遺跡 1




「遺跡調査?」
「うん、これから行こうと思ってるんだけど」
 ソノラが、行ける? と聞いてきた。
 その話が持ち上がったのは、一重にレックスがある場面を目撃してしまったから――らしい。
 詳しい事はよく分からなかったが、遺跡なる場所に興味もあったは、二つ返事で一緒に行く事に同意した。
 バルレルは微妙に渋い顔だったけれど、が行くとなるとくっついてくるのが常。
 カイル一家と、バルレル、そして生徒と先生で島の中央にあるという遺跡を訪れる事に。

 歩きながら、ふと思いついたみたいにスカーレルが言った。
「そういえば、片割れの剣はどこ行ったのかしらね」
 が思い出す。
 確か、レックスの持っているのは碧の賢帝シャルトス。
 もう一つの剣は、紅の暴君キルスレス。
 名前だけ聞くと、キルスレスは穏やかな剣にはとても思えない。
 カイルがため息をついた。
「ま、見つかってないモンに頭悩ませて立ってしょうがねえだろ」
 そうだよね、とソノラが同意する。
「とりあえずは遺跡の事が優先だもんね!」

 喚起の門。
 初めてそれを見たは、なんとも微妙な顔になった。
「どうした?」
 バルレルが不思議そうに声をかける。
「あー……別になんでもない」
 ぱたぱたと手を振り先へ行くよう促すと、彼は怪訝な表情をしながらも、先へ行くカイル一行たちの中へと混じっていった。
 は一人、門を見上げる。
 巨大なそれは、そこにあるだけで威圧感がある。
 ついでに言うなら不快感も。いや、不安感かもしれない。
 これらの遺跡を見ていると、アレを思い出す。
 機械魔メルギトスを。

(引き返すんだ……)

「はい?」

 突然、頭の中に声が響いた。
 思わず周りをキョロキョロと見回すが、誰もいない。
 それに……これは、どこかで聞いた声で。
 確か――そう、確か、レックスと初めて会った時に聞いた声。
 先に歩いていったレックスを見ると、彼も周りを見回している。
 どうやら彼の頭の中に聞こえているものが、の方にもなぜか聞こえてしまっているらしい。
 は神経を集中し、声の出所を探す。
 遺跡の中――?
 違う。
 では、レックスの剣か。
 抜剣していないから掴みにくいが、これも違う。
 気配だけがあり、その気配だって全体が霧がかっていて出所を探らせてくれない。
 でも嫌な気配ではない。温かくて――優しい。
 声がまた頭の中で響いた。

(引き返すんだ……今の君では……まだ)

 まだ、なに?

 答えが返ってこないのを承知で、は見えない誰かに向かって思いを飛ばした。
 ――やはり、返答はない。
 は諦め、喚起の門の下からレックスたちに合流するために足を早めた。

 島の中央部だけあって、よほど苛烈な戦いがあったらしい。
 人骨があちこちに――無縁仏よろしく転がっている。
 無残で悲惨だというのは簡単だけれど、その人たちをまた呼び起こす行動を取っている自分たちに、それを口にする資格はないような気がする。
 レックスがうんともすんとも言わない遺跡の扉を開くのに、シャルトスを用いた事によって人骨――亡骸は戦う為に起き上がった。
「こうなるって分かってたんだけど……」
 すまなそうなレックスの言葉に、誰も非難を投げかけたりはしなかった。
 代わりに苦笑いと――武器を手にする音がした。

「ナップ、ウィル! 危ないよ!」
「え、うわっ」
 ナップを狙っていた亡霊の剣が振り下ろされる前に、はなんとか間に入って斬撃を流す。
 返す刃で切りつければ、殆ど空気のようなその体が守っていた骨が砕ける音がし、亡霊の姿は歪んで掻き消えた。
 そのまま瞬発力を駆使し、背中でウィルを押しのける。
「な、なにを!」
 ウィルが抗議の言葉を上げた瞬間、の目の前を敵の召喚術がかすめていった。
 彼女の背中で押されていいなかったら、直撃だったろう。
 次の敵の攻撃に構えようと前を見る――と、ウィルを狙っていた亡霊のいた場所には既に敵の姿はなく、砕けた骨と、槍が硬い地面に突き刺さっていた。
 は槍に近寄りそれを引き抜き、持ち主であるバルレルに向かって軽く投げた。
 難なくそれを手に取り、残る敵を打ち倒すために背中を向ける彼に、彼女は
「さんきゅーねー」
 軽く挨拶した。
 ナップとウィルの二人は互いに顔を見合わせる。
 声に出さずとも、言いたい事は分かっていた。

『息、合いすぎ』

 止まっている二人にはピ、と人差し指を立て
「亡霊だから気配読みにくいけど、ちゃんと回り見てれば対応できるからね」
 こんな場合でも訓練時のような事を言う。
 頷き、気合を入れなおして剣をにぎる二人だった。


「ようし、終わったか?」
 カイルが多少息を上げながら周りを見る。
 誰もひどい怪我をしている者はいない。
 これならば、問題なく中へ入れるだろう。
 護人不許可で遺跡に入るのに、あまり大っぴらにドンパチやらかすわけにはいかないのだが、戦って召喚術まで使ってしまった今となっては、事は早く済ませた方がいい。
 アティが頷いた。
「行きましょう」
 レックスも同意する。
 核識の間への入り口は、直ぐ目の前。





ゲーム大筋に戻ってきました。……す、進みが遅いような速いような。

2004・3・21

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