暴走転移 1 どばしゃーーーーん。 叩きつけるような音と共に、とバルレルは湖の中へと突っ込んだ。 目の前が水の青い色で彩られ、一瞬、上下感覚が滅茶苦茶になりパニックに陥るが、上から差し込んでくる光をあてにし、なんとか水面に顔を出す事ができた。 「っぷはぁッ!! おい! 平気かっ!?」 彼女はバルレルの腕の中で多少ケホケホと咽ながらも、「ヘーキ」 と答えた。 とりあえず陸に上がる。 なにも水の中で延々と会話する事もなかろうて。 「うー…手足が微妙にジンジンと…」 「結構な高さから落ちたみてぇだからな」 言いながら上を見上げるが、自分たちがどの辺りから落ちてきたのかは分からない。 突然、空中に放り出されて冷静に周囲を見回せる者など、そうはいないだろう。 は深くため息をつくと、湖が下にあった事を感謝し――それから周りを見回した。 椅子の備え付けられているらしい建造物がすぐそばにあり、それ以外は森の木々が生い茂っている。 ――街道とは呼べない広さだが、道もある。 だが当然というか何というか……ここは目的地であった ”日本” ではない。 リィンバウムのどこかかだろう。 この世界の草花があるのだから、間違いない…多分。 は過分に水を含んだローブを脱いで軽く絞り、荷物を確認した。 何も吹っ飛ばされていない。 「…バルレル、ここ、どこだろうね」 「知るか」 あっさり切り返す。 ――が、突然形容しがたい表情になり 「……四つの力が集ってんな…なんだァ? ここは」 と腕を組んだ。 には彼がなにを言っているのかサッパリ分からなかったが…何やらおかしい所、というのだけ頭に留めた。 「どうしようか…」 「どの方向行くか決めて、歩くしかねェだ…」 「あややぁ〜!」 「「??」」 いきなり割り込んできた声に、二人は思わず顔を見合わせ振り向いた。 ――そのままは目を剥く。 何たって、妖精がいたのだから。 「よ…よう、せい?」 小柄サイズの妖精は、ひらりんと目の前までやって来ると、可愛らしい目で二人を見た。 バルレルがニヤリと笑う。 「……妖精の魂かぁ……ってぇ!!」 ごちん、と音を立てがバルレルの頭に鉄拳を叩き落す。 「アホな事言わないの。…あの、えぇっと…妖精さん?」 驚かせて逃げられてしまわないよう、物腰丁寧に話し掛ける。 妖精はほわほわとした微笑を浮かべ、 「マルルゥって言うですよ」 自己紹介し、矢次に言葉を発す。 「あのぉ、この島では見かけない方々ですねぇ。マルルゥ、泉がばしゃーんて凄い音したのを聞いて、急いで来たですけど…」 「あ、それ私たちが落ちてきた音だと…」 「落ちてきたですか!? お船でこの島に来たんじゃないんですかぁ…あっ!! お二人とも、はぐれさんですか!?」 島なのか…と思いながら ”はぐれ” 発言に慌てて首を横に振る。 「違うよ。私はって言って…こいつ……バルレルのマスターというか。とりあえず、人間」 …しかしよくよく考えてみれば、自分の存在は非常にはぐれに近かったりする。 が、そもそも誰かのために呼び出されたわけではないし… なんてどうでもいい事を考えていると、マルルゥなる妖精が嬉しそうにくるんと回った。 「マスターさんに、アクマさんですね」 …名前じゃないんだけど。 突っ込みを入れようかと思ったが、彼女なりの友好の証なのかと思って、何も言わない事にした。 ともあれ、聞く事はたくさんあるのだ。 「えーと、マルルゥ?」 「はいです」 「ここはリィンバウムのどの辺?」 「海の真ん中なのです」 ……駄目だ。 聞き方がまずいのか、彼女が説明に…向いているようにはとても見えないが…苦手なのか、知りたい事に的確な答えは望めそうもない。 ”この島では見かけない方々” そう彼女は言っていた。 と言う事は、他にも人…ないし話が通じる者がいるかもしれない。 「あのねマルルゥ。誰か、ここの事を詳しく教えてくれる人とか、いないかな」 「……ま、その方が建設的ってモンだな」 バルレルが呟くように言う。 マルルゥは少し考える素振りを見せ、 「護人さんがいいんでしょうか…でも…」 もりびと? よく分からない言葉だが、守人か森人か…守る者だと推測。 「…あ! そうです! 先生さんがいいですね!」 「先生?」 思わず聞き返すに、マルルゥは微笑みながら 「そうです〜」 と頷いた。 「マスターさんもアクマさんも、こっち来て下さい。案内しますですよ」 「え、あ、うん…ほらバルレル、行こう」 「…オウ」 何処となく一抹の不安を残しながら、二人はマルルゥの後に続いた。 涼しげな森の中の道を、マルルゥにくっついて歩いていく。 バルレルも文句を言う事なく後に続いていた。 それにしても…。 「バルレル、ここってなんか妙な感じがするんだけど」 「だろうな」 「へ?」 バルレルは眉根を寄せたまま話を続ける。 「四世界の力が充満してやがる。言ったろ? ”四つの力が集ってる” ってよ」 「で、なんで私が違和感を感じなきゃいけないの」 「アホ。テメェの力は四世界に特化してる。取り込む力が多ければ、無用に魔力が膨れる。…要するに魔力切れがねぇんだよ。吐き出しても、すぐに魔力吸えるからな。 違和感は、力が充満しすぎて飽和してるからじゃねぇの? 三棲いねぇでも魔力満ちてるんだからな」 「…よく分かんないけど、分かった」 分かってねぇんじゃねーかよ。 思わずげっそりするバルレルだった。 「もうすぐ到着ですよ〜」 「船?」 森を抜けた所に一隻の船があった。 ファナンの中型商業船と同じか、それ以上に大きい。 ……が。 「…はためいてんのって、海賊旗じゃねェか?」 心中を察したかのようにバルレルが言う。 そう。その船には、海賊旗がついている――という事は。 「海賊船??」 「そうですよ〜」 と明るく言いながら、マルルゥが説明を挟んだ。 「あれは船長さんのお船で、先生さんもあそこに住んでいるのですよ」 「そ、そっか」 船長さんの名前を聞こうとして、やめた。 多分聞いても無駄だから。 もバルレルも、ファナンでトリスやマグナたちがモメたという海賊の ジャキーニとかいう男のイメージが強く、あまり ”海賊” というものにいい印象がないのだが…この場合仕方ない。 もしかしたら、悪いイメージを払拭できるかもしれないし。 「さ、行くですよ」 立ち止まって船を見ている二人を急かすように、マルルゥは声をかける。 なるようになるだろうと内心で小さなため息をつき、それぞれ歩みを進めた。 えー、戯言の時間です(なんだか) …本編に絡むのは大分先になってしまいそうです。ゴメンナサイ。 マルルゥに女主とバルレルを何て呼ばせるか考えた結果、安直なものに。 2003・11・11 back |