※微妙にエロ臭いので注意。
色の無い檻で 4





 目覚めたくない。
 けれど、目覚めなければ自らを護ることができない。
 夢の中で不思議な葛藤をし、それでも結局意識は浮上する。
 目覚めた時が一番最初に見たのは、心底悲しそうな側付きの少女レイエルだった。

様……体調はいかがですか?」
 すっと水を差し出され、はそれを受け取って一口ずつ飲んだ。
 潤いが咽喉を通っていく。
「よくはないけど、まあ、生きてるから。もう夜になっちゃったんだね……」
 気を失う前はまだ夕暮れ時程度だった気がするのだが。
 無理矢理笑顔を作ると、レイエルはスープを持ってきた。
「暖めなおしておきました。食事は……辛いでしょうけれど、せめてパンとスープだけでもお飲み下さい」
「ありがと……」
 ベッドの上でのろのろと食事をする。
 スープを少しずつのみ、パンを一口サイズに千切ってはゆっくり咀嚼して食べる。
 急いて食べられる状況になかったし、急いだからといって別段何かが変わるわけでもない。
 パンとスープを平らげる頃には、冷え切った体が仄かに温まっていた。

 食事を済ませ、ベッドを下りて立ち上がろうとしたが上手く力が入らない。
 多分、先ほど無理をしてアフェルドを喚び出したせいだろう。
 結局寝床の上で我慢する事にした。
「……ねえレイエル、イスラの目的は……無色の目的は一体なんなの?」
「それは、どういう……」
「私は無色に協力しない。それは分かりきってるのに、どうしてオルドレイクは私をここに留めとくの? あいつは……普段なら私みたいなのをバッサリ切り捨てるでしょう」
「――それは、確かにそうですが……」
 ここに連れて来られた時から疑問だった。
 はオルドレイクが己以外の人間に、どれだけ非道になれるか知っている。
 自分に従わない者に、どれだけ残酷かを知っている。
 何者であろうと、彼は慈悲を施さない。
 表が慈愛に満ちていても裏は違う。
 そういう男が、命を奪おうとする輩を――利用価値があると信じているからといって――近くに置いておくなんて。
 お世辞にも今のは力があるとはいえない。
 それでも血の海に沈まないのは、どうしてだろう。
 考え出すとキリがないが、一つ考えられるのはイスラが絡んでいるのではないか――という事。
 彼がを保護しろと言っているとは思えないし、言っていたとしてもなにか裏があるように思える。
 大体、イスラはどうして無色に組みしているのだろう。
 彼は……こう言ってはなんだが、そんなに酷い悪党には見えない。
 それは勿論の中だけの結論であって、他の人がそう思っているかどうかは不明なのだが。

 考え込んでいるに、レイエルが声を掛けた。
「あの、オルドレイク様がなにを御考えか、私のような者には分かりません。でもきっと様を酷く扱われる事はないと思います」
「どうかな。手篭めにする、みたいな事をイスラが言ってるしね」
「そんな――きっと虚勢です。そんな酷い事を……」
 虚勢に違いないと言いながら、不安を隠せないレイエルの瞳。
 本当にそれを実行しないと言い切れない辛さ。
 実行しないで欲しいという願望。
 両方が混ぜこぜになっているのが、表情に表れていた。
 にとっては限りなく憎い相手でも、レイエルにとっては信用していたい人なのだ。
 苦笑し、ごめん、と言葉を吐く。
「レイエルの気分を害すつもりじゃなかった。ごめん」
「いえ、そんな! 私の方こそ――」

 それから先のレイエルの言葉は、扉が開かれたことによって止まった。
 開いたそこから入ってきたのは、イスラではなく、髭の御仁のウィゼルでも、栗色の髪のヘイゼルでもなく――
「……オルドレイク……」
 は険しい瞳でその男を見た。
 レイエルは慌てて頭を下げる。
 オルドレイクはすました顔で格子を開けると、堂々と二人の前に歩いてくると、
 レイエルに向かって冷えた言葉を発した。
「退出せよ」
「――は、はい。では部屋の外におりますので……失礼いたします」
 深々と頭を下げ、レイエルは心配そうな視線をに送りながらも退出した。
 ――部屋には、とオルドレイクの二人だけ。

