敵対心 1





「……で、イスラとビジュに攻撃された、と」
「そうなんだよ」
 夕食が終わって、皆でお茶を飲んでいる時、今日あった事をレックスが話して聞かせた。
 カイルはともかく、ソノラは
「あいつはぁ! っ、気をつけなきゃダメだよ!?」
 とかなり息巻いている。
「心配してくれてありがと…でも、平気だから」
 レックスとナップは、のお願い通り、彼女の ”力” の事は伏せていてくれた。
「それにしても、一人でよく持ったわね」
 スカーレルがしみじみと言う。
 イスラとビジュ二人のたった二人とはいえ、彼らの実力は並みいる兵士よりずば抜けて能力が高いのを知っている。
 それを一人で凌いだというのは――。

(…このコ、かなりの実力者だわね)
 口にはしないけれど、スカーレルには分かっていた。
 レックスもナップも彼女の力を見ていながら、何も口にしない。
 という事は、自身に口止めされている――と考えるのが妥当。
 ソノラはともかく、カイルやヤードは多分とっくに気づいているはず。
 それでも何も言わないという事は、彼女を信用しているか、素性を計っているのか……。

 イスラとビジュに襲われたというのがフェイクではないとしたら、あたしたちの敵じゃない訳だし…逆にそれがあたしたちを騙すためのフェイクだったなら、少々厄介な事になるわね。
 嘘をつくようなコには見えないんだけど…言えない事はあるみたいだし。
 ……まあ、人の事言えない身分だけどね。
 と、スカーレルは苦笑混じりに思った。

「…ところで、さっきからウィルとナップが機嫌悪そうなのは、何で?」
 ソノラが空になった食器をすっかり片付けてしまってから、不思議そうな表情で、憮然としている二人を見て告げる。
 アティはウィルの顔を見てから、苦笑いを零す。
「…うーん、なんででしょう」
 には分かっていた。
 分かるからこそ、頭痛を引き起こしそうになる。
 ナップの方は、口止めされている事をどうするか考えているのだろう。
 言われてしまったならばそれはそれで対処のしようもあるし、いつかはバレるものだったと諦めも付く。
 だが、ウィルは違った。
 ――要するに、ウィルは根本からを信用していない。
 まだナップの方が信用してくれている位。
 そして、頭の回転が速いが故に、レックスとナップが何かを秘密にしていて、それがに起因する物だと分かっている。
 怪しむには充分だ。
 ウィルの護衛召喚獣であるテコが、不機嫌そうな彼を見て、可愛らしく 「ミュ?」 と首をかしげている。
 ナップの護衛召喚獣であるアールも同様だ。
「おい
 バルレルが側に寄って来て、小さく呟く。
「……テメェ、魔力放射しやがったな?」
「しょうがなかったんだよ。あんなにポンッと出ると思ってなかったし」
「あのなぁ……もう少し緊張感持てっての」
 分かってるってと軽く言うに、更に文句を言おうとしたバルレルの視界に、一人の人物が映った。
 チャイナドレス。お団子にしてある髪。
 そして、いつでも酔っ払ってるような態度。
 バルレルの視線に気づき、がふとその方向を見て――
「め、メイメイさん!!?」
 叫んだ。
 アティが不思議そうに、やって来た彼女に声を掛ける。
「メイメイさん、どうしたんですか?」
 まさか、お酒をせびりに来たわけではあるまい…。
「やほー。メイメイさんでぇす!」
 ……場違いなまでに明るい。
 彼女は一直線にとバルレルの方に歩いてくると、目の前まで来て、ニッと笑った。
「ははぁ、キミタチが新しく来た人ねぇ。んもォ、このメイメイさんのトコに来てくれないなんて酷いじゃない。噂聞いて自分から来ちゃったわよー」
「……メイメイさんが、何でここに…」
 唖然とする
 メイメイは不思議そうに彼女の顔を見た。
「んにゃぁ? 何で私のこと知ってるの?」
 ――しまった。
 今の彼女が、自分たちを知っている訳はないのだ。
 本来であれば、存在がないのだから。
 出会うのはもっと未来での話で…………って、アレ?
 若いままじゃない……??
 年取ってない…ような。
 いつも乙女の秘密〜とかで誤魔化されてしまうが、これは…。
「…あらぁ?」
 何かに気づいたような顔をされ、思考を止める。
 ……メイメイさんは、何を言い出すか分からないのが怖い。
 普通じゃない占い師だし、未来から来た事を覚られてもおかしくない。
 びくびくしているを知ってか知らずか、メイメイはの顔を覗きこむと――
「うーん、凄く面白い魔力を持ってるわねぇ」
 至極楽しそうに言った。
「は、初めまして…です」
「ん、メイメイよ…って、知ってたみたいだけど。にゃはは〜」
「メイメイさん、そんな簡単に納得していいんですか!?」
 ウィルが叫ぶ。
 あぁ…ややこしい事になりそうな気配…。
「にゃ?」
「僕は…僕は彼女が信用できません。素性が知れなさ過ぎる! メイメイさんの事を知ってるし、旅人にしては弱すぎるし…僕らに取り入ろうとする工作員かもしれないじゃないですか!」
 レックスが止めようとしたが、それをアティが静止する。
 言わせてやれ、と。
 も、ウィルの言葉を全面的に受け入れる準備はあった。
 ナップは彼女の力を知っているので、弱い――というのは間違いだと言ってやりたかった。
 が、彼もが本当の所はどうなのか知りたくて、何も言わない。
 薄い緊張感が回りに広がる中、メイメイだけは相変わらずの調子で飄々としている。
「ねえ、ウィル。大丈夫よぉ、こんな綺麗な力を持ってるんだもの。それに、弱いなんてとんでもないじゃなぁい?」
「どういう…事ですか?」
「そこの護衛獣クンを使役してるんだもん、相当の実力者よぉ?」
 ウィルはバルレルを一瞥すると、ため息をついた。
「…子供悪魔じゃないですか。僕にはとても彼が凄い召喚獣だとは思えませんけど」
「んだとテメェ!!」
 その言葉に激昂したのは、他でもないバルレルである。
 慌てたのはだ。
「ちょ、ちょっとバルレル!!」
「このガキ、黙ってればいい気になりやがって!!」
 槍こそ出さないものの、今にも殴りかかりそうな勢いのバルレルに、アティとレックス、ナップも焦った。
 カイル一家も、落ち着けとばかりに互いをフォローするものの…。
「君だって充分子供じゃないか」
「ウィル!」
「止めないで下さい先生」
 アティの咎めるような声も効力を成さず、ウィルはバルレルを睨みつけた。
 テコが彼の周りを、「止めろ」 とばかりにウロウロする。
 同じ召喚獣なだけに、テコは気づいているのかもしれない。
 アールは困ったようにナップの後ろに隠れている。
「あぁもう…バルレルとだけは仲良くしてやってって言ったのにぃ」
 心底困ったように、額に手をやる
 メイメイは楽しそうに笑っている。
「変に隠し事するより、いいんじゃなぁい?」
「……バラすために来たんですか?」
「にゃははは、肝心なトコは言わないから大丈夫よぉ。…信用されてないと、貴方この先大変でしょ?」
「更に信用されなくなるような…」
 頭を抱えたくなる。
 その瞬間――バルレルの魔力が変質した。
 目つきが厳しくなる。
 これは――!!
「バルレル!! やめなさいっての!!」
 本気で焦るに、レックスとカイルが顔を見合わせる。
 どうしたのか、と。
「そんな目で見たって、怖くもなんとも――」
「…調子こいてんじゃねぇ!」
「!?」

