夕闇の慟哭 1 マルルゥにその場所に案内された時には、既に戦闘があちらこちらで始まっていた。 「バルレルっ!」 「おう!」 とバルレルはすぐさま武器を取り出し、それぞれに散る。 参戦に気づいた弓兵を剣で倒し、その弓を奪う。 剛弓ではないから、まだ大丈夫か。 ぎりぎりと音を立てて弦を引き絞り――放つ。 狙うは―― 「っ……りゃ!」 空気を切り裂く音と共に矢が飛んで行き、弧を描いて目的の人物の目の前に突き刺さる。 その人物は召喚術での攻撃を中断し、を見た。 「余裕じゃないの、イスラ!」 「邪魔しないでくれるかい?」 「生徒たちを攻撃しようとするからよっ!!」 もう一本矢を穿つ。 イスラは目の前にいるナップとウィルには目もくれず、その矢を剣で弾き飛ばした。 距離が離れているから、お互いに大声だ。 「君はこの子たちの先生じゃないだろ」 「うるさいっ! レックスとアティが戦ってる間は、私が代理よ、代理!!」 「! 後ろ!!」 ナップが大声を上げる。 気配を察知して思い切り身を屈めると、頭の上を何かがかすった。 慌てて前に回転して後ろを向き、剣を構えると 「ギャレオ!?」 「子供にばかり気をとられていると、やられるぞ」 言いながら彼の重量のある拳がに向かって来た。 剣の平で何とか受け止めるものの、手で支えた刀身と柄から痺れが伝わってきて痛い。 「邪魔しないでよ! 生徒たちに何かあったら大変でしょうがっ」 「戦場でそんな言い訳が通用すると思うかっ」 舌打ちし、周りを見る。 レックスはアズリアと、アティはビジュと戦い、他のみんなはそれぞれ兵士と戦っている。 戦わざるを得ない状況なのだ。 何しろ、先生と生徒たちへの道は、全て兵士が塞いでいるのだから。 とバルレルは少し上の方から入ってきたから、下の混戦には巻き込まれていないが。 一緒に来たマルルゥはアティの補佐に回っている。 バルレルは割合生徒に近い所にいるが、彼らまではもう少し距離がある。 「接近戦でのお手並みを拝見しようじゃないか」 ギャレオが言う。 は打ち出される拳を剣で弾くか体を捻って避けるかして、直撃を逃れていた。 あんな重量級の拳を受けたら、綿みたいに体が吹っ飛ぶのは考えに難くない。 「ナップ、ウィル! 大丈夫!!?」 大声で叫ぶ。 すると向こう側からも大声で返事が帰ってきた。 「オレらのことはいいから、自分の心配してくれよ!!」 「そうですよ! 自分たちで何とかできます!!」 バルレルも彼らに近づいていることを確認すると、は意識を目の前にいるギャレオに集中させた。 には苦手な肉弾戦タイプ。 しかもこの距離だと、召喚術を引き出すまでに手痛いダメージを受けるのは必至。 召喚術を使えば大きな痛手を与えることができるが、協力者が近くにいない状況では、かなり厳しい。 この場合、姑息だがちまちまと攻撃し、隙が空くのを待って召喚術を使うのが最善。 「くー、わざわざ私を狙わないでよ!」 「問答無用!」 ぶあっと風を巻き込んでギャレオの拳がの脇を通り過ぎる。 間一髪、何とか避けた。 攻撃した後の一瞬の隙をついて剣を振るう。 防具を着込んでいるから、そんなに手痛いダメージはいかないだろうが、長期戦覚悟で行くしかない。 「ぐっ……貴様」 「って名前がちゃんとあんのよ」 「うるさい! でやっ」 「はっ!!」 大振りしたギャレオの拳を避け、小さな攻撃をし続ける。 「くそっ! ちょこまかと……」 焦れた彼は正拳を突いたが、はそれを流れるように避け、背面へ回って全体重を乗せ、柄の部分を背中に打ち付ける。 「ぐお!」 踏ん張る彼。 その間に―― 「召喚、タケシー!!」 轟く雷鳴と共に、ギャレオの体にサプレスの召喚術が直撃する。 彼は呻き、全身を硬直させた。 「でりゃぁ!!」 カイルみたいな声を上げ、思い切り力を入れて剣を振るう。 腕がギシリと嫌な悲鳴を上げるが無視してギャレオに渾身の一撃を見舞った。 体躯のいい者に対して、力のないではどうしても体に付加がかかる。 しかしそのおかげか、ギャレオはがっくりと膝をついた。 「ぐ……」 「まだやるなら召喚術もう一発行くよ」 ぜいぜいと息を荒げながら、はそれでも構えを解かない。 ギャレオは何度か深く息をつくと、咳き込んだ。 「げほ……げほっ……貴様……あの者たちのように、戦うのが嫌だと言うタイプではないな……」 「まぁね。話し合いで解決できればいいのが一番だけど、そうできない時もあるから。その辺はね」 線引きはしっかりしてるんだ、と言いながらも警戒だけは崩さない。 見れば、イスラはナップとウィル、そしてバルレルによって何とかなったようだ。 アズリアとビジュの方も、見た感じではあるがそろそろ決着がつく。 複雑な思いで、ギャレオは断ち上がると――に再度の攻撃を仕掛ける。 しかし先ほどまでの勢いはない。 さっと避け、は柄で肩を打つ。 「がっ」 ダメージが蓄積した体は、スピードが乗らない。 元々、重量型の攻撃をするギャレオは、スピードを殺してしまっているから、こうなると、小柄なを捕まえて大きな攻撃を仕掛けるのはかなり厳しい。 「く……そ……っ……」 ぎり、と歯を噛み締めるギャレオに、は苦笑いした。 「ギャレオさんは、アズリアさんが好きなんだね」 「なっ……」 戦場に似つかわしくない会話だが、は口を止めない。 「あなた達はとても強いと思う。私が知ってる軍人に、とても似てる。……だからお願い。上層部を疑うことを、刃向かうことを知って欲しい」 「貴様に何が分かる……っ」 「うん、そうだね。でもね、自分たちの組織形態を知ることは大事でしょ? 大事なことを取り落としてしまってからでは、もう遅いから……」 ギャレオは、が何を言いたいのか分からない。 とて、彼らの分隊がどんなものか知らない。 でも、言っておきたい言葉があるなら、それはその時に言うのがいい。 後になって言えなくなることもあるから。 もう攻撃してくる気はないのか、彼は膝をついて息を調えている。 「……貴様に、護りたいものはあるのか」 問われ、言う。 「うん、私一人じゃ抱えきれないくらい、たくさんね」 それとほぼ同時に、アズリアの敗北宣言が高らかに伝えられた。 何故かVSギャレオ。珍しくマジメに戦闘シーンを書いている気がする。 しかし勢いが乗らないっていうのは問題だ……。 2004・7・2 back |