「一体なんの用」
 驚くほどに静かな声を発し、オルドレイクを見やる。
 ベッドから立ち上がろうと手に力を入れるが、倦怠感が一気に襲ってくる。
 それでも無理して立ち上がる。
 その様子を静かに見ていた彼は、口元を歪めた。
「どうだ、気は変わらぬか」
「あんたに力を貸すなんて、死んでもやらない」
 無色に入れと言っている彼を、思い切り罵倒してやりたくなった。
 だがその先を言う前に、オルドレイクが口を開いた。
「お前の心は我への憎しみが渦巻いている。お前の憎悪は純粋な力だ。それを無色のために使え」
「言ってるでしょ。力を貸す気はない」
 ぴしゃりと言うが、彼は笑みを浮かべたままだ。
 妙に確信めいたその態度が気に喰わない。
「それはどうだろうな……お前が望まずとも、そうさせる方法はある」
「――それは、どういう」
 瞳に力を込めて睨みつけた瞬間――の身体が倒れた。
 否、押し倒されたのだ。
 オルドレイクの顔が目の前にある。
 起こった出来事に頭がついていかず、体だけが本能的に拒絶を意味して強張っていた。
 状況が飲み込めたは体を起こそうとしたが、彼によって阻まれた。
 なんの物ともいえない汗が浮き出る。
「なにを――」
「イスラから聞いておろう。お前を我が物にする」
「冗だ――っ!!」
 叫ぶその口に、オルドレイクの口唇が落とされる。
 ――ごくり、との咽喉が動いた。
 彼がなにかを飲ませたのだ。
 それは食事にも混入されている呪薬だったが、飲まされた方は知る由もない。
 ただ、頭の芯が少しだけ霞んだ程度にしか感じなかった。
 更に体から力が抜けているなんて、動転しいて気づかない。
「大人しくしているがよい」
 野卑な手がの胸元を開く。
 言い表せないほどの感情が彼女の体を支配した。
 叫び声を上げたいのに、声が出ない。
 不思議と恐怖はなかった。
 ただ底なしの嫌悪と怒りがあるだけで。
「っ……この!!」
 震える手でオルドレイクを押しのけようとする。
 しかし殆ど力が入っておらず、あっさりと振り払われてしまった。
 ぱたりとシーツに落ちる手が恨めしい。
 さも愉快だという顔の彼はの首筋を指でなぞった。
「抵抗するか」
「放して……放せ……っ!」
 更に抵抗しようとして、痛いほどに胸を掴まれる。
 小さく息をのみ、固まった。
「我に逆らえば容赦しない」
「いやだぁっ!!!」
様!?」
 の叫び声が扉の外まで響いたか、レイエルが慌てて中へ入ってきた。
 中の惨状を見て驚き固まるレイエルに、オルドレイクが冷たい目線を向けた。
「……誰の許しあって入った」
「あ……の……申し訳、ございません……で、ですが!」
 震える声で申し立てをしようとするレイエルの言葉を遮るオルドレイク。
「まあよい、そこにおれ。事が終ったらこの者を湯に連れて行かねばならぬからな」
「そんな、お止め下さい! 様のお体は弱っております!」
「我に意見するか。黙っておれ」
 にべもなく言い放つと、色欲に燃えた目をに向ける。
 晒された胸に憎い者の顔が落ちてくるのを感じ、の意識が曇る。
 逃避というヴェールが意識を覆い隠そうとしていた――時。

「な――」
 オルドレイクが唖然として窓の外を見る。
 窓から光が差し込んできていた。
 はその光に誘われるように勢いよくオルドレイクを振り払うと、格子の入った窓にすがりつく。
 紫色の光、碧色の光。
 魔力の放出でできた光は空に向かって二筋の柱となっていた。
 激しくも優しい波動。
 誰のものか、直ぐに分かった。

「バルレル……レックス……」

 窓の外に見える光に涙が零れた。
 しっかりしろと叱咤された気がした。
 離れているのに、暖かさが感じられるのはどうしてか。
 見ているうちに光は弱まり――消えた。
 それでも窓から離れなかった。

「……仲間か」
 オルドレイクは呟き、窓の側のを振り向かせ、呪力を込めて目を合わせる。
 ――視線を外し、彼女を窓枠に押し付け口唇を奪った。
 暫くそうした後に放れ、倒れ込んだをそのままに部屋の入り口まで歩く。
「レイエル、その者を寝かせておけ」
「は、はい……」
「気を害した」
 言うだけ言い、さっさと部屋を出て行くオルドレイク。
 レイエルはの側により、状態を確かめた。
「――様……」
 苦々しい顔をし、
「私は無力です……」
 そう、小さく告げた。

 涙を零し意識を失っているの姿は、レイエルの心に深く突き刺さった。






すんません……表の癖にエロいしーーーーー!(滝汗)
しかもオルドレイクだよ!!どうするよ自分ッ!!
うわ、ごめんなさいごめんなさい!!

2004・8・14

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