集落めぐり 1



 一の刻を少し回った頃、集落を回ろうと迎えに来てくれたレックスと一緒に、は島を見て回る事にした。
 バルレルも誘ったのだが、
「面倒くせェ」
 の一言で無に帰した。
 という事で、レックスとの二人でお出かけ、と相成った訳である。

 森の道を進みながら、周りをキョロキョロと見る。
 ……森自体は、外界とさして変わらない様に思える。
 道は踏み固められていて、それなりに通りやすい。
 まあ、街道ではないから多少でこぼこしているし、蔦なんかに足をとられそうになる場合もあるが、山道より全然マシだ。
「ねえ、レックス。あなたとアティは生徒を軍学校に連れてくために、船に乗ったって言ってたけど…軍の教官かなんかなの?」
「いいや。家庭教師なんだ。帝国の名家…マルティーニ家って知ってるかな」
 素直に知らないと即答。
 …だって、帝国なんて行った事がないし…話題にもさして上らなかったりするし…。
 それ以前に、この時代の名家など、知りようがないというか。
 レックスはと歩調を合わせながら、話を続ける。
「俺もアティも元々は軍にいたんだけど、辞めてね。それで家庭教師になったんだ。軍学校に入るまでの臨時だけど。は召喚事故でここに飛ばされたって言ってたけど…どこに住んでたんだい?」
「家は……えーと、サイジェントとゼラムにあるんだけど…。えっとね、私『名も無き世界』から呼び出された異邦人だったりするんだ、これが」
「ええ!?」
 あまりの驚きにか、彼の足が止まる。
 まじまじとの顔を見た。
 レックス、どことなく失礼ですよ、それは。
「あ、ごめん。ちょっと驚いてさ…」
「や、気持ちは分かるから」
 この世界で、自分の存在は異質なのだと認めている。
 かといってどこにいても自分は自分でしかなく。
 誓約者や調律者などという友人を持つと、こう…自分などは
 全然大した事がないと思えるから、こういう反応は逆に新鮮だ。
 …トウヤも、トリスもマグナも生まれてないけど。
「そうか…じゃあ、ゲンジさんと同じ所から来たんだね」
「ゲンジさん?」
「うん、ニッポンってトコから来たお爺さん。鬼集落にいるよ」
 おお! と思わず明るい顔をしてしまう。
 レナードさんに続いて二人目だ! と、喜んでしまうのはお門違いかもしれないが。
「後で会いに行くといいよ」
「うん、そうする」

 狭間の領域。サプレスの者たちの集落。
 足を踏み入れるとヒンヤリとしているが、寒いと言う程ではない気温が辺りを包んでいた。
 マナが豊富だそうで、バルレルを連れてこなかったのがちょっと悔やまれる。
 はレックスの案内で、護人・ファルゼンに会った。
 …第一印象。
 鎧。
「ふぁるぜんダ。カンゲイスル」
「ありがとう、ファルゼンさん」
「あれ? フレイズさんは??」
「ふれいずハ、イマ、ミマワリニ行ッテイル」
 見回り?
 小首をかしげるに、ファルゼンが説明を挟む。
「帝国兵ガ、動キヲ活発化サセテイル。空カラナラ、異常ヲ察知シヤスイ」
「なるほどぉ…って、空からって?」
「フレイズは天使なんだよ」
 天使…。召喚獣の島ならでは、だろう。
 是非、今度会ってみたい。
 アメルは天使アルミネだったけれど、あくまで人間だったから。
 本来の天使というのが如何な者か、興味本位だが気になる。
「じゃあ、ファルゼンさん、また来ますね」
「アア」
 お辞儀をして、次の集落へ。

