時軸経路 3 「では、測定します。力を抜いていて下さい」 意識すると普通ができなくなるものらしい。 なるべくニュートラルな立ち方をして、頭の中をカラにする。 クノンの言葉通り、円台の上に乗ったがなるべく力を抜いた状態のままでいると、円を取り巻く膜――スクリーン――が反応した。 の身体を包み込む淡い光が集まって来る。 四属性と、もう一つ。 無色と言われる白い――透明な色。 それらは体に定着したまま、淀みないオーラの如く揺らめいている。 バルレルは当然のようにそれを見ているが、クノンはやはり多少の驚きがあるようだ。 四属性それぞれが反応しているなんて、普通はありえないのだから。 スクリーンは、基本色を紫として、後は淡く三色に光っていた。 グラフもきっちりそれを証明していて、紫色――霊属性が一番高い数値、その下に赤色、緑色に灰色と続いている。 「さんは、四つの属性の中でも機属性が若干下回ってますね」 「うーん、どれも平均的には使えるんだけど、普段あんまり使わないからかな」 前の戦乱の時は、マグナとネスティが機属性で、自分はあまり使わなかった。 苦手意識はないけれど、使わないというのは本当。 他の三属性に比べれば、誓約の数が少ないのも事実だけれど……。 クノンはモニタをじぃっと見つめ、数値を見据えていた。 「力を意識して止める事はできますか?」 「うー……無理っぽい。四世界からの力を受け入れて清浄化して出すらしいから……」 の<花嫁>の力は普段的に発動しているらしいので、自覚が薄い。 グラフは先ほどから揺れっぱなしだ。 紫色だけは飛びぬけているけれど。 「これって、基本的な私の魔力値ってことだよね?」 「はい」 モニタに立っているグラフを見て、うーん、と唸る。 元々の血筋だろうか。 やはり際立って霊属性が高い。 「詳しい説明は、後ほどアルディラ様にお聞きください」 「あ、うん」 「それでは、力を放出して下さい。あくまで、”通常”の力です」 通常の力だと念を押されて、苦笑いする。 は、くっ、と力を入れ――魔力を解放した。 色とりどりの魔力が、スクリーンにぶち当たる。 バルレルほどではないにしろ、それなりに強力な魔力波が渦巻く。 モニタのグラフも四属性それぞれ面白いぐらいに上がった。 一番高いのは霊属性だが、他の三属性は殆ど横一線。 クノンが次の指令を出す。 「……分かりました。次は、花嫁の<力>を出してください。全力で」 「三棲いないけど……大丈夫かな、うん、まあいいか」 勝手に納得してみる。 すぅ、と息を吸い、意識をそれぞれ刻印のある場所へ集中する。 額、胸、右手、左手――。 四棲を呼び出すわけではないので、呼びかけは必要ない。 それぞれの場所から、魔力を引っぱり出す。 四つの印が体に現れ、それぞれがそれぞれの属性色で輝く。 の身体全体から全属性の力が放出され、スクリーンの中が高濃度の魔力で満たされた。 閃光のように走る魔力。 天井に向かって立ち上るエネルギー。 それらは出てはまた直ぐにの体に入り、そしてまた出てくる。 の髪が自分の魔力で煽られ、強風の中にいるみたいにあちこちに乱れ飛ぶ。 バルレルがグラフを見ると、どの属性も本来のものよりも跳ね上がっていた。 しかし、定の値に達して止まる事は全くなく、先ほどと同じように常に変動している。 「わ、わ、わ!」 「? どうした!?」 いきなり慌て出したに、バルレルが近寄る。 側からスクリーン越しに、バルレルの微妙に心配そうな顔が見えた。 「や、やばいかも……勢いつきすぎてアフェルドが出ちゃうか、も……」 「アフェルド?」 クノンが不思議そうに問う。 ちまちまと説明するのも面倒だったのか、バルレルは 「こいつの体にいる特殊な召喚獣だ」 切って捨てるみたいに言う。 クノンは暫く考えていたが、何を思ったか 「では、出してみてください」 ――マジですか。 「ちょ、保障しないよ!?」 「大丈夫です。さんが攻撃しなければいいだけでしょう」 「あ、そっか……でも」 今度出したら、他の三棲と同じように飛んでいってしまうのでは。 が頭の中で考えたことに対して、当人――アフェルド――が返事を返してきた。 『花嫁、我ら二人――ネロフレアとアフェルドは、お前の体が封印媒体だ。心配せずとも、どこかへ飛ぶことはない』 「……んじゃ……」 すっと右手を胸の前に上げ――ゆったりと解放の言葉を紡ぐ。 「四棲解放。二つの紫炎が一人、アフェルド」 途端、の左手の印がまばゆく光り、全身から立ち上る紫色の魔力が形を成した。 端正な顔を持つ男悪魔が現れる。 クノンが計測を速やかに済まし、を見て頷く。 「えっと……ごめんね、戻ってくれる?」 「構わない。どんな理由であれ、お前に呼ばれることは、少なくとも私にとっては幸福だ」 ……何か、凄い言葉だな。 バルレルがそれを聞いてムッとしたのが分かった。 