ナップとウィル 2





 太陽の光が柔らかく島を照らす。
 青空学校の直ぐ近くにある広場に、ナップとウィル、にバルレル、カイル、スカーレル、先生二人にフレイズがいた。
 フレイズとバルレルは昨日のの怒りを考慮してか、特に目線を合わせる事もせず、とりあえずケンカはしていない。

 広場の中央にいる、ナップ、ウィルの後ろから見守るように外野はいた。
「なあ、先生よ…これってどういう…」
 カイルの質問に、腕を組んで三人の姿を見ながら苦笑いする。
「うん、昨日の夜にナップが来てね。『に戦い方を教えてもらいたいんだ』 って」
「私のところにも同じように言って来たんですよ」
 本来の先生であるその二人に許可を貰う事で、は 『戦う』 という行為を許したのだ。
「戦い方って…先生たちに教えてもらえばいいんじゃ…」
「それがですね、だったら容赦しないで戦ってくれそう、っていうので…どうしてもと」
 私たちにこれ以上負担をかけるのも嫌なんだそうです。
 頼ってくれて良いのに、と苦笑いするアティ。
 が、確かにと戦う事で、見えてくるものもあるかもしれない。
「なるほどね。本気で戦う事で、自分たちの弱点や不得意なものが分かるっていう事かしら」
 彼ら、よく考えてるじゃない…と、スカーレルは至極納得した。
 ……昨日のとバルレルの状態を見て、そう決めたのだろう。
 まあ、先生たちでは本気で攻撃できないのは見えてるものねぇ。
 ナップとウィルの考えは、正しいと思われた。
 ならば、容赦なくやる所はやるだろうし、それによって彼らが得るものも多いはずだ。
 …まあ、怪我と引き換えになるかもしれないが。

 は腰に差した剣を取り出そうとして、考えたように手を止め、ベルトから鞘ごと外した。
 不思議そうに見ている生徒二人をよそ目に、は剣を引き抜き、剣の方をバルレルに投げて渡した。
「持ってて。私はこっちで」
 言い、鞘を軽く持ち上げた。
「…?」
 ナップが彼女の行動を不思議そうに見る。
 生徒二人以外は彼女の行動を理解していたが、生徒には説明が必要だろう。
「なあ、どうして剣を使わないんだ?」
「まず一つ。私の剣は短剣で普通のものより短い。貴方達が相手にするのは殆どが普通の剣を持ってる人たちだよね」
 は振り返り、カイルを見る。
「ああ、帝国兵はほとんどが剣か大剣だぜ」
 頷いて、視線を元に戻す。
「対、短剣では余り意味がないだろうという判断。鞘の方がちょっと長いしね。二つ目。私は、あなたたちがどれ位動けるのか知らない。だからまずは真剣を使わない事にする。慣れたら、剣を使う」
「僕たちもですか?」
「君らはいつも使ってる武器で大丈夫だよ。重さが違うと、やりにくいでしょ」
 うん、と頷く。
「えっと…どうしようかな。レックス、アティ、この子達どれ位大丈夫かな」
 大丈夫という意味がよく分からない先生二人だったが、少し考え、答えを返す。
「実戦も経験してますし、大抵の事は大丈夫だと思います」
 アティに続いて、
「召喚術も使えるし、大人並みに戦えるよ」
 レックスも答えた。
 なるほどと頷き、は腰に手をやった。
「ん。じゃあねえ…とりあえず二人の希望を聞くよ。剣術だけで戦うのがいい? 召喚術だけ? それとも、実戦と同じでいいのかな」
 二人はの言葉を受け、顔を見合わせると――
「「実戦と同じで」」
 見事にハモって答えた。

「じゃあ、そうだね…いっぺんにかかってくる?」
「……あんまり僕らを見くびらない方がいいですよ」
「んー。じゃあ、ナップからにしよっか」
 鞘をナップに向ける。ナップも自分の剣を引き出し、構えた。
「勝負は10分。全力でね。召喚術、体術、剣術なんでもあり。ただし、私も同じように攻撃する。手加減はしない」
 そこで、ナップが慌てたように声を上げた。
「たった10分なのかよ」
 そうだよー、と笑いながら言う。
「ただし、その10分で倒れる位全力を尽くす事。まあ、そう仕向けるけど」
 遠くにいるレックスとアティは、なるほど…と感嘆の言葉を吐いた。
 フレイズが不思議そうに問う。
「先生方…たった10分では、意味がないのでは?」
「そんな事ないですよ」
 まあ、確かに意味がないように思えるかもしれませんけどと、アティは苦笑交じりに言った。

