ナップとウィル 3






 さわさわと優しい風が流れる。
 その中で、とウィルは対峙していた。
「さて、ウィルの番だね」
 肩を回しながら、ニッコリ微笑む
 ウィルは剣を取り出して構え、真剣な眼差しで対する彼女を見た。
「お願いします」

「行け!! タマヒポ!!」
 スパイスブレスの攻撃を、さっきナップと戦った時のように魔力障壁で防御する。
 ウィルはその一瞬の隙間を縫って剣を振るった。
 が、完全に隙をついたはずのその攻撃は簡単に鞘で弾かれてしまう。
 がつん、という音と共に、ウィルの剣との鞘がぶつかり合う。
「くうぅ…」
「召喚、タケシー!!」
 剣と鞘を組み合わせたままの状態で、は召喚術を発動する。
 ウィルの時もそうだったが、召喚スピードが並ではない。
「うわぁ!!」
 どどん!
 衝撃と共にウィルは後ろから殴られたような衝撃を受け、前につんのめった。
 反射的に後ろを振り向くと、少し後ろの地面がコゲている。
 タケシーの雷が落ちたのだ。
 よほどの魔力がなければ、直接当たってもいないのに殴られたみたいにはならない――。
「余所見は厳禁!!」
「うわあああ!!」
 横薙ぎで攻撃され、ウィルは防御する暇もなく吹っ飛んだ。
 背中を強かに地面に打ちつけ呻くが、慌てて起き上がる。
「くっ…!!」
 鈍器で殴られたような痛みに一瞬だけ目をつむってしまい、次に目を開けた時には、既にの姿は目の前から消えていた。
「!!?」
「後ろだよ」
 真後ろから声がして――振り向きざまに剣を振る。
 しかし、彼女の鞘に止められ弾かれた。
 ウィルの剣が、空中を舞い――地面に突き刺さった。
「し…シャインセイバー!!」
 光が頭上に集まると、様々な大きさの剣――物理的なものではなく魔力の剣――が、に焦点を合わせた。
「うん、上手い」
 言いながら素早く距離を取る。
 その間にウィルは転がるようにして剣を抜いた。
「行け!!」
 ウィルの号令と共にシャインセイバーが降りかかる。
 彼女はそれを、ある物は避け、ある物は鞘でかき消し、ある物は魔力で防ぐ。
 それを見ながら、どう動けばいいか考えていたウィルは、彼女の鞘が飛んできた事に瞬間的に反応できなかった。
 腕に当たり、痛みを感じている間に彼女の足が自分の足を掬い取った。
「うあ!」
 横に倒れ、慌てて手で地を着くものの、またしても剣を手放してしまった。
 転がる武器を手に取ろうとし――

「10分だぞ」
 バルレルの制止する声が届いた。
「はぁ…っ…はぁ……!!」
「ウィル、大丈夫? 落ち着くまで待つからね」
 は起き上がって腰を下ろしているウィルの隣で待つ。
 ……体力はナップの方に分があるけど、魔力面ではウィルが勝ってるなぁ。
 暫くすると息が整ったのか、いつもの口調で話しはじめた。
「…とんでもない人ですね、貴方は…」
「そう? まあそれは後で。…うーんとね」
「僕の今日の欠点、遠慮しないで全部言ってください」
 すぱっと言われ、苦笑いする。向上心が強いのはいい事だ。
「そうだね…まずは、ナップにも言ったけど剣にちょっと振り回されちゃってるかな。
ウィルは横斬りなんだね」
「はい。アティ先生が言うには、トライドラの流れを汲んでるんだそうです」
 トライドラ――……そうか、この時代ではまだ被害も何もないのだ。
 懐かしいような気持ちになるが、今はそんな場合ではない。
「横切りはね、ちょっと大振りになる傾向があるから気をつけて。…んと、さっき私が召喚術使った後、余所見しちゃったでしょ」
「…はい」
「アレは実戦だと致命傷だからね。先生から教えてもらってるかは分からないけど、魔力を一点集中して打ち込むと、それなりに周りに影響があるの。タケシーの場合は、電撃の余波というか…まあ、その人の魔力の大きさにも関わってるけど」
 召喚術を集中して勉強していたり生業としている者と対峙する場合は、術そのものにも注意しなくてはならないのは勿論だが、その余波――つまり、衝撃波のような物がある場合もあるので、充分に構えていなくてはならない。
 高いクラスの召喚術であればあるほど、その度合いも大きい。
 召喚術自体を相殺しても、直ぐに防衛を解いてしまうのは問題があるのだ。
 ……自身、ソルに散々攻撃を食らったのでタイミングを覚えただけの話だが。
 知識として頭に入れておけば、それなりに対処できる。
「シャインセイバーを出したのは、すごく良い感じだったよ」
「そうですか…」
「でもその後かなー、ちょっと考えて止まっちゃったでしょ? ウィルはナップとは逆で、考えすぎのトコがあるみたいだから、直感的に動くっていうのを覚えた方がいかもね」
 ウィルは召喚術、ナップは剣術。
 二人をペアにして互いをフォローするようにしたら、凄く強力な二人組みになると思われる。
 でもまずは、彼ら自身の弱点になりうる箇所を修正するのが先決。
 帝国軍が、どういう戦い方をするのかはには今のところ分からなかったけれど、戦場は生ぬるいものではないのだから。

 今日は、これで終了。
 は微笑むと、バルレルに渡していた短剣を受け取って鞘に戻し、いつものように腰に下げた。
 軽く汗を拭き、レックスとアティの側による。
「二人とも凄くいい筋してるねー、レックスとアティの授業がしっかりしてるんだろうね」
「そうでもないよ…あのコたちが頑張ってるんだ」
 照れたように言うレックス。
 アティもそれに同意した。
「そうですよ。でもさん凄いですね!」
「そうかな。でもレックスやアティと戦ったら負ける自信あるけど」
 そんなものの自信があってどうする…。
 カイルが苦笑いした。
「なあ、今度オレの相手もしてくれよ」
「えー、カイルー? 嫌」
「何でだよ」
 ぶすむくれるカイルに、は軽く言ってのけた。
「だって、ボコボコにされそうなんだもん」
 力任せに殴られたら、何処までも吹っ飛んで行きそうだし、内臓破裂なんかしたら洒落にもならない。
 誤魔化すように笑う
 それを見て、苦笑いする先生二人だった。

 そんな話をしているを見ながら、生徒二人はというと。
「なあ、ウィル」
「? 兄さん??」
「俺たち、絶対に強くなろうな」
「…そうですね」

 密かにそんな決意をしていたという。



終了〜;;
という事で、ナップとウィルの戦闘訓練話でした。仲良くするのも大変です。

2004・1・6

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