教師




「エビルファイア!」
 発したはずの召喚術はどうやら不発だったようで……言葉だけが虚しく風に流れる。
 は思わずがっくりとうなだれてしまった。
 集中しては最小限の力で召喚術を発動させる。
 既に数十回、この行為を繰り返している…のだが、一向に成功しない。
「…少し、休憩にしよう。」
 教師役のネスティが、溜息交じりに休憩を告げた。
 それを聞き、ヨレヨレになりながらネスの後についていった。

 はトウヤとともに、ある事件がきっかけでリィンバウムに召喚された。
 トウヤと同じく、なぜか卓越した素質を持ち、召喚術を使いこなしている。
 ただし、術の成り立ちや基礎は殆どわからないのだが。
 前の事件の後、少し召喚術を勉強する事にし、ギブソンとミモザについて来た。
 ギブソンの紹介でネスティとトリスに引き合わせてもらい、今にいたる。
 一応、蒼の派閥の許可ももらって入るが、派閥内部には立ち入らないことにしていた。
 ……色々、五月蝿いのがいるからという理由で。

 が上を向き、空を仰ぐ。
 離れているけれど仲間が同じ空の下にいると思うと、ちょっと元気になれた。
「…ねぇ、ネス…なにが悪いのかなぁ…。」
 トウヤやソル達と戦った時には、きちんと使えていたと思っていたのだが、ネスに何度かレクチャーを受けるうち、判った。
 は力を抑制…つまり、コントロールするのが非常に苦手なのだ。
 今までは余り考えなしに術を使っていたのだけれど、いちいち全力で戦っていたのでは消耗も激しい。
 そのための訓練を延々としているのだが…どうにもコツが掴めない。
「君は…なんて言うか、少し力の入れすぎなんだ。」
「力の入れすぎ?」
 小首を傾げるに、ネスは少し考えてから言葉を発した。
「君の一杯の力が…そうだな、バケツ一杯の水だとする。」
「うん。」
「そのバケツ一杯の水を、全部コップに入れようとしてるんだよ。」
「………ええと…つまり…。」
 上手く説明できなくて唸っているを見て苦笑いし、“いいかい?”と説明を始めた。
「零れるのが判ってて、コップに一度に全部入れる必要はあるかい?」
「ううん、ないと思う。」
「じゃあ、どうしたら無駄がなくなる?」
 は少し考えると、ネスに向かって恐る恐る自分の考えを言う。
 別に恐れる必要はないのだけれど、トリスがよく、“ネスは厳しい!”と言っていたのでその印象があるために伺うような感じになってしまった。
 ネスは気にしていないようだけれど。
「えーっと…無駄にしないためには、バケツの水を少しずつ…コップ一杯きっちり入れたら止める事…じゃない?」
「そう。一気に入れようとするから零れるんだ。少しずつ、的確に入れていけば零れないだろう?」
 そっか、と納得した。
「いつもの全開の力を、無理矢理弱くしようとするから上手くいかないんだ…。」
「確かに、力を全開にしても問題はないんだよ、ただ君の場合は持続力がない。だから、不安定なんだ。」
 ぐさぐさ刺さる言葉だが、本当の事なので文句は言えない。
 はうーん、と唸った。
「さっきやらせた訓練が君のコントロール力を高めてくれる。時を見つけてやっておくように。」
「はい〜……。」
 返事に満足気に頷くネス。
 “じゃあもう一度やってみて”と言われ、は立ち上がり大きく深呼吸をすると、唇をきゅっと結んで手のひらに力を集めた。
 最初は大きな紫色の球の形をしていた魔力の塊を、力を制御しながら小さくしていく。
 さっきは能力全開でやったのだが、今度はネスに言われたとおり少し力を抜いている。
 ……それでも握りこぶしより少し小さくなると、魔力ははじけて霧散してしまった。
 これをネスがやると(球の色は灰色だが)米粒ぐらいの大きさにまで小さくなり、そのままいくらでも保持していられる。
 は悔しくて唇を噛んだ。
 悔しそうにしているに、ネスは仕方ないなと言った感じで溜息をついた。
「一朝一夕でできるものじゃない。焦らないほうがいい…トリスだって最初は色々酷かった。……今もだが。」
「へぇ……」
 そうなの?と目を丸くすると、ネスが笑った。
「ああ、サモナイト石を爆発させて無駄にするなんて日常茶飯事だったよ。」
「そうかぁ…。」
「どうした?」
「うん…なんか。」
 トリスの事を話すとき、ネスの表情がとても優しくなっているのに気がついた。
 仲間達に向けるのとは違う、微笑み。
 はなんとなく軽く落胆を覚えた。
 …なんだかんだ言っても、やはりネスとトリスの間には自分なんかとは比べ物にならないぐらいの多くの時間が流れている。
 こうやってネスに術を教えてもらっている時間は、ネスやトリスの邪魔をする行為ではなかろうか。
「…ネス、迷惑?」
「?」
 質問の意図がわからないらしく、ネスが首を傾げる。
 いきなり迷惑かと聞かれても、何に対してなのかが判らない。
 こうやって術の勉強に付き合っているのは、自分にとっては迷惑ではないわけだし。
「…私、なんだかネスとトリスの邪魔をしているみたいで…。」
「………君は……。」
 ネスが苦笑いしながら、の頭をポンポンと叩いた。
 疑問符を飛ばしながらネスの顔を見ると、なんだか複雑な表情をした彼がそこにいた。
「どういう風に僕とトリスの仲を見てるんだ、君は…。」
 どういう風と言われても…と戸惑っていると、ネスの手が頬に触れた。
 暖かい…とても優しい手。
 は目をぱちぱちさせながらネスを見た。
 …心なしか、ネスの頬が少し赤くなっている気がする。
「トリスと僕は一緒に修行した仲間だよ、弟子関係。」
「じゃあ、私は?」
 じゃあ自分はネスの弟子、という事になるのだろうかという、純粋な質問だったのだけれど。
 そのの発言に対してネスが過剰反応した。
 頬に当てていた手を引っ込め、自分の口元を抑えている。
 顔はさっきより赤くなっている気がした。
「ネス?」
「……どうって……大切…だよ。」
「…大切?」
 ネスはいきなり立ち上がると“先に戻る”とだけ言い、すたすたと歩いていってしまった。
 なにかいけない事でも聞いてしまったのだろうかと悩む
 大体、大切っていうのはどういう意味なのだろうか。
「…うーん…トリスに聞いてみよう。」
 よしっと力をいれ立ち上がると、はトリスを捜しに歩き始めた。

 トリスはの話を聞くと、ネスをからかうネタが出来たとにんまり笑ったという。
 当のは結局なにがなにやら判らず、“大切”の意味を余り深く考えなかった為、教 え子が出来て嬉しいんだろうな、という妙に曲がった解釈をした。

 ネスの思いがきちんとに認識されるまでには、幾分か時間が必要なようである。



やはり実に中途半端な創作になってしまいまいた、ネステイさんです(汗)
いきなりラヴラヴしてる図が浮かばなくて、こういう中途半端な状態に。
次回精進します(毎回だな)
ネス好きなんだけど、ED関係は今回避けました。
いきなりそっからはどうよ、とか思ってこんな風に;;
次は…なんだろう……バルレル大人版か…リューグまだクリアしてないんでダメだろうけども…。
想像でカバー?(汗)

2001/9/13

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