集落めぐり 2 機界集落・ラトリクス。その名の如く、機械が一杯である。 はビルのような建物を見上げ、多分、リィンバウムの中では一番 『名も無き世界』 に近いのではないかと思った。 とはいえ、ここまで機械的な物はなかったと思うけれど。 あちこちで機械が動き回り、集落の整備をしている。 自分たちで電力やオイルを補給し、活動する。 彼らは壊れるその時まで、延々と稼動し続けるのだろう。 「凄いねえ、ココ」 「ラトリクスは機械の集落だからね。ここの護人はアルディラ。融機人なんだ」 「えっ、そうなの!?」 (ネスティの仲間じゃない! ……ん? ネスティ生まれてなかったりする??) 考え込んでしまったの顔を、下から覗きこむレックス。 「??」 「わ、びっくりした。いきなり顔覗きこまないでよ、驚くじゃない」 「あはは、ごめん」 微笑む彼は、とても優しい瞳の色をしている。 トウヤみたいだと思った。 「ここの道をまっすぐ行くと中央管理施設に着く。大通りだから、覚えやすいと思うよ」 きちんと整備された道は、この島の中ではかなり異質なのではないだろうか。 暫く歩くと、中央管理施設なる物が見えてきた。 管理施設というだけあり、大きなその建物の中に入ると、様々な設備があちこちに並んでいた。 活発に稼動しているらしい物もあれば、使用していないのか、完全に活動を停止させている物もある。 何枚かの自動扉をくぐって、中枢へと到着する。 開けたフロアに、機材と、研究用らしい書籍や、作業用が置いてあった。 モニタも設置されているが、今は電源が入っていない。 目線を配ると、休憩用らしいゆったりしたイスに、メガネを掛けた妙齢の女性が座っていた。 (…彼女が、融機人…) 一目で分かる。肉と機械で出来た人間。 ネスティは自分が融機人である事を隠していたので、こうして大っぴらに部位を見せる事はしなかったが、彼女の場合、島で生活する上で隠す必要はなかったのだろう。 人によっては、肉と機械が交じり合った部分に眉をしかめるかもしれないが、はネスティの事もあったし、微塵も嫌悪を抱く事はなかった。 「アルディラ」 「あら、レックス。…彼女が、マルルゥが言ってた新しく来た人?」 イスから立ち上がり、ふぅん、と言った表情でを見る。 は、やはりどことなく持っている雰囲気がネスティに似ていると思った。 そんな事を考えながら、軽く会釈をした。 「初めまして、です」 今日何度目かになる自己紹介。 ちょっと疲れてきた…かもしれないが、我慢だ。 「アルディラよ。呼び捨てで構わないわ、軽く話してくれていいし」 「うん、分かった。…アルディラ、ここの施設ってなにに使ってるの?」 「なにって…そうね、今はリペア・センターの管理、電力保持なんかに使ってるわね。それから、各所にある施設の動作補助や、異常なんかをチェックしたりするけど…殆ど使ってないのが現状ね」 レックスが首をかしげて、に問う。 「なにかしたい事でもあったのかい?」 「あー、うん。ここの施設を使えば、もしかしたら移動する位置や、時間を特定できるかなとおもっ…」 「………??」 なにを言っているのかさっぱり分からないという顔をするレックスにアルディラ。 慌てて手を振る。 「あ、あはは、気にしないで。ちょっと色々考えてるだけだから」 弁解になっていないような弁解だが、この場合仕方がない。 アルディラも少しだけ、なにやら考えていたようだが、やがて纏まったのか 「まあ、ここの施設にできることがあるなら、協力するわ」 とだけ言ってくれた。 「アルディラ様、お茶をお持ちしました…レックスさん、いらしていたのですか」 「やあ、クノン」 レックスが軽く手を上げる。 クノンは静かにお茶をアルディラに渡すと、お辞儀した。 「知っていれば、お茶をお持ちしたのですが。…そちらの方は」 「よ。新しく来た人」 アルディラが紹介すると、クノンは礼儀正しくにお辞儀した。 「私はフラーゼン、クノンと申します」 「ご丁寧にどうも…クノンさん、ですね。ところで、『ふらーぜん』って?」 