敵対心 2







 ……今日は何でこんなに問題が起きるのだろうか。
 私、悪い事しました?

「……貴様は……」
 天使はバルレルの姿を見ると、剣を構えてとった。
 カイルが、おいおい、と焦ったように声をかける。
「フレイズ、どうしたんだよ」
 フレイズと呼ばれた天使は目線をバルレルから外さず、答える。
「強力な悪魔の力がこちらから流れ込んで来たので……。……貴方の護衛獣ですか?」
 を一瞥する。
 ソノラが少々戸惑いつつ、紹介した。
「フレイズ、彼女は。新しく来た人だよ。で、その護衛獣が――悪魔のバルレル。
 、こっちはファルゼンの副官で、フレイズ――」
「……貴方は何を考えているのですか!?」
 に叱責が飛ぶ。
 ソノラが声の大きさと怒りの形相にびくりと肩を震わせた。
 怒られたのは彼女ではないのだが。
「何をって……え、え??」
 訳が分からないという表情の
 実際、なんで怒られているのか分からないのだ。
 フレイズは敵意をむき出しにして、バルレルと対峙している。
「彼は悪魔……しかも狂嵐の魔公子ではないですか! 暴力のカタマリのような奴なんですよ!?」
「…なんか、凄い言われようだな」
 ナップが呟く。レックスもアティも同意するように頷いた。
 は苦笑いするしかない。
「いや…でも、バルレル私の事守ってくれるし…優しいし…」
「貴方は騙されているんです!!」
 ぴしゃりと言われる。
 ………いや、天使と悪魔は存在からして相反しているし、相性が悪い事は重々承知だったけれど……ここまでとは。
 出会い頭にいきなりともなると、困った事になる…というか、なってる。
「悪魔が優しいだなんてとんでもないですよ!! 貴方のような美しい方には不釣合いです、すぐに送還する事を勧めます」
「テメェ、さっきから何をごちゃごちゃ言ってやがるんだ!」
 槍を取り出し、フレイズに向ける。
 バルレルの方もフレイズが気に入らないらしい…いや、当たり前か。
「黙れ悪魔め。彼女のような美しい魂を持つ人の側に、キサマのような、醜悪な者がいる事などあってはならないのです」
「あ、あの、フレイズさん??」
 を無視して、フレイズは続ける。
「しかも彼女は貴方たち悪魔の敵である 『花嫁』 ではありませんか」
「!!!??」
 花嫁という言葉に、は目を見開く。
 どうして――どうして分かったの??
「なな、なんで…なんで知って…」
 疑問に答えるように、バルレルが吐き捨てるように言う。
「ケッ、知ってて当然だろうが。コイツは俺たちと同じ、サプレスの住人なんだぜ? 花嫁かどうかなんざ、気配や魔力で分かるんだよ。レイムがそうだったみてぇにな」
「…花嫁はそもそも悪魔とは敵対する者――天使と同義です。さん、貴方は私側の人間なのですよ」
「ちょ、ちょっと待って、フレイズ、なに言ってるのよ」
 状況から置いてきぼりを食らっている者たちを代表して、スカーレルが声をかける。
「花嫁とか何とかって、の事よね?」
「そうです」

 ………こ、こんな形で暴露されるとは思わなかった…。
 いやー、世の中何があるか分かんないね、あははーって…笑い事じゃないっつーの。
 秘密にしてた意味が全くなくなったよ……。

