時軸経路 1 遺跡を封印してからその後、幾度かヤッファとキュウマが交代で遺跡を点検に行ったが、彼らいわく、封印はきちんとなされていて、 ちょっと引っかかるのは、静か過ぎるということぐらいらしい。 確かに、あの地震と紅色の柱を見ている状況においては、遺跡が完全に沈黙――または無反応とも言う――しているのは、いささか奇妙な感じがする。 かといって、変に手出しをすればなにが起きるか分からないし、いつの間にか手に戻っていたレックスの剣を使うのはリスクが高すぎる。 結局のところ、全員一致で 「当面は放っておく」 ということで落ち着いていた。 「まあ、問題を先送りにしてるだけかもしれないけど、この場合しょうがないよね」 「にゃははは〜、そうそう! 人生楽あれば苦もあるしぃ?」 「……メイメイさん、なんか違うよ、それ」 は今、メイメイの店に来ていた。 必要な道具を買うだけのつもりが、メイメイに誘われてお茶と雑談までしている。 メイメイはお茶ではなくお酒だが。 ……のん兵衛には、朝昼晩の隔たりなく酒が必要と見える。 しかし彼女の場合は、酔うために飲んでいるように見えないが。 シルターン風のお店は、日本に微妙に近いところがあって和める。 暇さえあればきているという程ではないけれど、でも割とメイメイさんとは雑談しにきていたりするだった。 息がつまりそうになった時の、息抜きの場所。 そんな感じ。 は自分で湯飲みにお茶を注ぎ足し、口に含む。 「う」 「どうかした?」 「……何杯目でしたっけ、これ」 薄味だ、と眉をしかめる。 ヤードのように渋みが”味”だと言うつもりはないが、何度も何度も入れたそれは、水に近いものがあった。 茶葉を入れなおし、味の染み出たそれを飲む。 「うん、美味しい」 「んにゃぁ、お酒入れてみよっかなぁ」 「うげ、あんま美味しそうじゃないカモ」 なんて、どうでもいい会話をしながらお茶をする。 ふと、は周りを見回し―― 「そういえばメイメイさんて、占いもするよね?」 「するよぅ? 当たるも八卦、当たらぬも八卦〜」 テーブルに頬杖をつき、にこにこ笑いながら言う。 この世界に八卦なるものが存在するのか、にはよく分からなかったが、その言葉で決めた。 「是非にも占って欲しいことがっ!!」 「にゃはは〜、恋占い?」 さらりと言う彼女に、が思い切り両手を横に振る。 ついでに首も。 「ち、ちがっ……そうじゃなくて、別のことで!」 「ふぅーん、なにを占いたいの?」 一瞬でシラフみたいになるのも、この人の凄いところ。 こほん、と一つ咳払いをすると、メイメイはテーブルの上を片付けて、シルターンのものらしき占具(せんぐ)を出した。 が見てもよく分からない文字が書かれた敷板の上に、水晶が乗っている。 少し考え、無難に 「帰る方法を」 とだけ伝える。 もしかしたら、メイメイには全て分かってしまうかもしれないと感じながら。 既に、なにもかも知っているかもしれないけれど。 「凄く漠然としてるわねぇ、まあいいわ。やってみましょ」 ふわり、メイメイの手が水晶の上にかざされた。 途端に室内の空気ががらりと変わる。 ぴん、と見えない線をあちこちに張り巡らせ――それを切らないで部屋を横断しろと言われるみたいな――そんな感覚。 彼女の口から紡ぎ出される、には認識できない言葉。 水晶の中が淡く光り、メイメイの瞳にそれが映し出される。 静かに、彼女の手が降ろされた。 ごくんと息を飲み、はメイメイに問う。 「どう、です?」 「にゃははぁ、ちゃん、恋しちゃってるわねぇ」 「帰る方法と関係ないし……」 いきなり元の空気に戻ったメイメイにほっとしたような、がっくりきたような。 「あなた、どうも妙だと思ったら時間逆行してきたのねぇ」 「!!!」 核心を付かれる。 しかし占ってもらう時点でそのことは考慮していたから、直ぐに諦めはついた。 彼女の占いの腕は、並大抵ではないと知っているし。 「にゃはっ、だいじょぶよお、言ったりしないから。帰る方法だけど、ロレイラルの力を借りると吉」 「っことは、アルディラか……」 「そ。彼女の協力を得るのが一番。逆行のことも話した方がいいわね。勿論、アルディラとクノンにだけ。他の人に言ったら、混乱するでしょうしね」 「言いませんよ、他のみんなには……」 ただでさえ、遺跡やら剣やら帝国兵やらで問題山積みになっているのだ。 これ以上のモメごとを、こちら側からわざわざ増やしてやることもない。 「あーっと……ついでだから聞いちゃいますけど。私とバルレルって時間逆行してきたわけじゃないですか。このまま進むと、いわゆるパラレルワールドみたいになるんじゃ……って、言ってる意味分かります?」 パラレルワールドなんて、元々の世界でも小説や漫画なんかでしか使わない言葉だ。 リィンバウムで通用するのかと思いきや、メイメイはあっさりと理解した。 「その辺は大丈夫よ。後でアルディラに詳しく聞いてみるといいわよ。あっちの方が説明上手だし、専門だろうし」 「うん、分かった。メイメイさん助言ありがとうっ。早速、行ってみる」 「あ、それともう一つ」 「?」 立ち上がりかけているに、メイメイが声をかける。 は不思議そうに彼女を見た。 するとメイメイは少し考えた後、ふ、と……どこか悲しげに笑って言う。 「……にゃはは、なんでもなぁい」 口調こそいつもの通りだったけれど、普段とは違う彼女に、はいつのも笑顔を向けた。 それしかできない気がしたから。 もう一度だけ「ありがとう」を言い、は走ってラトリクスへと向かう。 メイメイはその背中を見ながら、小さくため息をついた。 「……あのコは、幾つも幾つも、複雑に絡み合った糸に繋がれてる。避けられない運命と使命……どうか」 どうかあの子が、居なくなってしまいませんように。 メイメイは願った。 彼女の母親が請け持つはずだった責務と枷すら負わされたが、挫けてしまわぬようにと。 淡々と進んでますね……ホントにもう何処を突っ込んでいいんだかという感じですが、 海より広い心でお許し願えればと思います;; 2004・6・11 back |