知らないか?」
 ネスがリビングでお茶していたトリスに問うが、知らないよと答えられてしまう。
 隣にいたアメルが、少し考えてネスに告げる。
「さっき、屋根裏へ行った気がします。」
「そうか、ありがとう。」
 足早に屋根裏部屋へと向かうネスを見て、トリスがニヤニヤ笑った。
「トリスさん?」
「いやぁ‥‥ネス、に告白でもするのかなぁと思って♪」
「ええっ!?」
 アメルが驚きの声を上げる。
 そういうタイプには見えないので、驚きもひとしお。
「‥‥でも、どちらかと言うと、怒るために捜してるって気がしませんか?」
「‥‥そっちが濃厚かも。」


 ネスは屋根裏部屋を一望し、目的の人物を見つけると歩み寄った。
 声をかけようとして‥‥踏み止まる。
「‥‥寝てるのか?」
 は、積み上げられた本に寄りかかるようにして、眠っていた。
 余りに気持ち良さそうに眠っているので、起こすのがためらわれる。
 普段なら‥‥、文句を言うとか、注意するとかであれば、無理矢理にでも起こしたのだが、今回はそうではない。
 彼女に頼まれていた本を、渡しに来ただけだった。
 だからこそ、起こすか否か、悩んでしまう。
 無論、昼寝しているというのは、彼にとっては余り褒められた事ではないのだけれど。
「‥‥トリスに似てきたな、まったく‥‥。」
 ネスは、彼女が起きるまでその辺の本を読んで、時間をつぶすことにした。
 一度、が半ボケ状態で目を覚まし、ネスに寄りかかり、そのまま又眠ってしまう。
 ネスは苦笑いしつつ、黙々と本を読んでいた。
 ――いい加減本を読み、ふと、横のを見る。
「異世界の少女か‥‥。」
 召喚で呼べる四つの世界の、どこにも属さない世界から来たという
 帰る方法が見つからないというのに、どうして明るく振舞えるのだろう。
 自分の世界はここなのだと、納得しているのか。
「‥‥なんにせよ、強いコには違いないな。」
 茶色の髪に触れ、優しく撫でた。
 どうしていきなりこんな事をしだしたのか、ネス自身にも分からないが、暖かい陽気の光を受けて、映える彼女の髪を、綺麗だと思ったからかもしれない。
 いつもキラキラしていて好奇心に溢れる瞳は、今は閉ざされている。
 ‥‥自分が、他人を目の前にしてこんなに心穏かなのは珍しい事だと、ネス自身信じられない思いを持ちつつも、彼女の髪の手触りがよくてやめられない。
 過酷な運命の下でも、彼女は人を好きになる事を失わないんだろうと、半ば自嘲気味に笑った。
「っん‥‥誰‥‥?」
「ぁ‥‥。」
 が目を覚ます。
 ぱっと、撫でていた手を止めた。
 なにやら、気恥ずかしい。
「僕だ。」
「ネス?‥‥あ、ゴメン、肩借りちゃってたんだ。」
「いや、別にいい。」
 が離れる。
 少し、寂しいと思ってしまう自分の心を叱咤した。
 というより、驚きでもあったのだが。
「‥、君は人を嫌いになったことがあるかい?」
「なに、いきなり‥‥。」
 どうしたのと問いたかったが、余りに真剣なネスの表情に、素直に質問に答える事にした。
「あるよ。スッゴク嫌いな奴がいた。」
「‥‥差し障りなければ、話してくれないか。」
 どうしてだろう、彼女が嫌いになる人間というのは想像がつかない。
 誰にでも‥‥それこそ、敵すらも理解しようとする心の持ち主だというのに。
 そんな彼女が嫌いと言う人間‥‥、知りたいと、思った。
 は、固まった体を伸ばしながら、なんでもないことのように告げる。
 ”嫌いな人間は、私自身”だと。
 ‥‥自分が嫌い‥‥、人を包む事ができる人間が、自分を嫌いだと――?
 だが、ネスの見るかぎり、彼女の瞳に嘘はなくて。
「どうして‥‥嫌いだと?」
「上っ面で生きてきたから、かな。なんて言うのかな‥‥自分に嘘をついて生きてきたっていうかさ。人には必要以上に関わらない、嫌なことには耳と目を塞ぐ。‥そういう人種の人間だったの、私。」
 自分の世界にいた頃‥トウヤに会うまで、この世界に来るまで、自分は褒められた人間じゃなかった事を知っている。
 見ない振りが当然だと、思っていた‥‥あの頃は。
 でも、リィンバウムに来て、人の暖かさを覚え、人に助けられ、その恩に酬いたいと、本気で思って。
 戦って、人の死に直面して‥‥。
 自分がいかに、世間知らずだったか、愚かだったか知った。
 だから、昔の自分は、好きになれない。
「人が‥‥本当に意味もなく悪くなるなんて事ないと思うんだ。なにかしら理由があって、酷い事をするんだって思いたい。ネスに言わせると、甘い考えなのかもしれないけどね。」
「そんな事はないさ‥、羨ましいよ、自分が好きになれるっていうのは‥。」
 僕は、とても自分を好きになれそうにはないと、呟く。
 は、ネスの顔を上げさせた。
「ネス、ダメだよ。」
「?」
「トリスやマグナは、貴方の事大好きなんだから。すぐには無理だろうけど、本当に自分を嫌いなんだったら、抜け出せるよ。」
 好きな自分になれる、そう言って笑う
 彼女は、本当に強い。
 強くて、優しいと‥‥ネスは思う。
 彼女の一言に意外なほど救われている自分がいて。
 泣いてしまいたい衝動を必死になって抑えた。
「‥‥ネス?」
「‥‥なんでもない。‥君が読みたがってた本だ。」
 持っていた本を渡すと、背を向けて歩き出す。
「ありがとう、ちゃんと勉強するからね。」
「期待しないでおくよ。」
「ひど〜〜。」
 苦笑いして、本をめくりだす
 ネスは、彼女の傍らが自分だけの居場所であるようにと願いつつ、部屋を後にした。
 軽くなった心を持って。

「ネス、告白したのかなぁ‥。」
 幸せそうなネスを見かけ、トリスがアメルに言う。
「あとでネスティさんに聞いてみたらいいんじゃないですか?」
「‥‥怒られるだろうから、やめとく。」
「賢明ですね‥。」




ネス2作目でございます。
甘いんだか辛いんだか(?)そして、意味不明度マックス。
何が書きたいのか、最終的に訳わかんなくなってしまったお話に‥‥;;
次回精進(毎回言うのではなかろうか‥)
ネスラヴ。メガネを是非外して頂きたいのですよ。
そろそろシオンさんとか、リューグとか‥‥増やしたい‥‥。
個々ED見ていないのが痛いですな。

2002・3・23

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