暴走転移 3





「それにしても珍しいね、兄キ」
 とバルレルを案内し終え、船長室に戻ったソノラがしみじみという。
「ん? なにがだよ」
「こんな状況とはいえ、もしかしたら敵かもしれない人たちを、いきなり客人にしちゃうんだもん。戦いもしないで」
 それを聞いたスカーレルが、ソノラに口を開いた。
「ソノラだってそう言う割に、興味津々だったじゃない」
「ぶーぶー。だって、なんか気になったんだもん」
 カイルは腕を組み、ニッと笑い
「あいつらは敵じゃねえさ」
 軽く言ってのけた。
「なんで断言できるの?」
「目だ。の目は、誰かに囚われている目じゃねえ。規律や束縛を受け付けない目だった。だから、信用した」
 自分たち海賊と、似通った本質を持つ者だと。
 少なくとも帝国兵ではないと、そう思った。
 帝国の人間には、あの、海原を舞う風のような雰囲気は身に付けられない。
 ――まさに、旅人のそれ。
「……まあ、そんな理由だ」
 カイルとスカーレル以外には、あまり伝わらない理由ではあったが、ソノラは彼女たちに好意を抱いているため、理由付けなどこれで十分だった。
 そもそもソノラがを気に入っている理由だって理由付けがないのだから、どっちもどっちだ。
「後で一緒に――」
 ソノラが言葉を半分発した所で

「嘘おおおぉぉーーーーーーーーーーーッ!!!!」

 …の絶叫が響いてきた。
 一同は顔を見合わせ、一様に『どうしたんだ?』という顔をした。


 二度ほどのノックをし、レックスとアティがの部屋に入る。
「ど…どうしたんだ? 物凄い声が聞こえたけど…」
 アティが中の2人を見て、あら、と口元を押さえる。
 バルレルは眉間にシワを寄せ、頭痛でも感じているかのような顔をしながら床に座り込んでいるし、は頭抱えてベッドに突っ伏していて。
 ……何事だ?
 レックスとアティは顔を見合わせ…それから、とりあずに声をかけた。
 ――呆然としている。
 半ば無理矢理ベッドに座らせると、イスを引っ張り出して自分たちも座った。
「…えっと、?
「あぅ…はい…だ、大丈夫…うん。ちょっと落ち着いて来たよ、ははは」
 乾いた笑いを零すい彼女の隣に、バルレルが座る。
 誰に言うでもない本当に小さな声で、ポツリと呟いた。
「……だから、やめろっつたんだ…」
 それに気づかず、先生2人は場を和ませるような微笑みを浮かべ、話を始める。
 も気をしっかり持ち直し、会話に集中しようと佇まいを整えた。
 こうなった以上、帰るためにも状況把握は大事だから。
 先に口を開いたのは、アティだった。
「島の事を話す前に、私たちの事を詳しく話しますね。私もレックスも先生なんだけど、ここで ”先生” って言われてるのはレックスの方で、私は ”アティ先生” って呼ばれてます」
「二人は親戚とか?」
「よく言われるんだけどね。俺とアティは出身が同じ村で、帝国軍学校の同期だってだけで、血の繋がりは全くないよ」
 それにしては似ている…。
 顔が似ているというより、笑顔。
 浮かべる笑顔など、ほとんど同種のものだ。
 人を和ませる雰囲気を持っている。
 しかし、帝国……行った事がない。
 それ以前に、ゼラムやサイジェントがどうなっているのかも不明だ。
 二十年近く前という事は、そもそも自分は生を受けてすらおらず、金の派閥と蒼の派閥は断絶状態…無色の派閥の魔王召喚儀式なんて、カケラもない。
 そう考えると、は頭が痛くなる思いだった。
 自分の行動には気をつけなければならない。
 下手に歴史に干渉しようものなら、なにが起こるか分からないのだから。