「ファルゼンさんて、鎧の人なんだね」
 次なる場所、幻獣界メイトルパの集落――ユクレス村――へ向かい、二人はまた道を歩く。
向かうにつれ、徐々に見えてくるやたらと大きな木に、は感嘆のため息を零した。
「凄い木だねぇ、近づくにつれて、大きさが増すというか」
「ユクレスの木って言うんだ。ユクレス村の由来らしいよ。願い事が叶うんだって」
「へえ…」
 お願い事が叶う木…。
 元の時代へ戻してください。…なんて、叶わないだろうなぁ…。

 ユクレス村の護人は、ヤッファ。なまけものらしい。
 丁度、ヤッファの庵に来ていたマルルゥが
「シマシマさんは、いつもお昼寝してるですよ〜」
 と言った。
「ヤッファだ。お前さん、集いの泉に突っ込んだんだってなぁ」
「集いの泉?」
「マスターさんとアクマさんがいた、直ぐ後ろの泉の事ですよ〜。護人さんたちは、あそこで大事なお話をするのです」
 そんな大事な場所に落っこちて来るとは…何となく悪い気分になるだった。
「えと、です。…泉に落ちて、すみませんでした」
「謝るこたねえ。そんな事する奴は、この島にはいなかったからな。珍しく思っただけだ」
 ……珍しいのか。レックスが苦笑いする。
「ユクレス村には果樹園があるから、慣れてきたら行ってみるといいよ」
「ヒゲヒゲさんが一生懸命お世話してるですよ」
 ヒゲヒゲさん。そのままのイメージでいいのだろうか…。
「ヤッファさ…」
「ああ、ヤッファでいい。敬語もいらねえよ」
 手を振って言われ、素直にそうする事にする。
「ヤッファは、この島に来て長いの?」
「ああ、かなりな」
「この島には結界が張ってあるってホント?」
 一応、確認の為に聞いてみる。
 レックスやアティの話が嘘だといっているのではなく、あくまでも裏づけだ。
 ヤッファは軽く頷く。
「外界とこの島を遮断するために、結界があるのさ。…今は入れはするみたいだが、出るのは難しいだろうな」
「……そっか」
 入れるけど、出れない。
 外へ弾くのではなく、中へ閉じ込めるための物。
 檻。
 そんな言葉が、頭を過ぎった。
「ん、ありがと。また来るね」
「おう」


「次は機械集落、ラトリクスに行くよ」
 レックスに連れられ、歩いていく。
 泉の前を通りかかった時、彼は思い出したように
「ちょっとだけ休憩しようか」
 集いの泉へと、足を進めた。
 もそれにならって泉へと向かう。

 集いの泉の上に立つ建物の中で、ちょっとだけ休憩する。
 ――泉の上を風が駆ける音が、葉のざわめく音が、とても心地いい。
 水の上の揺り篭のようで、眠ってしまいそうになる。
「ここ、気持ちいいね。なんだか安心するし」
「集いの泉は、この島の四つの世界の力の合流点らしいよ」
「なぁる…」
 だから自分たちはここから出てきたのかと、妙に納得する。
 四世界の力が一同に集まっている場所だったから、自身の波長と合ってしまった。
 結果、ここに落っこちてきたのだろうと、は結論付ける。
 だからって、過去にさかのぼってしまった理由付けにはならないけれど。
「…あのさ
 呆けていた中でいきなり声をかけられ、はっとする。
 外へ向けていた視線をレックスに戻すと、彼の真剣な瞳が体を射ていた。
「えと、なにかな」
「ちょっと注意して欲しいんだ。今、この島には帝国軍がいる。それで…剣の事でモメてて…、気をつけていて欲しいんだ」
「……いきなり攻撃とかして来るの?」
「いや、そんな事は…。でも、気をつけて」
 心底心配そうに言うレックスに、は微笑みかけた。
「大丈夫、伊達に旅人してないんだから。忠告、ありがとう」
「いや。…じゃあ、そろそろ行こうか」
 うん、と頷くと、二人は立ち上がってまた歩き出した。
 向かうは、ラトリクス。



めぐってます。色々偽者では…;;
見ようによってはレックスとデートしているような…いいのかバルレル。

2003・11・19

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