止めてくれる人



 翌日。
 レックスと共に居たは、オルドレイクの部下(であると言っていいだろう)ウィゼルが碧の賢帝、シャルトスを復活させるという言葉を信じ、メイメイの店に行くことにした。

「レックス、傷、大丈夫?」
 メイメイの店の前で、はわき腹を抑えている彼に問う。
 リペア・センターで夜通し治療を施したとはいえ、完治するまでに至っていない彼の傷はや周囲を心配させるに充分足る物だった。
 けれど彼はシャルトスを復活させる事を最優先事項にし、キュウマからの伝言を受けて、メイメイの店に至る。
 中で話をしてきた彼は、シャルトスを打ち直すには、確たる信念が必要だと――言われたらしい。
 今の彼には心に引っかかりがあり、それが邪魔をするために強い剣は作れないと告げられたのだそうだ。
 引っ掛かりを外すには、誰かと会話するのが一番いいと踏んだ彼は、その相手にを選ぼうとしたのだが。

「ごめん、今の私にそれは出来ない」
 はきっぱりとそう言った。
 何故、と問いかける表情の彼。
 答えは至極簡単で、レックスにとっては酷い仕打ちにも思えるかもしれない。
「私は今、人の――たとえレックスが相手でも――内面のことを助言できるほど、落ち着いて無いから……上手く言葉に答えられるか分からないし。……ホントにごめんね」
「……そうか。ごめん、でもはっきり言ってくれてありがとう」
 至極残念そうに、けれど笑顔で言うレックスに申し訳なさを感じつつ、
「レックスの言葉を、ちゃんと考えてくれる人に話すのが一番いいよ」
 言うと、はレックスに背を向けた。
 それ以上の追撃を許さないと言う、拒絶の意思の表れ。
 振り返る事をせず、暁の丘へと向かう。
 日の高い時間でもこの場所はどことなく陰りがある気がした。
 もっとも、それはの心因のものであろうけれど。
 手近な岩に背を預け、丘の向こうに視線を送る。
 ひらけた海。
 潮風に身体を晒しながら、すぅ、と息を吸い――吐く。
 息と一緒に自分がしでかした大いなる間違いを流せればいいと思う反面、その間違いがあるからこそ、恐らくは成長しているだろうという事も考えられる。
 今のところ実感はないのだが。
 ふ、と背後に見知った気配を感じて振り向くと、仏頂面のバルレルが立っていた。
 彼は無言のままの近くにある岩に、彼女と同じように背を預ける。
 バルレルは何を言うでもなく、ただそこに佇んでいる。
 は小さく息を吐き、
「……ごめんね、バルレル」
 聞こえるか聞こえないかという位に小さな声で呟いた。
「ケッ、謝るならもっと声量を上げろってんだ」
「ごーめーんーなーさいぃぃぃー!」
「ウルセェよ!」
 わざと大声を上げたら怒られてしまった。
 こんな気安いやり取りも随分と久しぶりな気がして、顔が緩む。
 バルレルもふっと笑った。
「もう、大丈夫だな」
「うん。ホントにごめん。バカだねー、私」
「今頃気付いたのかよ」
「……もう少し労わってくれてもいいんじゃないの?」
 胡乱気な瞳で見つめる。
 彼は海側を見つめていてに視線をよこさない。
 どうかしたのかと不思議に思っていると、バルレルは海を真剣な目で見つめたまま、口を開く。
「なァ」
「なに?」
「テメェ、レックスのオンナになるのかよ。ええと、なんつったか。『付き合う?』」
「つ……付き合う!?」
 ある意味では現状にそぐわない発言――それ以上に、バルレルの口から出たとは思えない言葉に、は思わず目を丸くする。
 だが彼は真剣そのもので、笑い飛ばすとか冗談で流すとかいった行為を許さない雰囲気を纏っていた。
 は後ろに手を組み、バルレルに近寄り顔を覗き込む。
「分かってる? 私たちは未来から来たんだよ。この時代の人とどうこうなんて出来ないでしょ」
「それでも。本気で好きだったらテメェは関係なく行動を起こすだろ」
「今は無理かなー」
 あははと笑うに、バルレルは眉を寄せる。
「今は?」
「だって……起こした行動が、皆に迷惑をかけたからね」
 そう。
 勝手に暴走し、憎しみに駆られて起こした行動がレックスを――そしてバルレルを傷つけた。
 今までは、真っ直ぐ過ぎるほど真っ直ぐに進んできただったが、今は。
「怖いんだろ」
「……うん、怖い」
 レックスの事。
 ナップやウィルやアティ――島のみんなの事。
 彼らを助け、協力したいと思う反面、起こした行動が彼らを傷つける結果にならないかと恐れている。
 俯くの頭を、バルレルはごちんと叩いた。
「いっ……な、何すんの!」
「バァカ。今まで通りでいいんだよ。テメェに関わる奴らはそんなにヤワじゃねえだろ。……それでも何かあったら俺が意地でも止めてやる、今度はテメェをブッ倒してでもな」
「――役目だから?」
 冗談交じりに言うに、しかし帰ってきた言葉はとても真っ直ぐで、予想していなかったものだった。

「テメェが好きだからだ」

 彼は何でもないことのように告げた。





スミマセンスミマセン(以下延々と続く)
凄い久しぶりの更新です、ファイル紛失してから先アクション起こしてなかったです…;
一気にいければいいと思うんですけれど…と、ともかく頑張ります!週一目指して!
2005・7・19
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