最終試験


 青空学校。
 久しぶりの授業で、生徒たちはそれぞれ勉学を楽しんでいるように見えた。
 端の方でそれを見学させてもらっていたは、ふと、ハヤトやナツミ、アヤの事を思い出す。
 ハヤトと馬鹿やったり、ナツミと買い物いったり、アヤに勉強教えてもらったりしたなぁ。
 元気でいるだろうか。
 ぼーっとしていると、乾いた鐘の音が鳴った。
 どうやら授業が終了したらしい。
 生徒たちがそれぞれ先生に宿題をもらい、家路に着く。
 残されたのはナップにウィル、そして教師2人。
 立ち上がり彼らの側に寄ったに、アティが進言する。
さん、私たちこれからこの子達の最終試験をしようと思うんです」
「最終試験?」
 レックスが苦笑した。
「実際、この子達は学校に入ってから勉強する所まで理解してるし……そろそろね」
 それで、とウィルとナップが後を継いだ。
「先生たちの試験が終わったら、さんもボクらに試験をして欲しいんです」
「頼むよ!」
 必死な顔で言われ、腕を組んでうぅんと唸る。
 暫し考え、頷いた。
「じゃあ、先生たちの試験に合格したら、最後の手合わせしよっか。終わったら、集いの泉に来てね」
 あえて彼らの今の実力を見ないために、はその場を後にした。


 ナップとウィルが両先生の試験を見事に合格しての元へ来たのは、俗に言うおやつの時間だった。
 レックスとアティも一緒である。
 既に疲弊している生徒2人に苦笑し、回復を施してやった。
「あ、ありがと」
「ありがとうございます」
 礼を言う生徒2人。
 さて、と佇まいを直し、は考え込む。
「どうしようか。私は教師じゃないから、試験と言われてもピンとこないんだよね……」
「なんでだよ。も師匠がいるんだろ?」
 いるにはいるのだけれど……ソルにしろネスティにしろ、試験を受けた覚えがない。
「なんていうのかな、毎日試験だったわけよ。なもんだから、最終試験っていうものを受けてないのね。実際、今だってまだ弟子の状態だし」
 驚いたように目を丸くするナップ。
「嘘だろ!? そんな強いのに」
「ソルにもネスティにも、むらがありすぎる! って怒られんのよ」
「どうしても試験して欲しいんです。僕らが学校に入れるっていう自信をつけるためにも!」
 ウィルの言葉にナップも頷く。
 そう言われてしまうと、やはり何か考えないといけなくて。
 が今までしてきた事といえば、実戦。これだけだ。
 だが、先ほど聞いたレックスとアティの最終試験は実戦。
 ならば同じ事をしても意味がない気もするし。
「テメェら何してやがる」
「あ、バルレル」
 間がいいのか悪いのか、丁度よく通りかかったバルレルが寄ってくる。
 彼の姿を見、はきらりんと瞳を輝かせた。
「あったあった、試験方法!」
「……??」
 はバルレルを引っ張ってもじょもじょ話をし、そうしてから彼を引っ張ってきた。
「最終試験は彼に決定しました!」
 もう少し詳しく話してくれないと意味が分かりません。


「つまり、バルレルの魔力に押し負けなければいいって事ですか?」
 ウィルの言葉には頷いた。
 が提示したのは、バルレルを狂嵐の魔公子化させ、その甚大な魔力に抗えれば合格、という事だった。
 ナップもウィルも、大人バルレルの魔力は以前体感しているから、身にしみているはずだ。
 でも、とナップがむくれる。
「それじゃあアンタはどうするんだよ」
「私かぁ……そうね、私も一緒に魔力放射して場を縛る。それなりに動ければ文句なく試験合格。おっけー?」
 場を縛る、という意味が良く分からない2人だったが、それで納得した。
 では、とある一定の距離を取り、レックスとアティが見守る中――試験は開始された。


「バルレル、分かってるわね」
「うるせぇ。分かってるよ。黙っとけ」
 言い、はバルレルの横で意識を集中し始めた。
 ごくんと息を飲む生徒2人の延長線上で――唐突に魔力が増大しする。
 これはのものではなく、バルレルのもの。
 彼は小さな体から尋常ならざる魔力を放出し、それを集約させ――紫色の風に包まれたかと思うと、次の瞬間には彼の姿は子供だった事など微塵も感じさせぬ、大人の姿に変化していた。
 闘っているわけでもないのに、凶悪にして強力な魔力が風になって飛び交う。
 風圧に負けないように足を踏ん張りながら、ウィルとナップは自身の正面に魔力防壁を張った。
 力を展開したのを見計らい、が次の手を撃つ。
 自身の魔力を足元から一定区画に向かって放出した。
 地面を這って、の力が2人の足に絡みついた。
 勿論、物体として絡みつくものが見えるわけではない。
 まるで接着剤で足を止められたように動けない2人は、あせって身体を揺すった。
 しかし意識を散じればすぐさまバルレルの放出する魔力に負けてしまうと分かっているからか、魔力を押し返すことを忘れない。
「っくそ……!」
 悔しそうに顔を歪めるナップ。
 ――自身、これをソルにやられた物凄く苦労した覚えがある。
 息を弾ませて足に纏わりつく力から逃れようとするナップに、ウィルが気付いた。
「地面に無防備だからだ……!」
 その言葉で理解したらしいナップが、魔力障壁を地面に向けて展開した。
 当然の事ながらバルレルへの防御もしたままだ。
 ウィルも同じように魔力壁を下に展開する。
 縛っていた力を押し返し、彼らはそれなりの動きを見せ始めた。
 はバルレルと顔を見合わせ、力を抜く。
 彼はすぐに子供に戻ってしまった。
 大きな姿でいるのは疲れるのだと言うが、本当のところはどうなんだろう?
 ぜいぜいと息を荒げ、けれどへたり込む事はない生徒2人に微笑みかける。
「うん。試験合格。私が教えられるのってのはこの程度。臨機応変にね。マニュアル化するといずれやっていけなくなっちゃうから」
 彼らは苦しい息の下で、それでもに礼を言う。
 ありがとうございました、と。




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かなりすっきり終わっちゃいました…;あれぇ…;;
が、頑張らなくちゃ!(滝汗)
2005・8・26
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