 10分という時間の制約の中で、己の全力を使う―――一見意味がないように思えるが、それは違う。
 持てる力を全て、その時間の中で使うという事は、激しく集中力が必要な上に、スタミナが必要。
 そして、配分を考えなくては最後まで持たない。
 …多分、最初は10分持たないだろう。
 そしてこの訓練のメリットは、自分の戦うペースを身に付けられると同時に、持っている力を上昇させる事ができるという点。
 相手に遠慮がないという事は、即ち、必死にならなければやられてしまう――実戦と変わらないという事だ。
 は、ナップとウィルの知識面以外の能力を引き上げようと考えているのだ。
 この方法は、今現在の限界値を超えることができる。
 彼女自身が 『教える』 という行為が苦手なのを逆手に取った訓練。
 これが上手く先生の教える ”授業” のフォローになっていた。

「それじゃ――バルレル、時間よろしく」
「オウ」
 カウント。
 3・2・1……。

「はじめろ!」


「ほらほら! 足が止まっちゃってるよ!!」
「くぅ!」
 ナップは、彼女が召喚術以外もこんなにできるなんて思っていなかった。
 剣で攻撃しても鞘で受け流されてしまう。
 召喚術は当たっても殆どダメージを受けない。
 次第に、頭で考える事を放棄し始めてしまった。
 すると――彼女の素早い動きを追うだけになる。
 それでは、決して彼女より先に動く事はできない。
 結果、後手後手に回るだけだ。
「くっそぉ!! 出て来い、ドリトル!!」
「やっ!!」

「きゃぁ、凄いわねぇ」
 楽しいんだか驚いたんだか分からない声を上げたのはスカーレルだ。
 ナップが召喚したベズソウの攻撃を、は簡単に防いでしまったのだ。
 目に見えるほどの分厚い壁のような魔力障壁で。
 次に戦うウィルなどは、食い入るようにしてそれを見ている。
 レックスがバルレルに近寄り、呟いた。
「…凄いな、彼女…」
「ケッ、当たり前だろォが。アイツは知識後付け、実戦が先、だからな」
「……それだけ、苦労してきたって事か。…彼女を守ろうとする人――例えば君とかに頼ろうとしなかったのかい?」
 何をアホな事を言ってるとばかりに、目を細めてレックスを見、それから直ぐに視線を戦う二人に戻した。
「……アイツは例え誰かが守ってやると言ったって、ただ守られてるのは冗談じゃないってオンナだぞ。頼る所とそうでない所をよく知ってンだよ」
「強いな、は…」
「泣くのを我慢する位にはな」
 呟くような言葉に、レックスはバルレルの横顔を見て――小さくため息をついた。
 彼らの間にある繋がりは、とてつもなく強固だ。
 ――羨ましく思えた。
 彼女は強くしなやかで…一生懸命で。
 自分もそうなれたら、と。


「終わりだぜ」
 バルレルの終了を告げる声に、が鞘を下ろす。
 ナップの方はそれと同時に地面に座り込んでしまった。
「大丈夫?」
「こ、これぐらい…なんでも…っ…ぜぇ…ぜぇ…」
 完全に息が上がっているナップの前にしゃがみ込み、笑う。
「そうそう、その意気。強くなるよ、君。負けず嫌いっていうのは、大事な事だと思うから」
「ぜぇ…ぜぇ…くそぉ……」
 余りに平然と話しているが憎らしく思える。
 それほど、ナップは全力で戦っていたのだ。
 なのに彼女は殆ど息を乱していない。
 ……帝国兵より強いのではないか?
 彼女はナップの息がそれなりに整うのを待つと、今の戦いで気がついた事を告げた。
「ナップ、途中から考えるのを止めちゃったでしょ」
「…うん。だってアンタ、凄く動きが早くて…」
 追うので精一杯だったんだよ、とむくれる。
 は首を横に振った。
「思考停止はダメ。常に相手の動きを観察する事。常に俊敏に対応できるように心がける」
「うん…」
「それから、剣に振り回され過ぎ。疲れてくると剣を持つのも、キツくなって来るのは分かるけど、柄はしっかり握る。飛ばされたら、切り殺されても文句言えない」
「わかった」
「最後にもう一つ。召喚術なんだけどね…とにかく集中しなきゃ。意識散漫で、魔力が飛び散っちゃって弱くなっちゃってた」
 つらつらと言われ、はあ、とため息をつく。
 これでは、どこもいい所がないみたいじゃないか。
「…んでも、センスあるよ。召喚術を出すタイミングは抜群だったし、剣の攻撃も重みがあるし。太刀筋は文句なし!」
「おっしゃ!! …にしても、本当に10分でつぶれるとは思ってなかったぜ」
「次は20分持つように頑張ろうね」
「げぇー」
「よーし、次、ウィル行こうかぁ」



 
次はそのまま今回のウィル版。
あぁ、先が書きたい書きたいっ……(悶々)

2003・12・30

back