おはよう。大丈夫か?」
「うん、平気。」
 とりあえず、トウヤに軽い説明を受け、大体の人の名前はわかっているため、顔と一致させるのは割合簡単にいった。
 昨日襲ってきた二人はよしとして、先程話し掛けてくれたリプレに、お子様三人集のアルバ、ラミ、フィズ。
 剣士のレイド――と、大勢さんだ。
 ご飯を食べ終わると、わき目も振らずに出て行くガゼル。
「‥‥トウヤ、私ちょっとガゼルと話をしてくる。」
「じゃあ、僕も行くよ。」
 二人して、ガゼルが出て行った庭のほうへと足を向けた。


 ガゼルは一人、マキを割っていた。
 マキ割り自体、やトウヤにとっては珍しいものなのだが、それはさておき。
 彼は二人が近付くのを感じると、一瞥してまたマキを割り出す。
「‥‥あの。」
 が話しかけるが、見事に無視。
 人を怪我さしといて、いい度胸だ。
「‥‥誤解しないで欲しい、僕らは召喚師なんかじゃないし、大体この世界の人間でもない。」
 呼び出されただけの、どちらかと言えば被害者だと訴えるが、”そんな事はどうでもいい”と言われてしまった。
「お前らの事情はいい。だが、俺らはお前等に飯を食わせるのだって、実際かなり無理してんだ。」
「あ‥‥。」
 裕福であれば、カツアゲなんぞする必要はない。
 トウヤとがここにいる事は、それだけで彼らの生活を圧迫している事になる。
 は、トウヤの顔を見た。
 ‥‥同じ事を考えているのか、小さく頷く。
「‥‥わかった、迷惑かけてるのはホントだし‥‥すぐ出てくね。」
「‥‥ちょっと待てよ。どうする気だ?」
「どうって‥‥。」
 トウヤを見る。代弁するかのように、口を開いた。
「元の世界に帰るつもりだ。」
「‥‥帰れるのかよ。」
 ‥帰れるかなんて‥‥現状ではわからない。
 どうやってこの世界にきたのかも、はっきりしないというのに。
 それに、行くあてもないのだし。
 ガゼルは困惑する二人を見て、溜息をついた。
「‥‥別に、今すぐ出て行く必要はねぇよ。リプレやレイドに感謝する気持ちがあるならな。‥‥それと、お前。」
「はい?」
 を指し、つかつか近寄る。
 ちょっと怖くて、引いてしまう
「‥‥昨日は悪かったな、怪我させちまってよ。」
「え、あ、うん‥‥平気‥‥。」
 なんか、不器用なだけで本当は優しい人なのかもしれないと思った。

 広間に戻ると、フィズがとてとて歩いてきて、いきなりトウヤに質問してきた。
 もなんだろうと話を横で聞いてみる事に。
「お兄ちゃんの好みのタイプって、どんな人?」
「‥‥‥‥えええっ!!?」
「あ、それ私も知りたーーい。」
 フィズと、わくわくしながらトウヤの答えを待つ。
 はトウヤにラブレターを渡すのが日課だったようなものなので、その辺ちょっと気になっていたりする。
 の目が気になるトウヤ。
「うっ‥その、まだよくわからないんだ‥‥好きかどうかは‥‥。」
 質問の答えになっていないような答えを返し、を見る。
 フィズは女の直感(?)で、トウヤが誰を好きなのか理解した。
 の方は、全くもってわかっていないのだが。
「あ、いたいた二人とも!」
「リプレ?」
 パタパタ入って来たリプレ。
 買い物をしに行くらしい。
 トウヤと、ガゼルとリプレで商店街へと向かう。
 二人の身の回り品を買うために、買い物に連れ出してくれたらしい。
 ‥‥見ず知らず、しかもいきなり押しかけてきた人間に、フラットの皆は暖かい。(若干一名、素直ではないが)でも、甘えてばかりはいられない。
 せめて、少しでも恩を返す方法を探すべきだ。
 それは、トウヤとの、共通の思い。
 買い物を済ませると、街を案内してもらう事になった。


 ゆっくり、でも、確実に。
 トウヤとは、この世界の渦に飲み込まれようとしていた――。




2002・3・21
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