凍るダイヤ



 綺麗なレストラン…。
 たとえば、フランス料理店とかで、ちょっと薄暗い証明で、傍にロウソクの灯りがあって……ワイングラスなんかに光があたっていたりして。
 そういう、ムードのあるお店で告白してたりするシーンがドラマであったりするけど…そんなのとは似ても似つかない告白で。
 ――それでも、とても穏やかで幸せだったりする。


「夕食がファーストフードっていうのも、かなり味気ないね。」
「レンジディナーだって味気ないだろうが。」
 そうだけど、と言い、ポテトを一本口に運ぶ。
 周りは学生やらサラリーマンやら、人は多い。
 ファミレスで食べてもよかったのだが、弘樹が後から来るだろうということもあって、学校の近くにあるファーストフード店で夕食を食べることに。
 材料を買って帰って作ればいい話なのだが、三人ともやる気がなかった為にこうなった。
 ―本当は茂が食事当番だったのだが。

 粗方食べ終わっても、弘樹はまだ姿を現さない。
 またどこかでヘマでもして、足止めをくらっているのだろうか。
「弘樹、大丈夫かなぁ…。」
「なぁに、ガキじゃないんだから迷子にはならんよ。」
「そうじゃないって…。」
 苦笑いしながらジュースを飲む。
 口の中に、オレンジの味が一杯に広がった。
 世間一般様から見たら、どういう風に見えるんだろう、なんて考えてみる。
 …やっぱり、娘と父に見えるんだろうか。
 実の所、周りから見ると彼氏彼女には見えないが、父と子にも見えない。
 何しろヒゲなしの茂はかなり若く見えるので、色目を使ってくるおネーちゃんもいるぐらいだ。
 茂もヒゲ剃りを、もはやに言われなくても義務のようにやっているし。
(ちょっと若い嫁さん、に見えるといいなぁ…)
 は一人、そんなことを考えながら外の景色を見ていた。

、右手出せ。」
「?」
 いきなりの発言でよくわからなかったが、ともかく、手についたポテトの油をナプキンで拭き、茂の方に向かって右手を差し出した。
 茂は、自分のポケットに手を突っ込み、ゴソゴソなにかを探したかと思うと拳の中に物を隠し、の手の平の上まで持って来ると、拳を開いてその上に物を落とした。
 ……一瞬、なにが自分の手の上にあるのかわからず、マジマジと見てしまう
「お前にやる。…粗末にするなよ。」
 傍目に、少し赤くなっている茂。
「…これ、指輪?」
「ドーナツにでも見えるか?」
 そんな訳ないでしょと言いつつも、右手に指輪を通そうとするが…。
「バカ、右じゃない、左だ。」
 茂が自分の指をさして、ココにつけろ、と無言で訴える。
 とりあえず、素直に言われた箇所にそれをつける。
 小さなダイヤのついた、可愛いデザインの指輪が、の左手の薬指に座をおさめた。
 ……ここに来て、やっと、その意味を理解する。
 左手の薬指の指輪の、意味。
 嬉しくて顔がニヤケそうなに茂は頬を赤らめたまま、彼女の手を握った。
「おじさ…茂、これ…。」
「今一度、ちゃんと言うから、よく聞いとけ。」
 真剣な眼差し。
 繋がれた手がとても熱くて、は心臓が爆発しそうな気分になる。
 周りの雑音が、二人の耳から遠ざかる感じすらした。
、俺と、一緒に…なってくれ。」
 間を切りながら、一生懸命に思いを伝える茂。
「…俺と結婚して欲しい。」
 きゅっ、と、茂の手がの手を強く掴んだ。
 彼は目を瞑り、ゆっくりとまぶたを開く。
 茂らしくなく、瞳に不安をたたえて。
 一度返事をもらっているようなものだけれど、それでもこうやってハッキリ言うと、不安が身を揺るがす。
 は微笑むと、自分も彼の手をきゅぅっと握った。
「茂、さん。私でよければ…結婚して下さい。」
 茂がホッとしたような表情を浮かべ、指輪をつけたの手に、そっとキスをする。
 二人、高揚した顔を見合わせ、恥ずかしそうに微笑んだ。


 もう、不安になることはないと。
 何があっても大丈夫だと………そう、思ったのに。
 幸せ、だった、のに。



 茂から指輪を貰って二ヶ月程経った頃、私は学校の特別授業の一環として行われる、交換留学(といっても国内)らしきものに出る生徒として選ばれ、いわゆるホームステイをし、語学(主に英語)の勉強をしていた。
 期間は四ヶ月という結構実に中途半端な感じではあったが、弘樹や仲間、何より茂叔父さんと離れてるのがかなり辛い。
 叔父達のいる新都市は海の上、元BG近くにある為に、行き来はどうしても飛行機。
 そんなに遠くはない場所に住んでいると思っていたのだけれど、内陸から見たら結構遠くにあるみたいで、時間も料金もいい感じに高い。
 自費で戻ったり出来ないので、四ヶ月間は皆と会えないのかと思っていた。
 ――んだけど。


「え?」
 先生に呼び出され、告げられた言葉に自分の耳を疑った。
「だから、中間報告の為に元の学校に戻って報告書を提出してきて欲しいの。」
 書類ぐらいなら郵送でも構わないだろうに、と思って不思議そうな表情をしていると先生が付け加えた。
「片山さんだって、ご家族に会いたいでしょう?」
「!!」
 どうやら、ホームシックにかかる生徒が毎年いるらしく、こういう処置を取っているようだった。
 失礼だが、ホームシックにかかった子にお礼を言いたい気分で一杯。
 ニヤケる顔を必死に止めている私に、先生は苦笑いしながら説明を続ける。
「ええと、書類はコレ。なくさないように。一泊二日。学校の授業には出られないけれど、担任の先生にきちんと書類を渡して、ハンコを貰ってきてね。」
「はいっ、ありがとうございます!」
 思わず礼を言ってしまったが、嬉しくてしょうがないのだから、気にしないことにする。
「あちらの家の方に連絡できなくて…ゴメンナサイね、今年は急だったから…。」
「いいんですけど…出発って…?」
「今日の、午後10時発の便なのよ、慌しくなってしまうけれど…。」
 ――本当に急だ。

 外に出て、ポケットにしまっておいた指輪をつける。
 茂に貰った、指輪。
 光を浴びて反射して、凄く綺麗に映える。
 とにかく新都市に戻る機会ができた。
 ステイして二ヶ月強。
 明日の日曜の朝には、新都市についているはずだ。
「皆、元気にしてるかなぁ…。」




プロローグ?らしきものです。
まだ全編執筆していないので、何話になるかは不明ですが…五話ぐらいになるかなぁ…。
少なくなる可能性もありますけども。
とりあえずさわりだけ今回書きましたが、これを踏まえて後の話を読んでくださいませ(笑)
あ、なんでファーストフードで告白か、というと
情けない場所(ふさわしくない場所)でプロポーズして欲しかったからです(爆)
候補として、コインランドリーってのもありました。
結婚してくれとか言ってる横で、洗濯機がゴウンゴウン回ってるの(爆笑)
余りに情けないので、流れましたが。
何気なく渡すのは叔父の特権ですか。
余り間を空けずに次を書きたいんですが…原稿のみぞ知る(泣)

2001/12/5

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