「ああ、クノンは看護用機械なんだよ」 最初は俺も驚いたんだけどね、レックスが笑った。 驚いたなんてものではない。驚愕に目を見開く。 「アンドロイド!! うわぁ…ここで見るとはビックリ。私の世界じゃ、開発段階だったような気がするよ」 しかも、真の意味で成功したという記述は見た事がない。 ロレイラルの 『科学』 がどれ程のものかは分からないが、人工知能の分野ではかなり進んでいると思われる。 クノンは人間に限りなく近い。が見た限り、人間だ。 人として遜色がなく思える。 「貴方の世界って…」 「は、『名も無き世界』からこっちに来たんだってさ」 ちょっとだけ気まずそうな表情になったの代弁をするように、レックスがアルディラに告げる。 「事故でごく稀に…っていう、アレね…大変だったでしょう」 「まあ、一年以上住んでると、大分慣れるんで」 ……魔王と戦ったりしたしね、とは言わないでおく。 「次で最後だから」 「うん」 ラトリクスから南下し、鬼妖界・風雷の郷へと入る。 機界とは打って変わって素朴な家々が建ち、温かい雰囲気。 一番日本に近い感覚の場所だから、そう感じるのかもしれない。 「ここにゲンジさんがいるんだよ。でも、今日は挨拶しちゃおう」 鬼の御殿には、護人のキュウマとその主、ミスミがいた。 久しぶりの畳みに感動し、思わず頬擦りしたくなる。 の家は主にフローリングで、畳はほんの少ししかなかったのだが、こうして畳のすっとする匂いを嗅ぐと、やはりホッとしたり、懐かしく感じたりする。 ミスミなる人物はお姫様らしい。 …妙に威厳がある、ような気がする。 「よう来た。わらわがミスミじゃ」 「失礼します」 その直ぐ後に入ってきた男性は、たちの横を歩き、ミスミの斜め前に座った。 「私は護人のキュウマと申します」 「です、初めまして」 「…あの…なにか?」 余りにマジマジと顔を見ているものだから、キュウマが少々バツが悪そうに問う。 人に凝視される事に慣れていないのか…まあ、慣れる様なものでもないかもしれないが。 はハッとすると、慌てて手を振った。 「あ、えっと…鬼の忍者さんているんだなぁと…」 「シノビをご存知なのですか? …よく私がそうだと分かりましたね」 「一応…知人に忍者がおりまして。…足音が」 「足音?」 レックスが首を傾げる。 「うん、足音が…殆どしなかったから、そうかなぁって」 シオンの大将は、日中から足音を消して歩いていた訳ではないが、戦闘中は相手の隙をつくために、耳を澄ましても殆ど聞こえない程の足音でしかない。 彼に聞いた所、 『シノビは暗殺を生業としてますからねえ。相手に覚られないで行動するというのが原則ですし』 という答えが返って来た。 成る程と納得した覚えがある。 キュウマはを真剣な目で見据えた。 「失礼ですが、どうして旅を? 貴方の様な女性が」 「これキュウマ! それぞれに理由もあろうて。初対面で聞くような事ではなかろう」 「………御意。無礼をお許し下さい」 謝られ、苦笑いを零した。 「気にしないで」 旅の理由を聞かせろと詰め寄られたら、どう答えていいのか考えなければならない所だったから、ミスミが止めてくれて良かったとホッとした。 いつか言わなくてはならない日が来るかもしれないが、できればそれは避けたい。 本来この時代に自分――サプレスの花嫁――は、いないはずなのだから。 「それじゃあ、今日はこれで」 レックスが立ち上がり、もそれにならって立ち上がる。 …これで、四つの集落全てを見た。 旅をしている時よりは歩く距離が少ないと思うのだが、の体は既に疲労を訴えていた。 移動するためにゲートを開いたから、魔力と体力が著しく消耗しているのだろう。 (うーん、今日は早めに寝よう…) 歩きながらボケラっとそんな事を考えていると……突然。 「やーーーーっっ!!」 「うっわぁっ!」 …いきなり、突撃攻撃された。 一応、全部集落回りました。ぬぬ…ホントに回っただけですな。 …ほんとにオリジナルばっかりで申し訳な…;; 2003・11・20 back |