お休みの日 2





「ごめん…何かいつの間にか凄い大所帯になっちゃって…」
 レックスの苦笑いに、
「気にしないし、大勢の方が楽しいじゃない?」
 全く気にしないという旨の言葉を告げた。

 どこからどうやって話が伝わったのか、海賊船の周りには、護人やら村の子供達やら、とにかく付き合いのある大勢の者たちが集まっていた。
 先生のお休みの日、という名目上、レックスとアティに気を使わせたりするのは問題外なのだが、護人たちがそれぞれのお気に入りスポット――言うなれば穴場――に連れて行ってくれるというので、遊び兼休みとしては丁度いいかもしれない。
 ただ、人数がそれなりにいるので、レックス組とアティ組に分かれての行動となった。

「それじゃ、また後でね」
 アティがそう言いながら、レックス組に手を振る。
 キュウマとファルゼンに率いられ、彼女らは山の方へ向かって行った。
 ちなみに、バルレルはアティ側に参加している。
 本人曰く、『ちょっと気になる事がある』そうで。
 彼の行動を制限する気は更々ないので、頷いた。

「じゃあ、俺たちも行こうか」
「ん」
 レックスに手を差し出され、それを何の抵抗もなく握りしめると、先を歩くナップやヤッファの後を付いて行った。
 手を握ってるのを見られたりしたら、バルレルが何と言うか分かったものではないが、当人がここにいないので問題は…今の所ない、と思う。

 ヤッファを先頭に、皆それぞれ談笑しながら歩いて行く。
 ナップはソノラやカイルと一緒になって、足早に先を歩いていた。
 最後尾が、レックスとなのだ。
 は何の気なしに、手を繋いだままで周りに目線を泳がせていた。
、どうかしたのか?」
「あ、え? ううん、別に何でもないんだ。この辺来るの初めてだから」
 海沿いには、あまり足を運んでいなかったのは本当だ。
 だが、実際は別に理由があった。
 ……見られている――?
 否、探られているのだ。
 この島に来てから、奇妙な気配が、予感が纏わりついて離れない。
 単なる杞憂かもしれないけれど。
 口にしてしまえば、レックスが気にするのは目に見えていた。
 折角の休みだというのに、自分の不確定な感覚だけで彼を煩わせるのは嫌だった。
 だから、何も言わなかった。
 気にしている事があるなどとおくびにも出さないに、レックスは何も気づかず、明るく話しかける。
「そうだよな。俺もこの辺は来た事ないよ」
「これから行くトコって、どんなトコなの?」
「俺もよくは知らないんだけど、ヤッファが言うには『期待してていい』場所だってさ」
 ……どんな場所だかは分からないが、相当の場所なのだろう。
 あの面倒くさがりの彼が言うからには、かなり快適でいい場所と見た。
 多分、キュウマとファルゼンの方も、穴場に連れて行ってもらっているはずだ。
 そう足場がいいとは言えない道を、軽快に歩いて行く。
 視線を先に向けると、何か違和感のあるものが目に映った。
「? レックス…あそこ、凄い雲」
「え、うわ…本当だ。雨になられると困るな」
 折角みんなで遊びに来ているのに。
 雨を凌げる物を持ってもいないし、盛大に降られたりしたら大変だと思いながら、
 歩みを止めていると――少し先に行っていたアルディラが、幾分か声に笑いを含ませながら、
「あれ、雲じゃないわよ」
 と告げた。
「じゃあ、何なの?」
「行けば直ぐに分かるわよ。もう直ぐだから」
 明言を避け、笑顔を残してさくさくと進んでしまった。
 残された二人は顔を見合わせ、追いかけるように少しだけ早足で歩みを進めた。

「うっわぁ、凄い!! 温泉だよ温泉!!」
 は一人きゃいきゃいと騒いでいた。
 一瞬、目の前の物が何なのか分からなかった者たちも、
 それが何たるかを見極めると、めいめいの反応を見せている。
 特に子供達は大喜びだ。
 カイルが思いついたように言う。
「こいつはもしかして、海底温泉か?」
 アルディラがクスリと笑った。
「ええ。『イスアドラの温泉』って言うの」
 彼女の説明によると、この辺の地熱は場所ごとにまちまちで、冷たい海と暑い海が隣り合っているらしく、結果として、こういった丁度よい温度の温泉が出来上がるとの事だった。
 大自然の驚異。
 やトウヤの祖国である日本にも、勿論そういった温泉はあったが、彼女はそういう物にお目にかかった事がない。
 山にある天然温泉などはあるが。
 それにしてもリィンバウムに温泉……トウヤに是非教えたい。
 感動している横で、ソノラがうんうんと納得している。
「あっちの煮立ってるのが暑いので、こっちの青い色が濃いのが冷たい海なんだね」
 ヤッファがニヤリと笑いながら、ある一定方向を示す。
「それだけじゃねえぞ。向こうの岩場を見てみろ」
「うわー! すっげえ!!」
「花畑だぁ!」
 ナップとパナシェが感動の叫びを上げる。
 ヤッファが示したその岩場には、色とりどりの花が咲き乱れていた。
 イスアドラ温泉と岩場を挟んで直ぐの所に、それは一面に咲いている。
 アルディラの後ろに立っていたクノンが説明する。
「亀裂から染み出した温泉が、あちこちにプールを作り上げているのです。ここは、多くの動植物にとって理想的な環境なのです」
 付け加えるように、
「行楽地としても、最高だぜ」
 ヤッファが言った。
「それじゃあ、こっからは自由行動にしようぜ!」
 カイルの発言に、一同元気よく賛同の意を唱えた。

、どっちへ行こうか」
 レックスに問われ、うーんと唸る。どちらを先に行こうか。
 暫く考えた末、
「温泉でしょ、日本人だし!」
 よく分からない決定を下した。

 ローブとブーツを脱ぎ捨て、水しぶきを上げながら温泉に入っていく。
 当然の事かもしれないが、深い所と浅い所があって、深い所は座れば肩下ぐらいに来るまでの水位だと思われた。
 水着もないのに完璧に浸かってしまうのは問題があるので、残念に思いながらも浅い所で我慢する。
 適当な岩に腰掛け、足で水の感触を楽しむ。
 レックスが隣に腰掛けようとして――
「先生ー!!」
 花畑の方から、スバルに呼ばれた。
「呼んでるよ?」
「うん、そうみたいだな。…ごめん、ちょっと行ってくる」
「へーきへーき。レックス、私を誘ったからって私とばっかりいなくたっていいんだからね」
「あ…ああ、そうだね。でも……」
 いつもの彼らしくない表情で視線を泳がせると、無理矢理といった風に笑い、
「とにかく、行ってくる」
 靴を履き、慌しく花畑の方へと走って行く。
 その彼の後ろ姿を見ながら、
(何か一瞬、言い淀まなかった?)
 少々疑問を頭に思い浮かべる
 気を使わせないように言ったのだが……はて。
 それについて思考をまとめようとしている時に、隣に座る者がいた。
 顔をそちらに向けると――
「一緒にいてもいいだろ?」
 ナップが、素足をばたつかせていた。
「勿論」と快諾すると、彼は元気な笑顔を見せた。




要するに9話の本筋に絡んでる話パート2。
…ストックがなくなってまいりました…続きを早く書かねば。

2004・1・23

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