 ぶあっ

 強風がバルレルを中心に巻き起こったかと思うと、バルレルの姿が――大人のそれに成り代わった。
 目を見開いて驚く皆――そしてウィル。
 余りに強大な魔力を持つ彼に射すくめられ、身動きが取れなくなる。
 突然の変化に、痺れたような感覚に陥ってしまった。
 準備もなくいたウィルは、バルレルの魔力に当てられてしまったのだ。
「あ…あ…」
「このガキ…」
 近寄って来るバルレルに、恐怖を覚える。
 レックスとアティが生徒を庇おうとした時――怒号が響いた。
「バルレル!!!」
 は本気で怒っていた。
 今にも召喚術をぶっ放しそうな勢い。
 周りでそれを見守っている人間全てが、ごくん、と生唾を飲み込んだ。
「…やめろと言ってるの、お分かり?」
「あのガキが…」
「………」
 無言のにバルレルは舌打ちして、子供の姿に戻った。
 そのまま船に戻ろうとしたが、腕を引っ張られてウィルの前に立たされる。
「……言う事あるでしょ」
「ケッ……悪かったよ」
 よし、と納得する。
 バルレルは酷く機嫌が悪そうに、そっぽを向く。
 次いでは、ウィルをじっと見、ぺちん、と頬をはたいた。
「……ウィル君、私が私の事をきちんと話せないのは、それなりに理由があってなの。知りたいと思うなら、不満があるなら、私に言うべきでしょ? あたるなら、私にあたって。バルレルにあたらないで」
「……分かりました」
 ほっとしたのも束の間――、一つの影が直ぐ側に降りて来た。
「今の魔力は…!!?」
 ……天使。
 バルレルの天敵が、そこにいた。





次から次へとやってくる人々よ…。しかし私の力量ゆえに、
全ての人が書けないのであります。せいぜい、多くて3人ですよ…まともに
会話できるかなぁというのは…多人数って難しい。ゆえに中途半端(泣)

2003・12・12

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