 じゃあ、何故自分はここに…この時代にいる?
 頭に響いてきた声は、自分に協力を仰いでた。
 単なる移転事故ではない…んだろうか。

 ………思考が横にそれてしまった。
 無理矢理元に戻す。
 レックスがそれを確認して、話を続けた。
「この島は、元々 ”実験場” だったらしいんだ。施設を使って、大量の召喚獣を喚び出し、様々な実験をする…ね」
「…ケッ」
 バルレルが、さも嫌そうな顔をした。
 …彼は自分が以前まで同じように材料として使われていたから、その類の事には酷く嫌悪を示す。
 は彼の手を握って少し落ち着かせる。
「…この島には結界が張ってあって、外に出る事は限りなく難しい。船を出しても、戻されてしまうらしい。俺たちは、生徒を軍学校へ連れて行くために客船に乗って、嵐に巻き込まれて、ここに着いたんだ。
 ここの村人たちはサプレス、ロレイラル、シルターン、メイトルパの四つの部落があって、そこでそれぞれ暮らしてる」
 アティが引き継ぐ。
「集落の代表で、この島の守護者が ”護人”。後で案内しますから、会って下さいね?」
「うん。…えっと、おおよそは分かったけど…レックスのさっきの変化って」
 話題に上った瞬間、彼は目線を泳がせ、少々困ったような素振りを見せた。
 が、はそれを引っ込めるつもりはない。
 まるっきりカンだったが、あの変化の事は聞いておかねばいけない気がしたのだ。
 ――彼が変化した後に頭に響いてきたものも、他人事ではない。

 あの声は、『花嫁』 を知っているらしいのだから。

 レックスはまだ戸惑った様子を見せていたが、やがて困惑を振り切るように首を振ると、口を開いた。
「あの剣は、碧の賢帝…シャルトスって言って…元はヤードが探していた、二本の剣のうちの一本なんだ」
「シャルトスはこの島に関わりがあるんです。あまり詳しい事は分からないけど…島の重要な鍵っていう話で」
「…チッ、また厄介な所に…」
 バルレルが独りごちる。
 彼は、よりもあの剣を気にしていた。
 シャルトスなる剣が、いや、この島が――を喚んだ気がしたから。
 ”ゲート” が自分たちをここへ飛ばしたのは、剣が、島が、引き寄せていたような…そんな気がしてならない。
 バルレルの心中を知らず、話は進んでいた。
 ふと、レックスが思い出したかのように口にした一言を耳にするまでは。
「…、さっき剣を抜いた時、頭の中で 『花嫁』 って――あれは」
 君に対して言った発言だよね?
 と続けようとした言葉は、バルレルの物凄く厳しい目線で、中断された。
 一瞬、射すくめられたかのようになる。
「こらあっ、バルレル!」
 ばしこん。
「いてぇ!!」
 頭をひっぱたかれ、目線を外す。
 は謝りながら、どうしようかと考えを巡らし――
「んと、それについては…どうしよう」
 バルレルに意見を聞いてみた。
 自分は言ってもいいような気がするのだが、本来ならばこの時代に 『花嫁』 はいないはずで。
 秘密にしているのも気持ち悪いし、秘密なんてものはいつかばれるものだし…。
「…言うな。余計な面倒背負い込むんじゃねェぞ」
「あう…えっと、レックス、アティ、ごめん。今はまだ言えない。ただ、ここに迷惑をかけるような物じゃないし、称号みたいなもんだから――」
「うん、分かったよ」
「無理しなくてもいいですよ」
 二人とも、ごめん、と謝った。
 …謝るのは、私の方なのに。

「当面お世話になると思うけど、よろしくね」
 握手を交わし、微笑む。
 考えていても仕方がない。
 いつものように、その時を精一杯頑張るだけだ。
「うん、カイルたちがこの島から出る時は、ちゃんと港まで送ってくれるから…」
「それまで、よろしくお願いしますね」
 アティの笑顔に癒されてみたり。
 ――二人が立ち去った後、はベッドに沈み込んだ。
「…港かあ…。時代が違うんじゃ、意味ないよねえ」
「もういっぺんゲート開くにしても、結界をなんとかしねェとな」
 外に出られないほどの強力な結界ともなると、ゲートを開いた所で空間が歪み、多分ここに戻ってきてしまう。
 これからの事を考えると、頭が痛くなった。


「…ともかく、諦めずにガンバロ」

 まずは、島探索からかな…。




時間軸は、ゲーム8話〜9話の間に起こってる事です。
ほんっとにオリジナルな進みでスミマセ…;;
でも、お付き合いくださると嬉しく思います、はい。

2003・11・16

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