目覚めて異世界 1




 手にはラブレター。
 目の前にいるのは、剣道部主将で生徒会長のトウヤ。
 この状況で、なにをするかと問われたら‥‥‥‥。
「トウヤ、受け取って。」
 そう、手紙で告白。
 ‥‥ただし、その手紙は渡した張本人、が書いた物ではなく、他のクラスのトウヤに想いを寄せるコから。
、何度も言うけど‥‥、僕はそれを受け取れない。」
 すまなそうに、やんわりと断るトウヤ。
「じゃあ、こっちのコの手紙ならいい?」
 がさごそと別の手紙をとり出す。
「‥‥‥‥そうじゃなくて。」


 は、クラスでトウヤの隣の席に座っていた。
 彼は人望がある人気者で、モテると知っていたが、自身は友人として接していた。
 凄く仲がいい訳ではなく、かといって、悪い訳でもない。
 最初は全然話などしなかったのだが、隣だという事と、他クラスの女の子から頼まれるラブレターを嫌々ながら届けているうち、段々と話すようになり、仲良くなったのである。
 ただ、トウヤは手紙を一枚たりとも受け取らなかった。
 誰か好きな人がいるのかと聞いてみても、”ヒミツ”と答えるだけ。
 余り突っ込んで聞くのも悪かったので、深く掘り下げてはいない。
 とにかく、今日もは手紙をカバンの中にしまった。
 明日、頼んだ女の子に返すために。

 トウヤとの家はそんなに離れていないため、一緒に歩いて帰る事もざらで。
 今日も一緒に下校した。
 トウヤの横を歩くに非難と羨望の目が灯る事もあったが、彼女はいないというもっぱらの噂だったので、余りチェックはしていない様子の女の子たち。
 自身、トウヤを友人以上に思っていないのだから、なにを言われようと関係なかったりするし。
 互いが名前呼びになっているのは、二人の同意の上。
 さん付けとか君付けとか、他人行儀っぽくてイヤだったので、最初に許可を求めた。
 トウヤって呼びたいんだけど、いいかな、のような感じで。
 自然に、トウヤも彼女を名前で呼ぶようになっていた。
 周りから色々言われるのも無理はない仲のよさ。
、公園よってきたいんだけど。」
「いいよ、私も行く。」
 いつも、学校帰りに公園によって、少し考え事をしたりするのが日課にすらなっていた。
 目撃され、更に仲良さすぎと言われてしまう要因になるのだが、
 本人達は全く気にしない。


「トウヤさぁ、なんか悩んでるでしょう。」
「‥‥‥‥だってそうだろ?」
 悩むというか‥‥。
 このままでいいのか、と思う事が多々あるだけで。
 人と同じように生きて、人と同じように足並み揃えて‥‥、そういう自分が想像つかない。
 なんだか現実が嘘みたいに思えて、二人して公園で考え事してる。
 他の人は感じないのだろうか、こういう気分。
 はトウヤの座っているベンチの横に腰を下ろし、溜息をつく。
「このまま卒業して、就職して、結婚して‥‥お決まりのパターンって私、かなりイヤ。」
「けどさ、実際はそうなる可能性のほうが多いだろ?」
 突出したような事をするには、勇気も度胸も、運も必要。
 かといって、そういう事をする自信もなければ、勇気も出ない。
 情けない事だが、自分を変える度量がない。
「‥‥ヤダなぁ‥‥。」
 言うだけで、実行しようとしない自分が、とてもイヤ。
 かといって、何かをしたいとか、あてがある訳でもなく。
 毎日毎日、二人してここに来て、溜息をつく。


 ―――ふと、なにか音が聞こえた気がした。
 トウヤは、人の声がどこからか自分に助けを求めるような声を聞く。
 対しては‥‥なにか、物が割れる音と、やたらと熱いものが胸に入り込むような感覚を味わっていた。
「なっ、なに、どうなってんの!?」
「っ‥‥!」
 二人を、光が包み込む。
 トウヤはがどこかへ行ってしまいそうな‥‥、正確には、消えてなくなってしまいそうな感覚に襲われて、光のせいで殆ど見えなくなった視界の中、必死に彼女の手を探し、つかんだ。
 互いが手の温もりを感じた瞬間、二人は気を失ってしまった。