はうーんとうなりながら、とりあえず聞いた。 「ねえアフェルド。ずっと出てるとかってできないのかな」 「花嫁の創めの意味を知らないままでは、それは勧めない」 「……創めの意味?」 「いずれ、分かる日も来るだろう」 よく分からないけれど、アフェルドはにそう告げ、封印を施させる。 素直に封印し――全ての力を通常状態にまで戻すと、クノンを見た。 「っと、こんな感じで」 「……それでは、アルディラ様のところへ参りましょう」 バルレルは微妙に不機嫌な顔のままだった。 「全く、とんでもないわ」 戻ったとバルレルに、いきなりアルディラが言う。 二人は顔を見合わせ、何とも言えない顔をした。 とんでもないと言われても……言われたままに力を発揮しただけなのだが。 アルディラは先ほどのクノンが取ったデータをそのまま処理し、まずは二人の能力値のブレをどの程度まで予測できるかを計算し始めていた。 とバルレルはお茶を飲みながら、アルディラの作業を見守る。 とんでもないスピードながら、滑らかに動く指で次々ににはよく分からない数式やらグラフやらを出していく。 四属性色と、白――無属性の色の棒グラフが上下している。 「そうね……の普段の力と花嫁の力の数値の違いは見ての通りよ」 モニタの一部を示されるが、にはそれが何を示しているのか分からない。 「アルディラ……数字がわかんないよ」 「あら、ごめんなさい。……これでどう?」 「うん」 今度は普通の数字だ。 「いいかしら。今、上に示されているのが、通常の力、上の右が魔力を放出してる状態、下の方にあるのが、花嫁として魔力放出中」 「……うん」 「それと」 と言いながらアルディラがもう一つモニタの上にデータを映し出す。 「こっちはバルレルのデータ。この際、あなたたちが滅茶苦茶高い数値を出すのは、問題にしないことにするわ」 とバルレルは顔を見合わせた。 思わず聞いてしまう。 「高い数値なの?」 アルディラがため息をつく。 「自覚がないわね……まあいいわ。高いの、凄く。で、花嫁と魔公子の力のシンクロ具合を今、簡単に計算してみたけれど……」 「安定してないんだろ」 バルレルがすぱっと言う。 驚きながら、アルディラは頷いた。 「え、ええ。そうなの。多分――転移するために本来必要なのは『二つの調和した力』が『反発すること』なのに、側の力が全然一定に留まらないのよ」 が首をかしげ――はっと気づく。 そうだ。 母親の所に行く時は四棲がちゃんと揃っていた。 でも今は違う。 モニタのグラフを見ても一目瞭然。バラバラだ。 ……それとも、これが普通の状態なのだろうか。 計るなんて今までなかったから、分からない。 アルディラはキーボードを叩き、一つのシュミレートを見せた。 それはとバルレルの力がどの程度安定して混ざり、 ぶつかり合うのがいいかという数値の表れだった。 「今はまだ仮計算の段階だから、この通りにという事ではないわ。ここに時間の概念を入れて、それから戻るのに最低限必要な反発力を計算して…」 「うぅ、数学キライ……」 が頭を抱える。 好きとか嫌いとかの問題ではないと思うのだが。 たとえ数学ができても、ロレイラル計算なんて分からないだろう。 苦笑いしながら、アルディラが言う。 「まあ、計算の方は私がやっておくわ。暫く時間を頂戴」 「うん、ありがとう。――あれ?」 ふと、アルディラの机の上にあったデータを収集した紙らしき物を見た。 引かれたのは、その名前。 「イスラ?」 バルレルもそれを見て眉根を寄せる。 「何だよ、あのガキのデータか」 「ええ。……実は彼、死と蘇生を繰り返してるみたいなデータをはじき出してるのよ」 不思議がるアルディラ。 クノンも理解不能らしい。 「……普通じゃない、よね」 「当然、普通ではありえない事象よ。でも、それがどういう意味を持つのか知りようがないわ」 中央管理施設を出たに、バルレルは不機嫌な声をかけた。 「あのな、何を考えていきなり……」 「わーかってるって。時期が来れば帰れるってこの時代のネロフレアが言ってたけど、それでもできる事はやっといた方がいいじゃない。後腐れなくて。あ、パラレルワールドについての説明聞きはぐった……バルレル、後で二人で聞きにこようね」 さっぱりと言うに、それ以上の文句を言っても無駄だと諦めたか、バルレルは口をつぐんだ。 そこへタイミングよく飛び込んできたのは、マルルゥ。 「大変ですよぅ〜!!」 「わっ!? マルルゥ!!?」 の胸に飛び込み、わたわたと身振り手振りで状況を説明する。 といっても最終的に理解したのは、一言だったけれど。 「帝国の兵士さんたちと戦うことになったですよぅ!」 凄い進み方してますね、ほんとにもう。が、がんばります。色気無いなー。 そろそろストックがなくなってきたぞ……(滝汗) 2004・6・25 back |