あなたに気づいて 1





「ほらほら! 踏み込みが甘い!」
 船の外。
 叱咤の声がからナップとウィルに届く。
 それを受け、銘々が攻撃に力を入れる。
 ウィルがベズソウを呼び出し、がそれに魔力で応戦している横から、
 ナップが勢いをつけて踏み込み――
「っ……!」
 彼女の腹に、手痛い一撃を食らわせた。
 剣の柄の方だが、痛いものは痛い。
「やった!」
 一瞬、二人が気を抜く。
 そのほんの小さな油断を見過ごさず、は地面の砂を掴み、二人に投げかける。
「わっぷ!」
「うわあ!」
 目をつぶって砂を回避し、改めてを視界に捕らえようとして――
「はい、終了」
 気づけばナップの首の側に、ひた、と冷たい真剣が、ウィルの首の側には、いつの間にやら抜き出されていた彼女のナイフが添えられていた。
 完全に動きを止めている二人を見て、小さく笑うとは武器を鞘に戻す。
「うん、上達振りが凄い」
「……オレに言わせれば、アンタの方が凄いっての」
「帝国兵と戦って、その上で僕らの訓練であの動き……」
 はぁ、と二つのため息がこぼれる。
 は苦笑いするしかない。
 確かに帝国兵と戦ったけれど、その後それなりに休憩も取ったし、回復力だけはそれなりに人に誇れる。
 むしろ、その状況下でもこれだけ訓練についてこられる二人が偉いと思うのだが。

「おい
「あー、バルレル。どしたの?」
 汗を拭きつつ、やって来たバルレルに応対する。
 ナップとウィルは座り込んでいたが、なんとか立ち上がる。
 別に座っていてもいいのだけれど。
 バルレルは二人を気にした風もなく、話しかけてきた。
「……あの光の影響はあるか?」
 帝国兵と戦った後、地震と共に現れてに纏わりついた赤い光の事を言っているのだろう。
 は手足をぷらぷらさせ、
「平気みたい」
 笑って答えた。
 しかし、バルレルの表情はいつにも増して険しい。
 不安になり、首を傾げた。
「どうしたの? なんか……ある?」
「別に。なんでもねぇよ」
 なにをしに来たのか、バルレルはそれだけ言うとさっさと船の中へと戻ってしまった。
 本当になにをしに来たのだ。
 疑問符を頭の上に飛ばしているに、ナップが話しかけてきた。
「なあ、バルレルとアンタって、どういう関係なんだ?」
「はい?」
「に、兄さん……」
 ウィルが半分呆れた声を出す。
 しかし、その呆れ声の元になった言葉を差し止める気はない様子。
 止めていながら興味深々な目をしているのは、どうなのだろう。
「……どういう関係って、そのまんま」
 なんと言えばいいのか分からず、思ったことを口にする。
 不満顔になるナップ。
「そうじゃなくて。恋人とかさあ」
「こ、恋人っ!?」
 ぼ、と音がしそうなほど赤くなる。
 恋愛ごとにはどうにも抵抗力がない。
 旅をする前は、もう少しあったような気がするのだけれど。
「うー……そゆんじゃないよ、きっと。アイツ護衛獣だし」
 確かに護ってくれるし……いや、でも。
 自分で考えているうちに、ドツボにはまっていきそうな気がして、考えるのを無理矢理中断。
 こういう時は転嫁してしまうに限る。
「そういうナップはどうなのよ」
「え、オレ!?」
 話を振られると思っていなかったのか、彼は慌てて両手をぶんぶん振った。
「オレはっ……別に、その」
 その横で、静かにウィルが告げた。
 心持ち、楽しそうな口調だった事は否めない。
「兄さんは、さんが好きなんだよね」
「ウィルッ!!!」
 真っ赤になりながら声を荒げ、はっとしての顔を見る。
 きょとんとしているに背を向け、彼は
「お、オレは別にっ、アンタの事嫌いじゃないけど、尊敬の対象であって……そのっ」
 歯切れの悪い言葉を飛ばした。
 はナップとウィルを背中からぎゅーっと抱きしめる。
 温かい体温。
 二人は慌ててジタジタするけれど、はそれでも離さない。
「私、二人ともダイスキだよ」
 真っ直ぐな言葉。
 二人は暴れる事を忘れて、その優しい声色に体を預けた。
 いつか、護られるのではなく、護る存在になりたいと思いながら。

 汗を流し甲板に出ると、冷えた風がの湯上りの体から体温を急激に奪っていく。
 ローブは部屋に置いてきてしまっていたが、防寒用の巻き布だけは持ってきていたから、それを体に巻く……というか肩からかけて寒さをしのぐ。
 元々風呂上りでもなければ、そんなに寒さを感じる事もないので、風邪を引くような事はないと思うが。
「はぁ……」
 ここからでは先端の方しか見えない、遺跡を見てため息をこぼす。
 あれは一体なんなのだろう。
 ハイネルの説明や、島のみんなの説明でそれなりに分かってはいるが、危険性は相変わらず大きい。
 しかも――あの紅色の光。
 危険だと、なにかがおかしいとの本能が告げていた。
 帝国兵との戦いの間でさえ、頭の奥底で奇妙な感覚は存在を誇示し続けていたし。
「どうなるやら」
ぽつりと呟く。
 それにタイミングを合わせたみたいに、後ろから声をかけられた。
さん?」

 振り向くと――

「ヤードさん」

 スカーレルいわく、元、無色の派閥の人間がそこにいた。




バルレル相変らず報われないなァと思う今日この頃。
……3では色々期待しないで下さい…(滝汗)

2003・5・21

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