 風が頬を撫でる感触に、は目を覚ます。
 目の前に広がった荒野に目をむけ、驚く事もなく、漠然と”どこかに来た”のだと感じた。
 右手に感じる暖かさに気付き、見ると、トウヤが気を失いながらもきつくの手を握っていて。
 その時はじめて慌てた。
 自分はともかく、自分の知人がどうにかなっているのは、には絶えられない事で。
「トウヤ‥‥トウヤッ!!」
「‥‥‥‥っぅ‥‥」
 何度か揺すると、トウヤが目を覚ました。
 うめき、起き上がる。
‥‥‥‥ここは‥‥?」
「‥‥うん、荒野。」
「‥‥荒野って‥‥。」
 あまりに普通に答えてくれるのおかげで、さほど取り乱す事もなかった。
 もし一人であったら、正気を失いかけないような状況であったが。
 立ち上がると、周りを見回す。
「‥なんだろ、綺麗だけど‥‥この石。」
 はその石を手に取る、光にかざしてみた。
 なんとなく持っていくことにする。
 次に見つけたのは、変にひしゃげた剣。
 ‥‥‥剣? なんで剣?? 銃刀法違反じゃないのか??
 剣なんて――‥‥それに、普通の力が加わっただけでは、こんな変な形になんてならないだろう。
「トウヤ‥‥、怪力の人でもウロついてたのかな。」
「‥‥それは違うと思う。」
 なるべく明るくしようと振舞うだが、じわじわ恐怖が身を包み始めていた。
 更に歩いていくと、人が大勢倒れている場面に出くわした。
「なに‥この人たち‥‥。」
「‥‥皆、死んでるのか?」
 ごろり、と転がる死体を目にして、トウヤは急いで立ち去ろうとするが、は立ちすくんでしまう。
 人の死を見て、改めて自分のいる場所の異質さを思い知らされ、動けなくなってしまった。
、大丈夫だ、しっかりしろ!」
「あ、うん‥‥ゴメン。」
 一度両手で頬を覆い、しっかりしろと自分に言い聞かせ、トウヤに付いていく。
「とりあえず、人を探そう。」
 ‥荒野しかないかもしれないという考えに襲われたが、なにもしないままでは状況は変わらない。
 状況を把握できる可能性があるかぎり、動いてみて損はないはずだ。
 どこかに民家でも見つかれば、ここがどの辺で、なにが起きたのか分かるかもしれない。
 歩きながら、二人は話をしていた。
 不安をその胸に留めぬために。

「‥‥、街だ‥‥。」
「えっ!?」
 目の前に広がる光景に、やっと人がいる所に来たという安堵感が芽生える。
 壁の裂け目から入り、ホット一息する‥‥が、なんだかおかしい。
「建物の造りから見ても、僕達のいた世界じゃないな‥‥。」
「人の姿も‥‥見当たらないね。」
 きゅっと、トウヤの服のすそをつかむ。
 もトウヤも、嫌な予感がしていた。
「とりあえず、誰にかに話を聞かないとな。」
 すそを掴むの手を外し、自分の手と結ぶ。
 普通ならテレたっていいその行動も、今の不安の前ではなんの事もない。
 周りの様子を見ていたトウヤが、急に大声を上げた。
「誰だ!!」
「ト、トウヤ‥‥?」
 不思議そうに見るを自分の背後に隠し、気配のする方を見る。
「‥‥ヘェ、いいカンしてるな、アンタ。」
 ‥人だ、と、は素直に思った。
 後ろから大男が出てきて、なにやら訳のわからない事を言ってくる。
「あり金全部置いてくんだ、そうすりゃ命は助けてやる。」
「そっちのお嬢さんに怪我させたくはなかろう?」
 ビクン、との体が震えた。
 トウヤにも、それが伝わる。
「‥、大丈夫だ。」
「ケッ、イチャついてるんじゃねぇよ。」
 小柄な男が、悪態をつく。
 は目を閉じて、心を落ち着かせた。
 ‥大丈夫、自分は一人じゃない。
 それに、いつもの私は、こんなに弱くない。
 ‥‥その間に、トウヤはお金を相手に渡していた。
 だが、そのお金を見た男は激高する。
「なんだこりゃ?鉄クズや紙キレよこせとは言ってねぇぞ!」
「‥‥悪いが、この世界のお金は持ってない。」
「どうも俺達の事をナメてるらしいな。かまわねぇから、ちょっと遊んでやれ!」
 ――は、するりとトウヤの横に立つ。
、ダメだ、隠れ――」
「もう、大丈夫。」
 見つめる目に、怯えも不安もなく。
「トウヤが一人で危ないのは嫌。だから、私も戦う。」
 はカバンの中からペーパーナイフを取り出して、構えた。
「っ‥女だからって手加減なんかしねぇぞ!!」
「手加減しろなんて頼んだりしないわよ!!」

 ――そうして、生まれて初めて、とトウヤはカツアゲと戦う事になった。





サモン2の連載終わっちゃいないどころか、始めも始めなのに、
サモン1の連載まで始めてしまってどうしようもない私(汗)
こちらものんびり行きたいと思いますんで、
どうぞ宜しくお願いします。
さんの性格、なんだか定まってませんな;;

2002・3・20

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