 フレイズは当然とばかりに、花嫁の説明を始めてしまう。
「花嫁…サプレスの花嫁は、この世界にある四世界の過剰な力を浄化し、送り返す役目を持っている女性の事です。その特異な力を狙って、悪魔がちょっかいをかける事から、サプレスの花嫁という名がついています。…もうずっと前に、存在は確認されなくなっていたと思うのですが…」
 こうして、ここにいらっしゃる。
 彼はひどく嬉しそうな顔をしていた。
 ……まあ、本来は対悪魔要因が強い存在なだけに、天使からしてみたら嬉しいのかもしれないけれど。
「だからこそ、どうして貴方がこんな愚劣な悪魔を側においているのか、理解に苦しみます」
 ぐ、愚劣…。
 そこまで言いますか、フレイズさん。
 ヤードが困ったように二人を見た。
「…さん、フレイズさんの言ってる事は本当なのですか?」
「あ…えっと…」
 ここまで来て、嘘をついても全く無意味な気がする。
 深いため息を一つ吐くと、小さく頷いた。
「本当だよ。でも言っても皆知らなかったでしょ? 私だって、知ったのは最近なんだから…」
「そんな人が存在するなんて…先生、知ってましたか?」
 ウィルが問うと、両先生は首を横に振った。
 当然だ。
 古い文献にすら、載っているかどうか分からないような存在なのだから。
 発祥の国はこの時代でも既になく、そもそもその存在すら、極秘扱いになっていたような人物。
 知るはずがない。
 フレイズと対峙しているバルレルが、怒りの表情を向けた。
「…テメェ、なに勝手に人の秘密をベラベラ喋ってやがるんだよ。は余計な迷惑をかけたくないから、黙ってたんだぞ!」
「迷惑? お前の存在のほうが迷惑でしょう!」
「ふざけんな! もしこいつの ”力” を認識して悪用しようなんて輩がいたら、どうにかしてくれんのかよ、テメェが!!」
「お前がその悪用しようとする輩ではないのか。彼女の力は神聖だ。お前のような悪魔が近寄っていい存在ではない!」
「っざけんなよ…」
 血が出そうなほどに力を入れて拳を握るバルレル。
「バルレル…もう、もういいから!!」
 は余りに彼が怒っているので、心配になってきた。
 ここ最近で、一番の怒りっぷりだ。
 ウィルの事も手伝って、頭に完全に血が上ってしまっている。
「いいワケあるかよ、どこでどうやって話が伝わるか分かんねェんだぞ!? この馬鹿天使が、またどこで言い出すか分かりゃしねェだろうが」
「だ、大丈夫だよ…ねえ、ちょっと落ち着きなさいって…」
 フレイズは端正な顔に似合わない程の怒りを表情に出していた。
「悪魔め…、花嫁に取り入ってどうするつもりだ」
「ンだと…誰が取り入ってるっつーんだ」
「花嫁から離れろ!」

 光よ!

 彼がそう高らかに叫ぶと、清浄な光がバルレルを射抜いた。
 天使の光に、バルレルの顔が少々苦痛に歪む。
 狂嵐の魔公子の姿なら問題なかったかもしれないが、今は子供の姿。
 大人の姿であるのとは、やはりダメージの受け方が違うのだろう。
 バルレルは怒りを秘めて、咆哮する。
 彼から紫色の魔力が飛び、フレイズに向かった。
 フレイズはそれを背中の羽で受け流しす。
 悪魔対天使の戦いを目の前にしながら、カイルやレックス、アティたちはなす術がなかった。
 止めようにも、どうしていいの分からない。
 ……は段々、腹が立ってきた。
 バルレルが自分の事を心配して怒ってくれてるのは分かる。
 フレイズが彼を敵視するのも分かる。
 が、頭で分かってる事と気持ちは別物で。
 そんな気持ちに気づかず、フレイズとバルレルは言い合い(攻撃?)を続けていた。
「ちょっと、アンタたちいい加減に…」
「この天使!! いけすかねェんだよ!!」
「立ち去れ、悪魔!!」
「消滅してから後悔しやがれ、キザ天使が!!」


「……いい加減に…しろって…ってんのよおおっ!!!」

 こぁあああっ!!!

 光が、溢れる。
 の怒りは紫色の光を体からプラズマのようにほとばしらせ、フレイズとバルレルの間を割るようにして、彼らの横にある木にぶち当たり、ぱぁん! と砕け散った。
余りの事に、唖然とする一同。
「す、凄い……」
 ウィルが呟いた。
 は怒りの眼差しを二人に向け
「これ以上ケンカすんなら、四棲喚ぶわよ…アフェルド喚ぶからね!!」
 今度は本気で攻撃するからね!!
 目が真面目にギラついているのを覚ったバルレルとフレイズは、
 同時に武器を収めた。
 …ついでに、敵対心も。
「わ、分かったから、やめろって!!」
「……今度ケンカしたら、容赦なくぶっ放すからね」
「「はい……」」
 その様子を見ていた皆は、「凄いな」 と関心半分、呆れ半分だったという…。
 メイメイだけは、相変らず 「にゃはは」 を笑っていたが。

 船へ戻ったカイル一行は、とバルレルに許可を貰い、彼女が 『花嫁』 だという事を、護人や、自分たちに関わりのある者にだけ伝える事にした。
 こうする事で、万が一何かが起きた時、フォローできるかもしれないからだ。

 夜。
 は甲板へと出ていた。
 今日は色々ありすぎて、疲れているのに眠れなくて…頭を冷やすために。
 船の縁に体を預け、月を見ていると――背後に、気配がした。
「…ウィル、ナップ?」





やりたかったのですよ、悪魔VS天使…(笑)
ついでにフレイズに暴露ってもらいました。…嫌な奴に見えちゃうかなぁ〜;;

2003・12・19

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